メディアグランプリ

マザーテレサのいるスターバックス


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

マザーテレサのいるスターバックス
 
記事:大塚啓介(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いらっしゃいませ」
誰もが幾度となく聞いたことのあるこのセリフ。これを聞いたときにあなたは何を思うだろうか。無論、何も思わないだろう。店に入ったときに聞こえてくる「合図」のようなものだ。
しかし、かつて私はこのセリフに心を撃ち抜かれたのを覚えている。マザーテレサに救われた、あれは高校1年生の時だった。
 
入学式が終わり、部活の説明会が始まった。ユーモアあふれる先輩方の勧誘芸で、学ランで黒ずくめの会場は盛り上がっていた。バスケ部、野球部、サッカー部……。次々と各部活の紹介が披露されていくが、私の目当ての部活はまだだ。
今か今かと見守る中、突如その時は訪れた。説明会の後半に差し掛かろうとした時だった。
「ぜひお待ちしております!」
前の部活紹介が終わり拍手の鳴り止まぬ中、坊主頭の先輩が一人ステージへ上がる。そして、
「テニス部の部活説明会は後日別途行います。日時は〜〜で、場所は〜〜です。以上です」
棒読みで一瞬だった。その説明会の日程だけ殴り書いたメモだけが残った。
まさか私はそれが全ての始まりだとは思ってもいなかった。
 
後日、所定の教室に行くと、すでに20人くらいの人がいた。異様な緊張感が漂っている。なんだか嫌な予感がする。
定刻になり、先輩が次々と入ってきた。するとおそらく教室後方から発せられたであろう
「こんにちは!!!!!!」
という絶叫が響き渡った。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、とっさに、私を含めた教室内の1年生は同じように
「こんにちは!」
と叫んだ。
 
すると先輩は
「お前ら、声小せえよ」
と言い放った。
その時、私の顔から血の気がサーッと引くのがわかった。あの嫌な予感は的中したのだった。とんでもないところに来てしまった、と。
 
説明会が終わったそれからは地獄の日々だった。入部部員の「選別」といってもいい4日間のトレーニング期間が始まったのだ。
まずは、みんなで輪になりスクワットをさせられた。何回とか何分間とかは言われない。次第に何人かバタバタと倒れ始める。苦しそうにもがく新入生に対し、
「その程度で終わるの? そんなんじゃ付いていけないぞ」
と容赦なく吐き捨てる鬼。
スクワットが終わると、次は階段ダッシュだった。無論、脚が文字通り棒になっているのに階段ダッシュなんて無理だ。時間以内に昇りきれない子に対して
「おせえよ! やる気あんのか!」
と罵倒する鬼ども。
階段ダッシュがやっとのこと終わっても、次は腕立て伏せ、腹筋、長距離ランなど……。脚も腕も使い物にならなくなり、もはや私はろう人形のようになった。まともに階段を降りることができなくなり、帰路の駅では、手すりに掴まりながら横向きでトボトボ階段を降りた。そんな学ランの私を横目に、スイスイと老人が階段を降りていくのを目にして、なんとも虚しい気持ちになった。
何より、私の心はひどく傷つけられた。校内で先輩にバッタリ会ってしまうと絶叫で挨拶しなければならない。そしていつ罵倒されるかわからない。いつ現れるかわからない恐怖に怯えながら、そんな日々が4日間続いた。
 
日に日に参加人数が減る中、ついに9人となった。私は絶対残ってやる、という反骨心を胸に、脚がもげそうになっても走り続けた。そして、とうとう4日目のトレーニングが終わった。やっと解放されついに部員になることができる、テニスが思う存分できる。そう内心で喜ぶ私だった。しかし鬼どもが突きつけてきたのは、とんでもない試練であった。
「明日からコートに入ってもいいけど、1ヶ月間は球拾いとしてやってもらうから」
 
私は発狂寸前だった。全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出し、サウナに入り続けたような感覚に陥った。鬼は残酷に言い残して、去っていた。呆然とする私だったが、現実は現実だ。入部を諦めるという選択肢もあったが、私はその鬼たちから逃げることは負けだと思ってしまった。やってやろうじゃねえか、そんな気持ちで私は受け入れた。
 
その帰り道、私はひとまず4日間のご褒美にとスターバックスに立ち寄った。久々だった。冷房がきいた店内、私はフラペチーノにしか目がなかった。レジの前に行き注文しようとすると、
「いらっしゃいませ!」
という声が。
目の前には天使がいた。
 
(え、ここは天国か……?)
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、あ、え、はい、えっと、抹茶クリームフラペチーノのグランデで」
「はい、かしこまりました!」
 
天真爛漫。
その笑顔は私の心を鷲掴みにした。
私を受け入れてくれている……? いらっしゃいませ? ウェルカムだと?
ついさっきまで、ゴミのような扱いを受けていた私には強すぎる刺激だった。
私のためにフラペチーノをつくってくれているだと? その事実に、感動してしまった。なんと私の目には涙が浮かんでいた。天使が働く店かここは……。
私は
「ありがとうございます!」
と絶叫を抑えきれていない大声で、フラペチーノを受け取った。そして涙をこぼさないように、逃げるように席へ向かった。変な人だと思われたであろうが、フラペチーノの容器をよくよく見ると、
「学校お疲れ様です(ハート)」
と書いてあるではないか。
 
涙はあふれた。
神か? 仏か? いや、マザーテレサか?
愛だ。これこそ「愛」だ。
 
もちろん今考えればただのホスピタリティだ。
ただ私にとっては確実に「愛」だった。そしてその「愛」を糧に、次の日からまた鬼に立ち向かっていった。
 
この経験から感じたこと。それは、「愛」とは絶対的なものではなく、相対的なものだ。愛を送るものにとって、それが「愛」でなくても、受け手にとって「愛」ならそれはもう「愛」なのだ。
(本物の)マザーテレサの言葉、
「愛の反対は憎しみではなく、無関心です」
も説得力がある。
 
「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」、「またお越しください」
そういった何気ない言葉。もしかしたら、身近にマザーテレサはたくさんいるのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

 

 
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事