メディアグランプリ

親知らずの抜歯で学んだ、痛みよりも辛いもの


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記事:藤井佑香(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
残りの親知らずを抜こう。そう思ってから早7年。最近遂に抜歯をした。
 
親知らずの抜歯の必要性は、人によって異なると思うが、私の場合は見事に4本全て抜く必要があった。4本ある内の2本は大学生の内に抜いていたのだが、その時まぁまぁ痛かった記憶があり、残りの2本を抜くのにずっと躊躇してしまっていた。しかし、最近になって親知らずがどんどん大きくなり、噛み合わせが悪くなってしまったため、遂に抜くことを決意した。前回の抜歯時も2~3日我慢すれば、痛みは収まった気がする。数日の我慢であれば仕方ない、と思い腰を上げることになった。
 
しかし、これが想像を絶する長期間の痛みとの戦いの幕開けになるとは思いもよらなかった。
 
抜歯の必要があった歯は2本。左側の親知らず2本である。その内1本は通常の生え方をしていたため、難なく抜歯を終えた。ただ、問題はもう1本の下顎の親知らずだった。横向きに生えていたため、歯茎を切開したりと少し複雑な手術が必要になった。麻酔も思ったように効かず、相当痛い手術となったものの、何とか終えることが出来た。後は抜歯後数日の痛みに耐えるだけだ。これで二度と親知らずは抜かなくて良い。痛いのももう無いし、何より7年間自分の心の片隅で気になっていた「親知らず抜歯」というキーワードが無くなった。人生のTo Do Listに大きく「済」と書けることが1つ増えた気がして、大きな達成感に満たされた。抜歯後の痛みは強かったものの、気持ちはとてもスッキリして、病院を後にした。
 
抜歯後3日目。痛みもだいぶ落ち着いたかなと思っていた矢先、下顎の抜歯跡のあたりに激痛が走った。歯をハンマーで強打されたような感覚と、歯茎に誰かが鋭い爪を立てて引きちぎろうとしているような感覚が一気に襲ってきた。痛いとかではない。いや、痛いのだが、その言葉では表現しきれない程の激痛である。ちょっと待って。抜歯後の痛みってこんな感じだったっけ? それか結構大変な手術だったから、その影響で歯茎が傷んでいるとかそういう感じだろうか。痛みと戦いながら、「親知らず 抜歯後 痛み いつまで」とスマホで検索した。検索の結果、痛みの程度は個人差が大きく1週間程度痛みが続く人も居ることが分かった。そうか、私はこのパターンなのだ。だって抜歯後まだ3日目だもの。病院で処方してもらった痛み止めも今日までだし、恐らく主治医もこれが想定の範囲内だったのだろう。だったら、「もしかしたら、たまにすっごい痛くなるかも」とか言ってくれていたら心の準備出来ていたのに。歯医者さんも言い忘れていたのかな。まぁ、段々痛みも引いてくるだろう。今日我慢すれば何とかなるだろう、そう思ってその日は何とか耐えた。
 
2日後。いや、まだ相当痛いんですけど。というか痛みがどんどん酷くなっている気がするんですけど。痛くて夜中起きちゃうんですけど。親知らず抜歯とは、こんなにも激痛と戦わないといけないものだったのか。その後も、痛みは強くなる一方だったため、遂に主治医に相談した。結果、「ドライソケット」という症状だということが分かった。通常は、手術時の出血が、かさぶたの役割を担い抜歯跡を守ってくれる。しかし、何らかの理由でそれが上手く行かず、傷跡がむき出しになってしまうと、このドライソケットという状態になる。自分でも調べてみたところ、私の様な横向きの親知らず抜歯の際にたまに発症する症状のようだった。
 
数日でお別れが出来るはずの抜歯後の痛みだったはずが、数回治療を重ね、痛みが引くまで2週間かかることになった。この期間は痛みが強すぎて何も出来なかったため、まるまる2週間をドブに捨ててしまった気分だった。こうなるくらいなら、いっそ抜歯をしなければ良かったのかもしれない、とまで思った。ただ、1つだけ良かったかもと思えたことがある。それは、痛みに耐えながら生活することの本当の辛さが分かったことだった。私が経験したドライソケットの痛みは、酷い時には失神しそうになるくらいのものもあった。この状態が続くと、辛いのは、実は「痛み」そのものではない。体力と気力が奪われて何も出来なくなることだった。自分が思っている以上に「痛い」というのは身体に負担が掛かるらしかった。耐える時に、多くのエネルギーを使ったのだろう。身体がどっと疲れて、外出することもままならない。そして、痛みの我慢が続くと、精神的に疲労して無気力になり、やる気も起こらなくなってしまう。私は今まで、有難いことに大きな怪我や病気をしたことがない。それらを経験して来た人からすると、私の抜歯後の痛みは取るに足らないくらいなのだと思うし、もっと辛い思いをしている人もたくさんいる。だけど、激痛に耐えながら生活することのしんどさは、痛みそのものだけではなく、心と身体の元気が奪われ何も出来なくなってしまうことだと理解した。それが分かってようやく、過去に病気や怪我を経験した友人や家族の気持ちが、以前よりはちょっとだけかもしれないが、自分事として想像出来るようになったのだった。
 
とは言え、ドライソケットは本当に痛い。あまりにも痛かったので、1人でも多くの人に知って貰いたいと記事にすることにした。というのも、ドライソケットの発症率は、年齢が上がるにつれて高くなるという見解もあるらしい。親知らずを抜くのは、早いに越したことはないということだと思う。今もし迷っている人が居たら、すぐにでも歯医者に駆け込んで欲しい。そうすれば、私が経験した壮絶な痛みの経験も、少しは報われる気がする。
 
 
 
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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