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わたしの理想のタイプとは


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:上嶋陽子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
合コンでの自己紹介の一コマ。
「そういえば、部活は何やってたの?」
 
「私は吹奏楽部でした」
 
「へー、何の楽器やってたの?」
 
「えっと、ユーフォニアムって知ってます?」
 
「ゆ、ゆー、ふぉにあむ? うーんと、えーとどんなやつだっけ」
 
「あ、えーとあの抱きかかえる感じのやつです。巻貝みたいな」
 
「巻貝? あ、わかったわかった! あのでっかいやつか。ブンブン低い音出るやつ」
 
「あー、惜しい。それチューバですね。形はほとんど一緒なんですけど、えっと、もう少し小さくて……。上にラッパが向いてて、あ、あのホルンて分かります?」
 
私の自己紹介のいつものパターンだ。参加者に探求心が強い人がいると助かる。バタバタもがいている私の横で、ググって画像を検索してくれて、どうにかこうにかユーフォニアムの存在を明らかにすることができる。でもそんなのは稀だ。ほぼ奇跡。かといって自分であらかじめ画像を用意しておいて、どうだ! と見せるほどのインパクトもない。(失礼。)いっそのことテニス部と偽ろうか。会話のテンポが何よりも大切な合コンで、時々私は考えるのである。でもなぜこんなにもユーフォニアムの話題を出そうとするのか。それはきっと私が、「ユーフォニアム」という楽器の魅力を誰よりも伝えたいと思っているからだと思う。本当に素敵な楽器なのだ。
 
私とユーフォニアムの出会いは、中学生の時。
憧れの吹奏楽部に入り、クラリネットかフルートに立候補した。しかしじゃんけんで惨敗。仕方なく担当することになった楽器がそれだ。きっとここまで読んでくださった方も、冒頭から「ユーフォニアム、ユーフォニアム」と聞かされて一体どんな楽器なんだろうと思っているのではないかと思う。
 
そこで、改めてユーフォニアムについて調べてみると、こんなふうに書かれていた。
 
「見た目は大きなトランペットのようでもあり、小さなチューバのようでもある」
 
「エリンギのような形をしている」
 
「抱き心地がよい」
 
何とも絶妙なワード。思わず調べながらフフフっと笑ってしまう。説明の通り、大きさはチューバという大きな金管楽器の一回り小さいバージョン。形はまさにラッパが上に向いていてエリンギみたい。そして左手でしっかり抱き抱えながら演奏する楽器である。確かにホールドしている感じは抱き枕をギュッとするような安心感がある。どれも見事な表現だ。そう、このどう表現したら良いのかスパッとした言葉が見つからないのがユーフォニアムなのである。
 
中学時代を思い返すと切ないエピソードがある。ユーフォニアムのあるあるかもしれないが、その存在を忘れられるということがしばしばあった。全体練習での一場面。顧問の先生が演奏を止め、一つのフレーズをパートごと確認していくという練習がある。
 
「はい、ではまずトランペットとクラリネットいきましょう」
「次はサックスチームいきましょう」
「じゃあ最後、低音のチューバとバリトンサックスね」
 
あれ、呼ばれてないな。こんな感じで同じようなメローディーを演奏している仲間で順番に演奏していくのだが、とにかく飛ばされる。忘れられる。あーまたか、と思いつつも、改めて「私演奏してません!」と主張するのも面倒くさいし、その場を大人しく見守る。そんなことはしょっちゅうあった。
 
悲しいかな、なぜこんなことが起こってしまうのか。それはユーフォニアムという楽器には定まったパートがないからだと思う。実はユーフォニアムは色んな楽器とコラボしていて、常に色んなパートを行ったり来たりしている。さっきまでは低音チームにいてチューバと同じメロディを奏でている、と思いきや、なんと次のフレーズでは主役のトランペットと同じメロディを演奏しちゃってるよ! なんてこともある。間違いなく演奏している身としてはおいしい楽器なのだけれど、パートが定まらない故に、居ても居なくてもそこまで支障なく練習は進んでしまうのである。キラキラ輝く主役でもなければ、どーんと支える縁の下の力持ちでもない。あっちに行ってこっちに行って、私の居場所はどこなんだーって感じの楽器なのである。
 
では一体、ユーフォニウムとは何のためにあるのだろう。その答えが本当の意味で分かったのは、部活を始めて少し経ってからだった。体調不良で数日部活を休んでしまい、久々に復帰した日のこと。練習の途中、顧問の先生がこう言ってくれた。
 
「あれ? 何か今日は一味違うね。演奏になんかこう、深みがある感じがする。きっと
これは、陽子さんが帰ってきてくれたからだね」
 
「えっ、私ですか」
 
この言葉を聞いたときに、なんかとても誇らしい気持ちになったのを覚えている。恐らく私が不在でも、とりあえず演奏に支障はなかったと思う。でも私、というかユーフォニアムが加わったことで演奏に深みが出るというのである。確かにユーフォニアムの音色は、他のどの楽器よりも優しく温かみがある。決して目立つ音ではないのだけれど、比較的どの楽器ともマッチして競争しない。主役のトランペットがより輝くように、そして低音のチューバを支えるように。演奏に深みが出るように。まさに映画でいったら助演女優賞、お料理だとしたら隠し味のスパイスといったところだろうか。樹木希林並みの存在感。うわー、めちゃくちゃかっこ良いじゃないか。ユーフォニアムに対する見方が180度変わった日だ。自分の役割が分かったその日から、本当に充実した時間を過ごさせてもらった。
 
そして、目立たないかもしれないけど、その場にふわっとやさしさと安心感をもたらすこと。深みのある存在感を放つこと。そんなユーフォニアムの役割は、そのまま私の目指す理想の人間像となった。もちろん、まだまだ私はこんなふうになれてはいないけれど、私がふと素敵だなと思う人は、まさにユーフォニアムみたいな人だ。
「私の理想のタイプはユーフォニアムみたいな人」今度の合コンで言ってみようかな。
私の愛は止まらない。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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