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君にワーケーションはまだ早い

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君にワーケーションはまだ早い
記事:朝木亜佐(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
初めてワーケーションをしてみた。仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた長期滞在型の旅行スタイルである。
 
かつては、仕事と休暇はキッチリ分けるものと思っていた。旅先でくつろいでいるときに、仕事のことなど考えたくないというわけだ。しかしインターネット環境が整って、仕事に限らず、さまざまな事柄の境界線があいまいになった。
 
さらにはコロナ禍で、夫が完全な在宅勤務となり職住が一体化した。元から在宅ワークの私ともども「ネットさえ通じれば、自宅にいなくてもいいよね?」という状況に。
 
そこで人の少ない自然の中で、リモートワークもしながら、いつもより長めの夏休みを過ごしたいと考えた。自分たちの趣味や好みを充足できると、なおいい。山好きの夫に合わせて、北アルプスへのアクセスを重視。近くに温泉があり冬場はスキー客でにぎわうエリアに、エアビー(Airbnb)で見つけたリゾートマンションの一室を借りた。
 
行ってみると、想像していた以上に人が少なく、のどかな空気が流れていた。滞在先の周辺では、登山の装備をした人たちが行き交ってはいるが、自宅近くの商店街の賑々しさに比べれば、はるかに穏やかだ。
 
日中は晴れていると気温が30度を超えるが、朝晩は涼しい。裏の山では、なぜかウグイスとヒグラシが同時に鳴いていた。いつもの街なか暮らしで聞こえてくる雑多な音とは味わいが違う。そして夜は真っ暗。ふだんいかに、せわしない音と光にさらされているかに気づく。
 
一日はゆったりと過ぎる。私は早朝から午前中にかけて仕事をし、午後は自由時間。ダウンロードしたきり放置していた電子書籍を読みあさったり、スキー場のリフトに乗って山の上に行き、軽いトレッキングをしたり。山奥にある露天風呂につかりに行った日もあった。夕食後は、気が向けば家族でボードゲームをすることも。
 
夫はかなり積極的に環境を満喫している。この機を逃すまいといった勢いで、何度も山登り。ふだんの仕事漬けの反動か、水を得た魚のように生き生きとしている。
 
「仕事をしているのか、遊んでいるのか?」と問われれば、やはり遊びというか、リラックスすることに焦点が当たっている。ふつうの旅行も好きだが、「生活」に軸足のあるワーケーションもなかなかいい。たとえて言うなら、コンビニで手に入れる超大物アーティストの公演チケットのようだ。日常生活のなかに、コンサートという非日常への入口があるみたいに。
 
自分でも意外だったのは、家がちっとも恋しくないことである。コロナ禍でずっと自宅に引きこもっているのが、地味にうれしかったのに……。ワーケーションでは、「日常生活」を送りながら、ほんの少しだけ行動範囲を拡張して「非日常」に足を踏み入れる。家でお昼を軽く済ませたあと、ふらっと山奥の温泉に行き、帰ってきてから夕飯を自炊する、というように、日常と非日常の境目があいまいなのだ。
 
この手軽な行ったり来たりが心地よい。ガチの旅行とはまた違う、ほどよく力の抜けた時間。それでいて、自宅にこもっているだけでは得られない刺激もある。夫婦で「これはハマりそうだ」と感じた。
 
ところが、中学生の息子が「家に帰りたい」と言い出したのである。場所は違っても、家族三人で缶詰になっていることに変わりはない、だったら自宅の方がいいと。
 
なかなかユニークな夏休み、と満足していたのは親だけだったということか。同じ缶詰でも、朝晩涼しくて過ごしやすい、山の家の方が快適ではないのだろうか?
 
「お母さんにはそうでも、ぼくには全然魅力じゃない。一人でふらっと行けるところがないじゃん。コンビニも遠いし、ファミレスもないし……」
 
ファミレスなんか、いま家にいたって行かないでしょうにと言いたいが、
 
「そういうことじゃなくて!」
 
一人になりたいんだそうである。うるさく干渉しているつもりはないし、息子が一人になれる空間も一応ある。たしかに、ちょっと思い立って友達に会いに行ったりすることはできないが、それとてコロナ禍では、自宅にいても似たようなものではないか。
 
息子は14歳。もう親と一緒にいたい年頃ではないのだ。顔を突き合わせている時間を減らすどころか、コロナで逆に増えてしまったのはお気の毒さまだが、「一人になりたい」と強く願っても、現実的には自立できているわけもなく、仕方なしに親について来た。
 
「けど、ほとんど家みたいにしてるんだったら、意味なくね?」
 
自宅にいるような環境から、境界線を意識せずに非日常へアクセスできることが、醍醐味なんだけどなあ。君にはまだわからんか。
 
テラスに座ってくつろいでいると、さまざまな鳥の声、虫の音が耳に入る。やわらかい風が木々を揺らす。雲が近く、木の上から手を伸ばせば届きそう。自然が織りなすハーモニーに身をゆだねながら、頭はいつもより活発に回転しているような。仕事のアイデアも湧きやすい……というのは錯覚か?! 息子がなんと言おうと、やはり休暇と仕事の取り合わせも悪くないと思えるのである。
≪終わり≫
 
 
 
 
***
 
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2020-08-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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