メディアグランプリ

今、この瞬間に感じたことを忘れる自由、忘れない責任


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記事:長谷部さちこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
時が止まったままの街をあなたは見たことがありますか?
 
カーブミラーを覆い隠すほどに伸びた歩道の雑草。長い間誰も足を踏み入れておらず、地面がひび割れて雑草が生えた道。イノシシや熊などの獣が空き家を荒らした跡。ブロック塀が崩れた跡。人の気配がないという言葉では言い表せない、まさにあの瞬間から時間が止まっている空間がそこにはあったのです。
 
福島県いわき市双葉町・大熊町。
 
2011年の東日本大震災によって発生した高さ13メートルもの津波が東京電力第一原子力発電所を襲い、施設の安全装置が破壊され、高濃度の放射線が付近一帯に放出されたのです。付近に住んでいた住民は避難を余儀なくされ慣れ親しんだ土地を離れました。悲惨な事故から10年近くが経った今でも帰宅困難地域に指定されており、家に戻ることが出来ない地域となっています。
 
私は震災当時、別の所に住んでいたものの東北で生まれ育った身だからこそ、あの日のことを忘れないように、何が起きたのかきちんと自分の言葉で人に伝えられるようになりたくて、この地、東日本大震災・原子力災害伝承館を訪れました。2020年9月に新しく開館したこの施設はあの当時、この場所で何が起きたのかを私たちに伝えてくれているのです。
 
そこで目にした光景は忘れたいけど忘れられない、忘れてはいけない瞬間でした。
 
大地震が発生した瞬間の家屋が崩れる音だとか逃げ惑う住民の叫び声だとか。実際に避難所で使われていたブランケットだとか津波で流れ着いた持ち主を失ったランドセルだとか。この伝承館に来るためには帰宅困難地域を通らなければいけません。異次元とも言えるほどに人の温もりが無い空間を経由してきた後だからこそ、これらの展示物を見ると余計に心が締め付けられるのだと感じました。
 
神様はとても残酷だ。一瞬で多くの命を奪ってしまうんだもの。私たちが一体何をしたのだと言うのだろう。そんな問いを投げかけても空を切るだけである。
 
この伝承館では実際の展示物の他に、災害を生き延びた人々の声を映像として残し、証言ビデオとして流していました。数あるビデオの中で私が一番心に残ったメッセージは「私たちは全ての事柄について忘れたい部分と忘れたくない部分を持っている。どこを残すか、残していくかで未来は変わっていく」という意味が込められたものでした。
 
東日本大震災のように人生を大きく変えるような出来事であっても、時が経つにつれてその時に感じた衝撃的な感情は良くも悪くも風化してしまいます。しかし、何を手放すか、何をこの手に残すか、その選択肢は個々人に委ねられているのです。人は選んだもので形成されているからこそ、何を残すかでその人の未来が変わっていくのです。
 
感情はその瞬間で沸くものであり、言わば条件反射のようなもの。こういう風に思えるようになりたい、有事の際にはこういう風に振る舞えるようになりたいと願っても突然降って湧く感情までは悲しいかな、コントロール出来ません。私たちが出来ることと言えば、起きてしまったことを認めること、その時にどういう感情を抱いたのか、その時の記憶を忘れないようにすることだけ。何を記憶するか、何を今後の糧とするのか、何を忘れて無かったこととしてしまうのか、選ぶことだけでしょう。
 
「私たちは全ての事柄について忘れたい部分と忘れたくない部分を持っている。どこを残すか、残していくかで未来は変わっていく」というメッセージを残してくれた人もあの日の酷い災害を生き延びたからこそ、そしてあの日を忘れなかったからこそこのメッセージを残すことが出来たのです。
 
帰宅困難区域の街並みは意図せずにそのまま残されてしまったものですが、時間が止まったままの空間が残されているからこそ、そこを通る人たちに「あの日を忘れないで」と訴えかけることが出来ていると感じました。
 
起きたことを受け止め、何を忘れずに心に止めておくのか。そしてその残した事柄から何を伝えていくのか。その選択が未来を少しずつ変えていきます。希望に溢れた輝かしい未来は誰かがいつの日か作ってくれるものではなく、今と地続きになっているこの時が作り出すものです。
 
今この瞬間を忘れることも出来る、でも忘れてはいけないこともある。そんなことを私はこの時が止まった土地から教えてもらいました。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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