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メディアグランプリ

オンドル部屋で学んだ、“人助け”の極意


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かなたあきこ(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
「え!? まだ定刻まで30分あるし! ほらほら、チケットに時刻書いてますよ!」
韓国・ソウルは仁川(インチョン)空港の、日本行きの国際線搭乗カウンター前。搭乗券と腕時計の文字盤を交互に指しながら、拙いにも程があるカタコト英語(しかも興奮しているのでほぼ日本語とのちゃんぽん)でまくし立てているのは、若かりし頃の私&女友達の2人組である。人生初の飛行機の乗り遅れを体感して、パニックになっている哀れな女子旅の末路を想像してほしい。
 
保安検査場の締め切り時刻を過ぎてから空港に到着した場合、たとえまだ飛行機が飛んでいなくても、搭乗できない場合がある――もちろんそんな事は百も承知だが、まさか自分たちの身に降りかかるとは思ってもいなかった20代の頃の苦い記憶だ。
 
事の真相は、まさかの“空港間違い”であった。飛行機乗り遅れトラブルを起こしてしまったのは、今から20年近く前の2001年冬のこと。その年の春に、長くソウルの玄関口として使われていた金浦(キンポ)空港に替わる国際空港としてオープンしたのが、仁川(インチョン)空港だったのだ。
この2つの空港は、いわば東京における「羽田」と「成田」のような位置関係にあると言っていい。ソウル市内にあって小規模な金浦空港と、郊外に新しくできたハブ空港である仁川空港。要するに、羽田に行く感覚で都内中心部からタクシーに乗ったら、あれよあれよと千葉県は成田市まで連れて行かれてしまったようなものだ。いつまで経っても空港は見えてこないし、料金メーターもぐんぐん上がる。気づいた時は、もう手遅れ。そりゃ、確実に乗り遅れるよね……という悲惨なシチュエーションだったのだ。
 
それまでにも何度か一緒にソウルを訪れ、「ソウル=金浦」と思い込んでいた我々のヘタな経験があだとなった。往路は確実に金浦空港に降り立ったはずなので、格安チケットだったが故に、復路のみ仁川空港からのフライトになったのかは定かではないが、とにかく往復で利用空港が違ったとしか思いようがない。
 
どうにかこうにか、飛行機が飛び立つ30分前には仁川空港に着いたものの、すでに保安検査場は閉じられ、果たして見事に日本に帰るフライトに乗り遅れてしまった。しかもその日の日本行きのフライトはそれが最終で、翌日に振り替えるにしても、早急に泊まる場所を確保しなければならない。
翌日からは二人とも、仕事がある。私よりも数段まじめな女友達は、半泣きで、どうにかならないかとカウンターで交渉していた。恥ずかしながら、私はすべてが悪夢の中の出来事のようで、かなりぼーっと放心状態にあったような気がする。
 
そんな時、まさに“地獄で仏”とも言うべき奇跡が起こった。私たちの惨状を見かねた空港関係者の韓国人女性が、翌朝一番のフライトへの振り替え手続きを代行してくれ、しかも空港近くの彼女の自宅に一泊させてくれると申し出てくれたのだ。
最初はそんなドラマチックな事が起きるわけない、もしかして騙されてる? 外国人観光客をカモにした詐欺? 誘拐? と疑心暗鬼になったが、どうやらその女性は本気のようだ。というか、初対面の日本人女子を助けて自宅にまで泊めることを、さして重要なことだとも思っていないような感じに見受けられた。
 
女性は年の頃、30代後半から40歳くらい。いわゆるアラフォーで、独身のバリキャリだという。翌年に開催を控えた日韓ワールドカップを目前に、急ごしらえの日韓親善をやらねばというタイプでもなさそうで、目の前にいる「困っている人」を淡々と助けるだけ、という感覚のようだ。結局、飛行機乗り遅れというトラブルに疲れ果てていた私たちは、一宿一飯の御恩を有難くお受けすることにしたのである。
 
今振り返ってもその夜のことは、あまり現実味がない。覚えているのは、突然招待された彼女の自宅が思いのほか散らかっていたことと(かえって親近感が湧いたのだけれど)、夕食に連れて行ったもらった夕食の韓国式焼肉がとにかく美味しかったこと。そして寝室にとあてがわれた部屋に、韓国式床暖房である“オンドル”がよく利いていて、掛け布団が要らないくらいホカホカで温かかったこと――。
 
彼女は空港関係の仕事だけあって、日本についてかなり詳しかったけれど、余計な事はあまりしゃべらず、こちらに矢継ぎ早に質問を投げかけてくることもなかった。仕事を終えて外食して、家に帰って寝るという、いつもと変わらない日常のワンシーンに、日本からの珍客が迷い込んだだけという風に振る舞っていたように覚えている。この、大仰じゃないあくまでクールな国際親善が、かえって忘れらない記憶として残ることとなったのだ。
 
一夜明けた翌朝、オンドルのほのかな温かさを名残惜しく思いながら身支度をして部屋を出ると、宿主の韓国人女性はとっくに仕事モードに切り替わっていた。ビシッとしたスーツに身を包み、小型のスーツケースを引く姿はデキル女そのもので、昨晩焼肉をつつきながらマッコリでほろ酔いになり、少しだけ砕けた感じの彼女はもうそこにはいなかった。
別れ際も実にあっさりとしたもので、無事に搭乗手続きを終え、ぺこぺこと頭を下げてお礼を言う私たちを前に、「お元気で」と軽く手を挙げただけで彼女は去っていった。最後までクールな態度であったが、真冬のソウルの厳しい冷え込みの中、私と女友達の心はいつまでもポカポカと温かかった。
昨夜泊まった、オンドル部屋のように。
 
この出来事により、私の中の“親切心”や“思いやり”に対するイメージは、決定的に変わることになった。『困っている人がいたら、親切にしましょう』なんて道徳の教科書に載ってるような標語は消し飛び、自分自身が誰かを助けるシーンに遭遇すると、あの女性の姿が目に浮かぶ。
自分のできる範囲で手を差し伸べ、無理は決してしない。人助けは特別な事でもなんでもなく、日常の延長ですべきこと。あくまでクールに、さりげなく。
 
コロナ禍で大変な世の中だからこそ、クラウドファンディングなどで助けたい飲食店や企業、劇団が山ほどある。
ささやかな一助が、じんわりと誰かの心を温めるオンドルのような存在になればいいなと思いながら、私は今夜も寄付のボタンをポチッと押す。
人助けはできる範囲で。あくまでクールにさりげなく、日常の延長で、と念じながら。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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