メディアグランプリ

バッティングセンターで苦手を打ちかえした話


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:畑澤直希(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
在宅ワークで疲弊していたので、休日くらいたまには外に出ようと大塚駅にあるカフェに向かった。
 
しかし、寒い。外の気温とうって変わって、とにかく寒いのである。初夏のあるあるだが、外界の気温と中のクーラーの気温の差が半端なく、ものの10分で腹を下してしまったのである。このままではまずい。とりあえず外に出て暖まろうと、カフェのバルコニーに出た。
 
バルコニーからは「のれん街」という居酒屋街が見渡せる。看板には「ハッピーアワー1時間500円飲み放題」という文字が見えた。これは飲むしかない、と、痛いお腹をさすりながら思った。だって、暑いんだもの。きっと暇であろうと、大学から10年来の友人を誘った。
 
1軒目は外の立ち飲み屋にした。彼とは月に1回飲んでいるので、話している内容は正直覚えていない。ある程度酔っぱらったあとに「大塚駅前のバッティングセンターに行こう」ということになり、了承した。ほろ酔いのまま、すぐに大塚駅前のバッティングセンターに向かった。
 
実を言うと、バッティングは得意ではない。今でも忘れない、2017年に友人と流れでバッティングセンターに行くことになった時のこと。結論から言うと、1球も打てなかったのである。正直何球かは打てると思っていたけれど、空振りの連続。周りには玄人が多く、白球を打つ音が聞こえてくるたびに羨ましく思った。あまりにも恥ずかしく、空振りをするたびにネット裏にいる友人の方を向き、「こりゃむりだわ〜」とジェスチャーをして見せて、少しでも恥を緩和しようとしていた。俗に言う、正当化のためのジェスチャーである。
 
終わった後、「お金払って素振りしてたね」と言われた。そのフレーズがめちゃくちゃ面白かった。いい例えするやんけ、と心の中から友人を称賛した。同時に、自分の中では「バッティングは苦手」という意識が芽生えていた。お金を支払って素振りってなんやねん、と。とても惨めな気持ちになった。
 
バッティングセンターに向かう途中、そんな昔の出来事を思い出していた。酔っ払った勢いで来てしまったが、お金を払うタイミングでちょっと後悔し始めていた。どうせ打てないだろうと。
 
90キロのストレートが打てるボックスに入り、得意げに素振りしてみる。後ろの友人を振り返り、「絶対打ってみせるぜ」とジェスチャーをしてみる。我ながら、カラ元気である。コインを入れると、ピッチングマシーンがゆっくりと動き出し、キリキリという音を立てながらボールを運んでいる。第1球が迫る。ボールを目で捉えているが、90キロってこんなに速いんだ、と感じた。そういえば、高速道路で90キロを出すって結構速いし、下手したら死んじゃうよね、とも思った。そんなことを考えていたら、もう2〜3球も空振りしていた。
 
隣のバッターボックスでは、親子できたのか、小学校高学年くらいの子どもが明らかに自分より速い球をガンガン打っている。お互い右打ちで、こちらからはその子どもの背中しか見えないが、心なしか「お前は30年近く生きてそんな球も打てないのか、くそアラサー」と言われているようで、だんだんと恥ずかしくなってきた。背中で語るとはこういうことか。小学生、侮れない。と、考えていたらもう4〜5球空振りしていた。
 
そんな状況に耐えかねて思わず、後ろを向いて「こりゃむりっすわ〜」というジェスチャーをしてみた。打てない許可を求めたのである。とても情けない。見かねた友人が「体の正面で打とうとしているからダメなんだよ!横で打て、横で!」と酔っ払いながら声をかける。そんなことで打てるわけないだろと思いながら、半信半疑で体の横でボールを打とうとしてみる。「カキン。」当たった。正確に言うとかすった。そう、それまで気づいてなかったのだが、普通はピッチャーに対し、左肩を前にして横向きで直角に向き合うのであるが、わたしは体を真正面にして打っていたようだ。これが恥ずかしいことに、全く気づかなかったのである。
 
2〜3球続けてみたら、徐々にボールにバットがかするようになってきて、手応えが湧いてきた。友人が「へそでうて!」と、酒臭い声でヤジを飛ばす。よっしゃリクエストありがとうと、へその付近で打ってみる。「カキン!」と音がして、ボールが見たこともない軌道で打ち上がった。そのまま、空に浮かぶ直径50センチくらいの白い的に当たった。「おめでとうございます!ホームランです!」昭和の古いアナウンスがバッティングセンターに響き渡った。昭和のアナウンスとともに、あらゆる恥ずかしさが消える音がした。その瞬間、無意識にガッツポーズをしていた。
 
成功体験は苦手意識を根底から塗り替える。できないことを恥じてするジェスチャーは、ほんのふとしたアドバイスによる気づきで一生することはなくなった。やり方を変えてみると、案外一生できないと思っていたこともできたのである。そう、やり方を変えるだけなのだ。ボールを横で打つだけなのである。めちゃくちゃに簡単に聞こえるが、案外一人で気づけなかった。一人でできないことは、第三者が解決してくれることもある。案外、第三者の目の中に苦手克服のヒントがあるのかもしれない。
 
さてどうしよう。苦手を克服する術と、克服した時の幸福感を知ってしまった。手始めに、昔からのコンプレックスをなくしていこうか。今年でアラサーを迎えるが、いまだに逆上がりができないのだ。小学校の時にずっと惨めな思いをした。クラスの端っこで「つばめ」しかできなかったわたしだけど、きっとやり方を変えたらできるのだろう。でも、一人じゃできなさそうだからまた友人に見てもらおうかな。わたしの中の苦手たちよ、首を洗って待っていなさい。30歳を迎える今年、この先の人生が少し楽しく思えてきた。
 
 
 
 
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2020-08-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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