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銭湯が愛おしい。理由はわからない。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:エリイ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
近所の銭湯が好きだ。
突然目の前の人にそう告白されたら、
なぜ? とあなたは理由を聞きたくなるだろう。
 
だが、今の私にその質問されてもうまく説明ができない。
 
根っからの銭湯好きであれば、休日は遠出してまでも様々な銭湯を開拓しているだろう。
そして、あそこの銭湯の設備がどうとか、サウナがあるとかないとか、アメニティの充実度や番頭さんの愛想の良さなど、うんちくや評論を語り、挙句に星の数をノートにつけるだろう。
 
いや、私はそんなことしない。
私の銭湯への向き合い方は、その銭湯そのものを受け入れる、まるで穏やかな気持ちの僧侶のようだ。星なんて付けない。
 
好んでよく通っているのは、家から徒歩3分の銭湯。
 
銭湯サイトによると、今のご主人は三代目、創業は昭和25年。50年間という長い間、地元民に愛されるトロットロ、レトロな銭湯だ。(銭湯のスペック調べてるじゃん。と思った方、ここはお見逃しください。)
 
とはいえ、50年もずっと姿かたちが変わっていないという訳ではなく、壁画のペンキ絵は塗り替えられ、脱衣所の内装にも今までリニューアルが何回かあった跡が見られる。
秘伝のタレを代々継ぎ足している、そんな感じのする銭湯である。
 
私がこの銭湯に心惹かれていく気持ちは、
好きな人ができて、ちょっとずつ距離が近くなってきたあのウズウズする感覚と似ている気がする。
 
顔がタイプ。声がいい。穏やかでいつも優しい性格。だから好き。
こんな風に簡単に説明できるのは、ただの憧れで、ウズウズはしないだろう。きゅんきゅんだ。
 
ウズウズはきゅんきゅんの次だ。
朝が得意なタイプでしっかりしていると思ったのに、寝癖がついていた。
寡黙な人だと思ってたら、人一倍周りを見て気を遣う人だった。
知っていた側面とは真逆の一面を見た時、愛情が湧いてくる、それがウズウズである。
 
完璧な人なんていない。人にはそれぞれ必ずデコとボコの二面がある。
通常、デコボコと聞くと、アンバランスで、見る者を不安にさせるような印象がある。
しかし「興味、関心、ラブ」というフィルター越しには、絶妙なバランスで立つ魅力的なアート作品のように感じるから不思議だ。焦らされ、驚かされ、騙され、最後は心をさらわれていく。
気付いたら、デコボコをなぜか全て受け入れていて、さらにその人の半径2メートル範囲の空気すら好きになる。
 
銭湯の脱衣所は、大正昭和を感じさせる焦げ茶の木製の天井から、女子なら思わず「かわいい〜」と声を上げてしまう和モダンの薄いグリーンの照明が下がっている。
それなのに大浴場は、壁一面が明るい元気な水色にびたーっと塗り潰され、柱にはピンク、きいろ、オレンジ色のアクセントが所々に入る。まるで幼稚園の教室みたいだ。
 
おやまぁ。
 
洗い場の入り口には、見慣れた黄色い「ケロリン」の桶がある。お湯が出る蛇口も押している時間だけ出るタイプ。子供の頃に行った地元の銭湯と変わらぬ光景にホッとする。
入浴を済ませ、脱衣所に戻ったあとは、急いでスキンケア。
その次に髪を乾かすのだが、ここにある備え付けのドライヤーが、吸引力が変わらないと謳う有名高級掃除機メーカーが出している最新機種のドライヤーである。
 
あらまぁ。
 
往年のコント番組のようなずっこけをしたくなるくらい、デコボコが連続発生する。
 
内装や設備だけではない。私がデコボコだと感じるのは銭湯のそのものの構造だ。
あまり広くない空間の中で、皆生まれたままの無防備な格好をしているのに、
私が「どこの誰か」知っている人は一人もおらず、もちろん私も「誰が誰か」知らないという事。
 
背中を流し合うとか、裸の付き合いとか、銭湯にまつわりそうな言葉は、人と人が交流する事で始まり、仲の良さを表現するものなのに、私はこの銭湯で誰とも交流していない。
とても不思議だ。
 
大きなお風呂でぼーっとしていると、体を洗う順番とか、シャンプーの種類とか、洗顔の仕方とか、どこの誰か知らない人のクセがふと目に入ってくる。
「見ている」という程でもないし、その人も自分ですら気付いていないクセを私に見抜かれているとは思っていないだろう。
お互いに物体としてそこにいると明確に分かっているのに、関心は一切ない透明人間だ。
裸の付き合いをしている同士なのに、透明人間同士なのだ。
そういう普段ありえない人間関係が銭湯の独特の雰囲気でありデコボコで、思わずウズウズするのである。
 
さて、私の銭湯好きはここまで表現しないと理解してもらえないだろう。いや最後まで聞いてもらっても理解できなかったかもしれない。
「好きなタイプは好きになった人」なんて言うけど、まさにそう。
銭湯でデコボコを発見し、その度ウズウズしてきたエピソードの一つひとつが愛おしいのだ。
女子の恋バナやのろけ話が尽きないのも、デコボコエピソード0話から10話までを話題にしているからであり、仮に「顔と背格好がタイプ。以上」だったら、オーダーしたコーヒーも熱いままだし、アイスティーはびしょびしょにならないだろう。
 
のぼせない手前でお湯からザブンと上がり、ミニシャンプーセットや体を洗う丸い泡立てネットをまとめ、浴場を後にしようとする。
水気を切ろうとブンッと振った丸い泡立てネットが、勢いよくコロコロコロ〜と飛んでいってしまった。
その飛んでいく様子が軽やかで滑稽だったので内心クスッと笑っていたら、同時にクスッ声を出したおばさんと鏡越しに目があった。
その一瞬だけ、おばさんとは透明人間同士でなくなり、飛んでいった泡立てネットのおかしさを共有できる裸の仲になった。にっこり会釈しあった。
 
デコボコが変化球でやってきて、またちょっと銭湯が愛おしくなった。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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