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メディアグランプリ

「お願いします、今回だけは」半年に1度の神様チェック


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:武田恵以子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お願いします、今日からちゃんとしますから、今回だけはなんとかしてください」
半年に1回、そうお願いする日がやってくる。
 
今日は半年に一度の検診の結果を聞く日だ。1週間前にエコーの検査を受けた時に、若い検査医がモニターを見て「ん?」という顔をした。気がした。念入りにそこばかり行ったり来たりして、ピッピと印をつける。画面上の物差しみたいなもので、長さでも測ってるんだろうか。その後、「ちょっと変わりますね」と言って、ベテラン医師を呼んできた。「ちょっと確認させてもらいますね」と言って、同じところにまたもやゼリーを塗って行ったり来たり。勘弁してくれー、なんかあるんですか。そう聞きたくても聞くのが怖い。最後に一言、「では来週主治医の先生に結果聞いてください」と冷たく言われた。いつもの女医さんなら、「問題ありませんでしたけど、詳しくは来週聞いてくださいね」と言ってくれるのに。自分から聞く勇気のない私は、そのまま不安を持ち帰ることになった。
 
1年半前のことだ。すこぶる元気だった私は、人間ドックでたまたま病気を見つけられ、言われるがままに手術を受け、1ヶ月も立たないうちに全快した。症状が全くない状態で見つけてもらったことも、術後ほとんど痛みがなかったことも、幸運だったとしか言いようがない。そして、こう告げられる。「もう心配はありません。薬も必要ありません。ただ、10年間、半年に一回は検診を続けてくださいね」と。
 
退院した瞬間、思ったもんだ。「これでなんでもできる、やりたいことなんでもできるんだー。悔いのない人生にしよう」と。退院するまでの間、「大丈夫ですよ、大したことないですよ、治りますよ」どの医者もそう言ってくれたけれど、半分信じてなかった。本当に100%治るんだろうか。本当は深刻なんじゃないだろうか。多分、病気の深刻さよりも、あの頃の私の心のダメージの方がよっぽど深刻だったに違いない。
 
そして、無事日常に戻った。医者が言ってくれたように、なんの問題もなかった。あの出来事はなんだったろうというくらいに元気に元通りになった。そして、半年に1回チェックの日がやってくる。「ちゃんと毎日悔いのない日々を送っていたかい?」まるでそんなチェックをされてるようだ。
 
エコーの検査を受けてから1週間。何度も検査医の表情を思い出しては、なんか嫌な予感しかしない。「今回自信がないわ」夫にそう漏らした後、久々にふたりで見た映画。小さな女の子とパパを残して、ママが病気で亡くなる話。縁起でもない、やめてくれー。そんな話とは知らず久しぶりのデートだと思ってたのに。なんのメッセージなんだ? 怒りすらこみ上げてくる。その日家に帰って、小さな娘と息子がやかましくケンカするのすら、愛おしかった。時間よ止まれと思った。
 
そして今日。やっと検査結果が聞ける。神様仏様、お願いです。今日結果がよかったら、今日からちゃんとしよう。これから毎日神様にお祈りをしよう。毎食事、体にいいものを心を込めて作ろう。ちゃんと家の掃除もしよう。子供にイライラするのもやめよう。時間を無駄にせず、いつかやりたいと思っていたあのプロジェクトも一気に進めよう。
 
もし、もしよ、何か悪いものが見つかっても、大丈夫。前も心配したけど、大丈夫だったじゃないか。そうだ、帰りに氏神さんに行こうか。電車に乗って山の中のあの住職さんにもう一度会いに行くのもいいな。大丈夫、絶対大丈夫だから。私には支えてくれる仲間がいっぱいいる。そんなことを何回も何回も頭の中で繰り返しながら、病院まで自転車を漕いだ。
 
待合室で、「もうすぐ手術で怖いんです」と話すおばちゃんと、「昨年手術したけどもうピンピンに元気になったからあなたもきっと大丈夫」と励ますおじいちゃんの会話を聞いた。私も心の中で、全力でおばちゃんの応援をした。「私もそうでしたよ、だから絶対大丈夫」そして、同時に自分自身も励ます。今回もなんとかなる。
 
そして、自分の診察の番がやってきて、主治医が私に告げた。
 
「結果を先に言いますね。何も悪いところありませんでしたよ」と。
 
ふー。肩を撫で下ろす、とはこのことだ。誰かが温かい手で丁寧に肩をさすり下ろしてくれたかのようだった。深呼吸をした私に先生は笑顔を返してくれた。そして次の瞬間、笑いがこみ上げてくる。一体この1週間なんだったんだ。いじわる、とあの検査医たちの顔をもう一度思い出す。もう本当にいじわるだ。
 
待合室で、真っ先に夫にメールした。「無事でした、今日から真面目に生きます」と。
 
病院を去る時、いろんな患者さんを目にして思った。「元気でさえいられれば、なんでもできる。元気でさえいられれば……」今日大丈夫だった私は世界中の病気の人たちを祈ることしかできない。
 
なんですぐに忘れてしまうんだろう。ただ元気でさえいられればいい。ただそれだけなのに、すぐに忘れる。仕事がうまくいかなくてイライラしたり、子供に牛乳こぼされてイライラしたり、髪型が決まらなくてイライラしたり、あの人の言葉にイライラしたり、いい文章が書けなくてイライラしたり。なんだ、私どんだけイライラしてるんだ!?アホじゃないか!?苦笑
 
帰り道、今日からいいご飯を作るぞ!と張り切って、いい食材を買った。がしかし、大丈夫ですよ宣告されて6時間も経てば、もうすでに夕食を作るのがめんどくさい。
帰ったらすぐに仕事に取りかかって、今日はすぐにこの文章を書いて、早く娘を迎えに行ってあげよう、そう思ってたけど、結局昼寝をしてギリギリだ。
 
そんな自分に苦笑する。6時間も経てば、元の自分に戻る。今日からちゃんとするんじゃなかったのか、おい。そして今、そんな自分をこう肯定してみる。そんながんばらなくていいのよ。ちゃんとしなくても、昼寝してしまう自分でも手抜きご飯の自分でも、ダラダラ超甘いズボラ、それが私じゃないか。
 
きっと、半年後また思うんだろうな。「今日からちゃんとしますから」と。
 
病気になって、神様は私に何を教えたかったのだろう。全貌はまだわからない。
だけど、「ただ、元気でさえいられればそれでいい」と書いたカードを半年に1回めくって思い知らされるのだ。ご丁寧に10年間も復習付きで。時にビクビクしながら。忘れんぼうの私には、それぐらいがちょうどいいのかもしれない。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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