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この命の連なりは偶然でしょうか


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:福田大輔(ライティング・ゼミ7月通信限定コース)
 
 
僕が5歳の時に母の実家に初めて行った。
亡くなったおばあちゃんの家の整理とお墓を建てるためだ。
 
僕はおばあちゃんの死を最初に見つけてしまった。
 
僕の母の実家は北海道の北西にある天売島(てうりとう)という小さな島だった。
 
君に届けという漫画や映画を見たことがある人は劇中の舞台となっている羽幌町という名前を聞いたことがあるかもしれない。
その羽幌町の港からフェリーで1時間半ほどすると島に着くことが出来る。
 
手つかずの自然が残っていてオロロン鳥をはじめとした貴重な海鳥が生息していて、それらは国の天然記念物に指定されている。
一周12キロで現在の人口は約300人の警察官の駐在もいない小さな島だ。
 
漁業を主な生業としており、ここで取れる魚を食べてしまったら北海道本島で食べられる寿司や魚でさえ物足りないと思えてしまうほど格別に美味しい。
親戚のおじさんたちがボートで海に出て、素潜りしてウニを取っていた光景は何故かよく覚えている。
 
母の実家はおばあちゃんが民宿を営んでいた。
部屋が何個もある2階建てのとてつもなく大きい家で断崖の上に建っていた。
初めて見た布団だけがたくさん押し込められていた部屋は宿泊客のための寝具だったのだ。
 
おじいちゃんは北海道の環境局みたいなところで働いていて、天売島に調査などでやってくる人へ自宅の民宿を斡旋していた。そうするようにとおばあちゃんが仕掛けていたらしい。
 
民宿は盛況だったらしく、父が母と訪れた際には部屋が満室で寝床がなく近くの〇〇さんの家に泊まって、話はしてあるから。そう言われて家に入ることが出来なかったそうだ。
 
母が子供のときは裕福だったと実感できるほど何不自由なかったそうだ。
欲しいものは買ってもらえたし、いい服も着ていた。
 
島で初めてテレビを購入したのはおばあちゃんだったという。
島にある唯一のテレビを観るために島内の人が集まっていた。まさにALWAYS3丁目の夕日の映画のワンシーンのように。
 
おばあちゃんには子供が6人いた。それでも子供に不自由な思いをさせず民宿も切り盛りしていたバイタリティ溢れる人だった。
 
そんなおばあちゃんは我が家でその人生を静かに終えたのだった。
 
僕は5歳の時に川崎から栃木の片田舎へ父の仕事の関係で引越しをした。
 
それから程なくして、新居はどんなところなのかを確認のためにおばあちゃんが天売島から遊びに来ていた。
おじいちゃんは僕が生まれる前に亡くなっていたらしく、おばあちゃんは一人で栃木まで遥々きてくれていた。
 
ある日の朝、いつも早起きしていたお婆ちゃんがその日はまだ起きていなかった。
 
「そろそろおばあちゃんを起こしてきて」
母から言われた。
 
僕は寝ているおばあちゃんを起こしに行った。
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
「おばあちゃん、起きて!」
何度声を掛けても体を揺すってもおばあちゃんは反応しなかった。
 
何でだろう。
よく寝ているのかな?
まだ眠いのかな??
 
「おばあちゃん起きない」
母にそう伝えると、しょうがないなというかんじで母も一緒におばあちゃんを起こしに行った。
 
「おばあちゃん、起きて」
「おばあちゃん! おばあちゃん!!」
隣にいる母が何度声を掛けても体を揺すっても何も反応がなかった。
 
何が起こったのか5歳の僕は全くわからなかった。
何でおばあちゃんはずっと寝ているのだろう?
それぐらいにしか思っていなかったはずだ。
 
すると救急車が我が家にやって来て、救急隊員の人がおばあちゃんを見ていた。
 
それから分かったことはおばあちゃんはこのまま寝ていて起きてこないということだった。
 
そこからはあっという間だった。
子供ながらに大変なことが起こっているとは感じていた。
 
気付いたら我が家で葬式が行われていた。
黒い服を着た親戚が一同に集まっていた。
いつも笑顔で遊んでくれる従兄弟の姉や兄なのに神妙な面持ちだった。
 
いつもテレビを見てご飯を食べている部屋に祭壇が備えられ、たくさんの人がおじぎをしていた。
お坊さんがよく分からない言葉を唱えていて笑い声が一切ない空間。
自分の家なのに誰かの知らない場所になっていた。
 
全てが初めて目にする光景だった。
人が死ぬと何が執り行われるのか。
どんな人が来るのか、どんな雰囲気なのかということを体験していた。
 
そして5歳の僕にはあまりに日常の中での出来事すぎて、誰かが死ぬということの深刻さも実感も感じられなかったのだと思う。
 
不謹慎ないい方かもしれないが、おばあちゃんは全く苦しむことなく安らかに眠りについたのだ。
 
医療が発達して延命措置を施すことで苦しみながらも生き長らえられることが出来るようになっている。か細くなっていく命を目の当たりにして死というものへの心構えと現実を徐々に感じ取っていく。
 
おばあちゃんからそういったものを一切感じ取ることはなかった。
 
幸せな死に方だったのかもしれない。
 
そして、おばあちゃんが亡くなってから1年後に父と母は不思議な連なりを感じずにはいられなかったそうだ。
 
僕はおじいちゃんが亡くなって1年後に生まれたそうだ。
そんな僕がおばあちゃんの死を最初に発見した。
そして、おばあちゃんが亡くなってから1年後に僕の弟は生まれた。
 
……ただの偶然だろうか? そうかもしれない。
でも少なくとも父と母と僕と弟はそうは思っていない。
特に母は絶対にそうは思っていない。
 
母は6人兄弟で、僕には歳の近い従兄弟も何人もいる。
そんな中で我が家にだけこんな偶然が起こるのか。
 
貧乏で裕福とは言えない暮らしをしていた僕ら家族のことが心配だったのだろうか。
生産性のない喧嘩ばかりしている父と母のことが心配だったのだろうか。
兄弟がいなかった僕に弟を授けてくれたのだろうか。
 
おじいちゃんとは会ったことがないし、おばあちゃんとの記憶もほとんどない。
だけど不思議な縁を感じているおじいちゃんとおばあちゃんの昔話を母から聞くのが好きで人柄が見えてくるほどに好きになっている。
話を聞くたびにおじいちゃんもおばあちゃんも僕の中で実像を帯びてくるように思えた。
 
スケジュールを見るとちょうど一か月後はおばあちゃんの命日だった。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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