メディアグランプリ

「寓話の誤読」ではじめるキャリア形成 ~『藁を手に旅に出よう』は問いなき私たちに何を問うか~


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河内愛子(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「うさぎと亀」の亀は、戦略的思考に欠けていた?
「オオカミ少年」で羊たちを殺したのは誰?
「アリとキリギリス」、本当の勝ち組はどちらか?
 
『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』や『世界「倒産」図鑑』の著者・荒木博行氏が待望の新刊を書き上げた。それがこの『藁を手に旅に出よう “伝説の人事部長”による「働き方」の教室』(文藝春秋・刊)だ。
 
この本は物語形式のビジネス書だ。主人公は、「語るべきことのない薄っぺらな人生」を送ってきたと自認するサカモト君。そんな地味なサカモト君が大学を卒業し、これまた地味な中堅企業に就職する。この会社、地味ながらも人材育成に熱心だという評判を耳にしたからだ。そこで出会ったのが“伝説の人事部長”石川さんである。さて、石川さんは12回の研修講義を通じて、サカモト君たち新入社員に何を伝えるのか……? これが、この本のあらすじだ。
 
石川さんの講義には毎回必ず「寓話」、すなわちおとぎ話が登場する。
例えば冒頭で述べた「うさぎと亀」。この寓話からこれまで私たちが教訓としてきたのは、「油断大敵」や「地道な努力が勝負を制する」といった考え方だろう。
しかし、石川さんはそんな従来の読み方に疑問を呈する。亀はそもそもなぜ勝ち目のない戦いに挑んだのか? うさぎがたまたま本番でミスを犯したから勝負に勝ったものの、そのようなギャンブルに出ることは無謀だったとは言えないだろうか? これがもし現実の会社組織の意志決定ならどうだろうか? こうした問いかけをしながら、私たちが幼い頃から何度も聞いたり読んだりしてきた寓話から新たな教訓を探っていく。
この亀の場合で言えば、長期的な視点と考えるべき論点の数、すなわち「戦略的思考の欠如」だ。
 
このように、12の寓話を作者の意図しなかったであろう読み方、つまり「誤読」しながら、キャリア、組織、リーダーシップ、そして「働くとは、幸せとは何か」を考えてゆく。
 
この本にはサカモト君を含め、5人の新入社員が登場する。お調子者で憎めないヤマダ君。一本気で思ったことをすぐ口にするナガサワさん。一見するとそつがなく小器用なカザマ君。飲み込みの早い優等生タイプのミズノさん。
彼ら5人、そして私たちの多くとの共通点は、程度の差はあれ「問い」なきままに生きてきたことではないだろうか。
 
受験生の頃、「良い学校」とは「偏差値の高い学校」のことではなかったか?
コンフリクトに直面した時、何をもって「敵」と「味方」を分けていたか? その「敵」と「味方」の間に、共有できる未来像ははたしてなかったか?
人生における大事な選択を、親や先生、上司に委ねてしまったことはなかったか?
「私の仕事は〇〇をすることです」と言語化できるか? それは誰の、どのような幸せに寄与しているか考えたことはあるか?
そして、これらの問いに対し、自分なりの疑問をもって考えたことはあったか?
 
この本の「温かい」ところは、そうした問いと向き合わないまま生きてきた人を、決して危機感をあおりながら責め立てたりしない点だ。
これまで向き合ってこなかったと自覚するのであればそれでいい。今それを確認できたのだからそれは大きな進歩だ。ならば人生の主導権を自分の手に取り戻すためには何を考え、何をするべきか、これから考えていこう。
私は、この本からそんな励ましのメッセージを受け取った。それがたとえ「誤読」でも、石川さんは咎めはしない、と思う。
 
本の帯には、NewsPicks・佐々木紀彦氏による推薦の言葉として「すべての20代、30代に読んでほしい」と書かれている。多くの人はこの年代でライフステージの大きな変化を経験するだろう。その時、この本はきっと「本当にありたい自分自身の姿」に立ち返るための灯台のような役割を果たしてくれるはずだ。
もちろんこの年代でない人にも同じく深い示唆を与えてくれる。私自身若干のサバを読んでこの本を読んだが、18年勤めた会社を衝動的に辞めてから半年間、人生最大の「夢迷子」に陥ってしまった身の上から太鼓判を捺させていただきたい。
 
ここ一番、というタイミングで正しい選択ができるか。自分が見たい未来を作り上げることができるか。そして、この世を去る時に「この人生の責任は、すべて自分が取ってきた」と言い切れるか。それらは、この本が投げかけた問いに対して、どれだけ根気強く向き合ったかが物を言うだろう。
 
タイトルの「藁」は、「藁しべ長者」に由来する。藁一本しか持たなかった若者が、一人ずつ誰かの幸せを叶えてゆくうちに大金持ちになる話だ。そしてこの本を読めば、この若者が得た富は単なる副産物に過ぎなかったことがわかる。
私たちの手にも、一本の藁が握らされている。自分の目には取るに足らないただの藁に映るかもしれない。しかしその藁は自分を、誰かを、そして世界を幸せにする可能性に満ちている。
 
 
 
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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