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10年後の娘へ


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10年後の娘へ
 
記事:フジタシン(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
 
 
「なぁ、なんでユイって名前にしたん?」
今年、中学生になった姪っ子からの質問だ。
 
「うーん、漢字1文字がよかったし、外国の人でも呼びやすいでしょ。」
 
「ふーん、そっか」
 
「どうしてそんなこと聞くの?」
 
「小学校の授業で “自分の名前のルーツ” について調べなあかんときがくるから、その時にはちゃんと答えてあげな。」
 
調べてみると、小学校の高学年ではそういう授業があるらしい。
まだ生まれたばかりの娘にとっては、あと10年以上の先の話だ。
 
その時が来たら、娘にちゃんと説明できるだろうか。
なんだか恥ずかしくてうまく出来ないかもしれない。
 
文章にしたら伝えられるかもしれないから、ここに“答え”を書いておこうと思う。
 
ユイちゃん。
 
あなたが産まれた2020年は、世の中大混乱した大変な年だった。
「新型コロナウイルス」という、当時は誰も治せないウイルスが流行して、世界中の経済や社会がボロボロになってしまった。
しかも、日本中が待ちに待っていた東京オリンピックは延期になってしまった。
 
オリンピックが2020年に東京で開催されることが決まったのは、その7年前の2013年の9月だった。当時は日本中が喜びに沸いた。
 
「オリンピック、東京になったね!」
 
僕も母(ユイちゃんにとっては、おばあちゃんだね)と、すごく喜んだことを覚えている。
 
「きっとボランティアとか募集するでしょう。やってみたいな。7年後は60歳か……。通訳とか、道案内くらいはできるかな? 未来に楽しみができて、なんだが生きる希望をもらった気がする!」
 
「そうだね。そのためには早く病院から出られるように、治さないとね。」
 
母の言葉に僕は、大した返事ができなかった。
 
僕は小さい頃、泣き虫で母にべったりだった。
みんなと違うところを指摘されたり馬鹿にされたりすると、すぐ泣きべそをかきながら家に帰ってくるような子だった。
 
すると母はいつもこう言って励ましてくれた。
 
「人は人、自分は自分。」
「自分が正しいと思うなら、それでいいじゃない。」
 
他人と比べないこと。
 
僕が母に教わった1番大事なこと。
自分で考えて、正しいと思ったことを頑張ればいい。
それが人と違ったって良い。
 
「人は人、自分は自分。」
僕が今でも大事にしている言葉。
 
もう1つ印象に残っている、母の言葉。
「今、自分の人生が幸運だと思うなら、それは過去の自分が頑張ったおかげ。その自分があるのは、これまで命を繋いできてくれた先祖が頑張ってくれたおかげ。」
「つまり、今の自分が頑張れば、未来の自分に良いことが返ってくるし、その先の子孫にも幸運が返ってくるかもしれない。」
 
母は、家族の繋がりをとても大事に考える人だった。
 
母は、育児も家事も仕事も、いつも一生懸命頑張ってくれた。
それなのに、若くして「悪性リンパ腫」という難しい病気に侵されてしまった。
 
病気が分かったのは、2012年の冬のことだった。僕は25歳だった。
「血液のガンかもしれないって診断されちゃった。明日から入院生活になるけど、がんばるね。」
 
授業中にメールを受け取った瞬間、頭が真っ白になった。
 
そこから、毎日のようにお見舞いに行った。
 
翌春、僕は大学院を卒業して東京の会社で働くことになった。
その頃、母は実家の近くの病院から東京の病院に移ることになった。
権威ある先生に診てもらえることになった。
 
それから、1年近く、僕は仕事帰りにお見舞いに行く生活を続けた。
 
病院での思い出はたくさんある。
母の体調がよいときは、毎日たくさん話をした。
僕は今でもあの時「色々」な話をしたことを忘れない。
 
先生は、最適な治療法を必死に探してくれた。
看護師さんは、いつも味方になってくれた。
何よりも母は、ものすごく頑張った。
苦しかったはずなのに、僕の前ではそんな表情を見せずにいつも笑顔でいてくれた。
 
でも最期は上手く行かなかった。
 
結局、僕は母に何をしてあげられただろうか。
 
今の僕があるのは、母のしてきた良い行いのおかげだ。
愛情をもって育ててくれた。
おかげで、人と比べずに伸び伸びと成長することができた。
 
それなのに、なぜあんな難しい病気になってしまったのだろうか?
出来の悪い僕を育てるのに頑張りすぎてしまったのだろうか?
母をもっと楽にするために、家事や勉強をもっと頑張っておけばよかった。
そう思うと、悲しくてやりきれなくなる。
 
でも、前を向いて生きていかなくてはいけない。
僕は、心の中に母は生き続けていると思うことにした。
だって、僕の人生は、病院で話した「色々」の通りになっているから。
 
仕事について。
「大企業じゃなくて、専門的な仕事の方が向いているんじゃない?」
たしかに、今はそんな感じの仕事をしている。
 
結婚について。
「結婚相手は焦らず30歳くらいで決めたら?」
実際は31歳で結婚した。
 
でも、その先の話はしていない。
子どもができたら、どうしよう?
 
それは、僕が母にしてもらったことをすればいいんだと思っている。
だから心配していない。
 
生まれてくる子の名前も、決められていたようなものだった。
 
2020年、母の7回忌で始まった年の4月に、唯ちゃんは産まれたね。
奇しくも、母が入院していた東京の同じ病院で。
 
人と比べることに執着しない、“唯一無二”の存在になってね。
自分の頭で考えて、正しいと思うことを頑張ってほしい。
そんな意味が込もった名前だよ。
 
気に入ってくれているといいな。
 
そして何より、あなたのおばあちゃんがしてきた頑張りが、あなたにも幸運をもたらしますように。
 
 
 
 
***
 
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2020-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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