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メディアグランプリ

美しい顔をトレースしたい


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:和田清美(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
向田邦子さんほど、印象の定まらない作家さんはいない。
作品を読む、人柄を綴った本に触れる、その度に私の中で向田邦子さんの顔が変わってくるのだ。
 
「好きな文体をトレースしてみよう」
ライティング訓練方法として、川代先生がそう仰った時、真っ先に思い浮かんだのは、向田邦子さんだった。
トレースするにぴったりだと、久々に本を引っ張り出した。
そして、何故こんなに印象が定まらないのか? 読み返しながら考えてみた。
 
最初の出会いは中学生の時、国語のテストで出題されていた。
テストで何度も文章を読むうちに、どうにも気になって本屋で探し、購入したのが、エッセイ「父の詫び状」だった。
 
読みやすくて簡潔な文章。
日常生活を切り取る視点が鋭くて、声に出して笑ってしまうほど面白い。
散りばめられたエピソードが、最後にきゅっと集約されて一つのテーマとなる、その圧巻の手法。
終始、家族に対する温かいまなざしを感じる作品たちだ。
 
だから、短編集「男どき女どき」を読んだときは、とても戸惑った。
男女の逢瀬、家族には内緒の秘め事、一筋縄ではいかない余韻たっぷりのラスト。
エッセイと同一の作家さんだろうか? 著者紹介を何度か見返したほどだ。
 
人間の、触れられたくない過去や感情を、日常生活の何気ない場面で覗かせる。
醜い感情を、絶妙のさじ加減でチラ見せしてくる。
人間、清濁併せ呑んで生きていくのだよ、と語りかけてくるのだ。
 
エッセイがカラリとしているのに対し、物語はじっとりと湿り気を帯びている。
二十歳前の小娘が読むには、共感しにくい話が多かったが、それでも不思議な魅力に惹きつけられた
 
さらに、向田邦子さんの印象がひっくり返った本がある。
「向田邦子の青春-写真とエッセイで綴る姉の素顔-」
当時、二十代後半の私がこの本を見つけたとき、衝撃を受けた。
「嘘つき……。めっちゃ美人じゃん」と、思わず呟いたほどだ。
エッセイの中で、何度か描かれていたご自身の容姿は、
目ばかり大きくて、団子鼻。
一年中日やけしていて、黒い服で通していたからあだ名はクロちゃん。
そこから勝手に、化粧っ気ない地味な姿を想像していたのだが、二十代の向田邦子さんは、女優と見紛うほどの華やかさだった。そしてお洒落。
 
ただ、凛とした佇まいの中に憂いを帯びていて、大人っぽさとも違う何か翳りがあった。これは一体何なのだろう?
 
エッセイ「手袋を探す」で、四十六歳の向田邦子さんが、
「ないものねだりの高のぞみが私のイヤな性格なら、とことん、そのイヤなところとつきあってみよう」と決心した二十二歳の自分を書いている。
 
このエッセイを改めて読んで、向田邦子さんの作品と印象が、見るたびごとに変わって来るのが分かった気がした。
そして、美しい写真は、決意の二十二歳以降の写真なのだと気づいた時、その憂いと翳りの意味が少し分かった気がした。
 
二十二歳の若さで、自分にとことん向き合った結果、自分のイヤな性格を受け入れた。
「しょうがない、これが私」と覚悟し、責任を持とうと決意した。
人生で起こった楽しいだけではない様々な経験を、出来るだけ自分の中に取り込んで、糧にして、表現する。
 
人間としての奥行、ふり幅が大きい人なのだ。
それを全て内に秘めて、作品として表現する。
作品には、その明るさから暗さ、清らかさから醜さが込められている。
だから、作品に多彩な顔を感じるのだろう。
 
二十二歳の決意の後、向田邦子さんは朝昼夜構わず仕事をこなし、面白いと思ったことはどんどんチャレンジした。
実際、映画評論家、脚本家、エッセイスト、小説家、と多才な肩書をお持ちだ。
また、プライベートでは、向田家の長女として物心共に家族を助け、人知れず秘めた恋愛で大変な経験をしたという。
 
とても、カッコいい女性だと思う。
二十二歳の強いまなざし、意志ある口元、自分の生き方を決意した美しい顔。
二十年以上の時を経て、四十六歳の本人が穏やかな顔で優しく回想する。
 
責任と決意を秘めた人の顔は、美しい。
さらに、楽しむことを忘れない心構えは、美しさをより輝かせると思うのだ。
 
向田邦子さんは、その達人だと思う。
だからこそ、文章に惹きつけられ、今なお色褪せないのではないだろうか。
 
今回、改めて読み返したエッセイに、ドキッとした言葉がある。
「女性が職業を持つ場合、義務だけで働くと、楽しんでいないと、顔つきがけわしくなる。態度にケンが出る。
どんな小さなことでもいい。毎日何かしら発見をし、「へえ、なるほどなあ」と感心をして面白がって働くと、努力も楽しみのほうに組み込むことが出来るように思う。(中略)
私は身近な友人たちに、「顔つきや目つきがキツクなったら正直に言ってね」
と頼んでいる」(向田邦子ベスト・エッセイ、ちくま文庫、2020年)
 
こう語る向田邦子さんの年齢に、私もすっかり追いついた。
そんな私の顔は、いい顔になっているだろうか?
けわしい顔つき、ケンのある態度になっていないだろうか?
 
文章トレースをするつもりが、改めて向田邦子さんの生き方に心を掴まれてしまった。
インプットの後はアウトプット。
文章トレースをやってみよう。
その前に、鏡に向かって自分の顔つきチェック、これを習慣にするところから始めたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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