メディアグランプリ

自分づくりは玉ねぎの皮を向くように


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:上嶋陽子(ライティングゼミ・日曜コース)
 
 
「あ、まずいな」
実家から届いた玉ねぎをしばらく放置したことに気付いた。今日こそは使ってあげないと、そう思って皮を剥くと、茶色い部分が出現してきた。うわ、ここは食べられないな。そう思ってさらに1枚、2枚と剝いていく。そんなことを繰り返していたら、結局玉ねぎの小さな塊が手元に残った。あらら、ごめんなさいと思いつつも、この部分をちゃんと食べてあげよう、と見ているうちに愛着が湧いてくる。ある日の夜、カラカラになってしまった玉ねぎと向き合いながら、少し前に教えてもらった心理学の学びと自分の体験が重なった。
 
やるかやらないか。成功か失敗か。0か100か。
私はつい最近まで、白と黒だけで作られたような、そんな世界にいた。1年ほど前、とある飲み会で出会った友人に誘われたコミュニティだ。「時間とお金から自由になれる」その言葉を聞いて、飛び込んだのを覚えている。彼氏からフラれた直後ということもあり、自分を変えたい、ここに居れば変わることができるかもしれない、そんな思いからの一歩だった気がする。そしてそのコミュニティに入ってから、私の生活は一変した。土日は朝から晩まで勉強会。夜は仕事終わりも予定がびっしりと埋まっていった。でも最初はそうやって生活が変わっていくことが楽しかった。前向きになっていく自分、充実していく人間関係。あの時フラれて落ち込んでいた自分はもういない。ここに居れば大丈夫。どこかにそんな思いがあったのかもしれない。「未来の自由の為には、今頑張らなければならない。ここで言われたことに素直に従っていれば大丈夫」私はその言葉を受け入れて、紹介してくれた友人を信じて、目の前のことに一生懸命に取り組んだ。だけどその勢いは長くは続かなかった。
 
私は毎週末のセミナーを受けるたびに、違和感を感じ始めるようになる。「あなたの魅力に人はついてくる。だから決してネガティブな顔を見せてはいけない」「ポジティブな言葉を使おう」「結果がすべて」そこにあったのは白か黒かの世界。弱音を吐いたり、落ち込んだりすることは許されなった。そして土日は何よりもセミナーを優先することを教えられた。デートよりも友達との旅行よりも結婚式よりも。「おかしい」分かってはいるけど、それを伝えることが出来なかった。自分の気持ちや違和感を押し殺していくうちに、自分と周りの人との境界線がどんどん無くなっていった。自分が分からなくなっていった。
 
だけど仲間に会うときは、自分の心と反比例するように、自然と笑顔が作れていた。そんな自分が嫌になったし、前向きになる日もあれば落ち込む日もある、そんな鬱々とした日々の繰り返しだった。だけどとある日、もう自分の中で限界を感じ、意を決して紹介してくれた友人に時間を取ってもらった。今日こそは辞めると伝えよう、そう決意して。
「色々考えたのだけど、もう気持ちの限界がきている。今日で辞めようと思う」
恐る恐る伝えると、友達は言う。
「誰でもあるよ、そういう時期。私もあったし、みんな経験している。でもこれを乗り越えたら強くなるし、私は一緒に頑張りたい。陽ちゃんはこのチームに必要なの」
 
「……」
 
何も返せる言葉がなかった。気持ちは嬉しい、でも嫌なの。たったこの一言が言えなかった。きっとここまで読んでくださった方の中には、そんな簡単なこと何故できないんだろう、そう思っている方もいらっしゃると思う。私も振り返ってみるとそう思う。だけどこの時の私は、「断る」ということが怖かった。嫌われたらどうしよう。友達をガッカリさせてしまったらどうしよう。そんな強い思いが心の奥底にあった。
 
「うん、わかった。〇〇がそう言うならもう少し頑張ってみようかな」
精一杯の笑顔と共に、自分の気持ちをまたそっと押し込めた。だけど一度押し込めてしまった「嫌」のパワーは恐ろしくて、私の心をどんどん覆っていくようになる。吐き出さずに我慢して飲み込んだ「嫌」は知らず知らずのうちに大きくなって、心の真ん中に黒い塊となっていくような感覚だった。
 
どうして良いかわからない。助けてほしい。そんな日々を送っていた時、私は偶然にもあるメールレターに救われることになる。そのメールレターには、「自分づくりの第一歩は、他者との間に境界線を引くことが最も大切」ということが書かれていた。まさに今の私へのメッセージだと思った。そして文面は続く。「私たちには、自分の気持ちを大切にする権利がある。自分の中の違和感や「嫌」という気持ちを1つずつ大切にしていくと、最終的には「自分」というものが残る。だから自分の中の「好き」よりも、まずは「嫌」を大切にしてみよう」私はこの言葉に涙が溢れた。これまでの自分を振り返ってみると、私の判断基準は常に周りからどう思われるかだった。自分の気持ちよりも他人の気持ち。そうやって生きてきた。変わりたい。心の底から勇気をもらった気がした。
 
そして私は、とあるセミナーの日。初めて無断で欠席をした。小心者の私ができる、最大の抵抗であった。「やってしまった」そんな苦しさが心の奥から湧いてくる。友達を傷つけてしまったと思うと胸の奥がズキズキ痛んだ。自分を責めた。でも、大丈夫大丈夫。私は私。そう自分に言い聞かせて、溢れてくる感情をじっくり味わった。ずっとずっと言えなかった「嫌」を表現できたとき、心の真ん中にあった黒い塊は少しだけ小さくなった気がした。結局その後、私はコミュニティを抜けることになる。ただそこに至るまでは一筋縄ではいかなかった。たくさん止められたし、色んな人に説得もされた。これまでの私だったら飲み込まれていたかもしれない。だけどこの時の私は、自分の中にある勇気のかけらを全部握りしめて、ちゃんと気持ちを伝えるようにした。怖かった。でも相手の意見、わたしの考え、それを1つずつ聞いてはぶつけて、聞いてはぶつけてを繰り返した。そして色んな感情を味わった。大変だったけれど、その中で分かったことは、相手をガッカリさせても良いんだということ。私は私でガッカリするし、相手もまた同様。そうやって繰り返していくうちに自分というものがちゃんと立ち上がってくるのだ。これまで他人軸で生きてきた私にとって、とてもパワフルな経験だった。
 
自分の中にある「嫌」という感情、違和感。これは自分をつくる貴重な材料になる。玉ねぎの皮を1枚1枚確かめながら剥いていくように、私の心とも丁寧に丁寧に向き合っていきたい。そうして残った「自分」は本当に愛おしくて、さらに大切に大切にしたくなるから。玉ねぎを剥きながら、ふとそんなことを思い出していた。
 
 
 
 
***

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2020-10-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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