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母と私のテンプレート


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:和田清美(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
 
 
日曜日の夜、9時から10時の間。
実家の母に電話を架ける。
これが、母と私のルーティーンだ。
「元気ね?」「うん、元気」
この第一声で、要件の9割終了したようなものだ。
お互い、問題なく過ごしているかの確認。
 
そんな母は、30年程前、私の親友の前で大泣きしている。
その親友に、電話で叱られた。お母さんを泣かすな、と。
 
親元を離れ、進学で上京した夜、私は実家に電話を入れなかったのである。
心配しまくった母親が、次の日たまたま私の親友に会ったとたん、泣き出してしまった。
男気のある親友が、速攻電話してくれ、親不孝の私を叱ってくれた、という訳だ。
 
親不孝娘のエピソードとして十分反省しているが、一応言い訳させて頂きたい。
上京の落ち着き先は、学生寮だった。
寮の電話事情は、受信用の電話2台と、発信用の電話1台の固定電話。
当時、携帯電話は存在していない。インターネットもメールもない。
発信電話を使うときは、30人ほどの寮生で順番待ち。
上京当日、いきなり大勢の初対面の人たちに囲まれ、緊張のあまり家に電話を架ける、と言い出せなかったのである。
 
人騒がせな騒動以来という訳ではないが、週1で電話を架けることは現在も続いている。
卒業後そのまま就職し、結婚。
実家に帰る機会を逸してしまったため、気づいたら母との電話は30年近くになる。
 
一度だけ、母から毎週電話しなくていい、と言われたことがある。
遅めの結婚をした直後だ。これからは二人の時間を大切にしなさい、こっちのことは気にしなくていいから、と。
そういうものか、と思ったが、後からジワジワ寂しさが来た。
これが独立するということなのか。
20年以上続けていたものをあっさり終了宣言され、心にポッカリ穴が開いたような気分。しんみりした。
しかし、次の週には母親から電話が架かってくる。
「やっぱり日曜日にあんたから電話がないと落ち着かなくて。えへへ」
……しんみりを返せと思ったが、向こうも寂しかったのかい、と可笑いやらホッとするやら、複雑な心境だった。
 
電話は、会話が弾むこともあれば数分で終わることもある。
長電話になる時もあるが、本当に悩んでいることや心配事、確信に触れるようなことは話さない。
お互い離れているから、困っていることや不安なことを話しても心配させるだけ、と分かっているからだ。
だから、傍から聞いたら素っ気ないやり取りだと思われるだろう。
 
家族間でも、何を考えどう思っているのか、言葉にすることは大切だ。
家族はそれぞれ違う人間。親しき仲にも礼儀ありである。
それが出来る関係性は、素晴らしいし理想だ。
 
ただ、どういう訳かそれが出来ない家族も存在する。
距離が近すぎるゆえの照れか、過去の何かが原因か、それぞれの性格に起因するものか。理由は様々。
我が家も、言葉にすることが出来ない家族だ。
 
一時期は、言葉で気持ちを表現できる家族関係を築きたい、どうにかしたいと思っていた。
何故、我が家はそれが出来ないのだろう、とうんざりしたこともある。
何がいけないのか、どこで間違ったのか。
そうは思うくせに、自分から気持ちを開示することは躊躇して、そんな自分も嫌になったりした。
 
会話が少ないことは、気持ちが無いことなのだろうか?
おかしなことなのだろうか?
そう思って振り返ってみると、会話が少ない故の気詰まりな時間や思いは、身内だからと気を許しているところもある、と思うようになった。
直接会話をしなくとも、行動や第三者へ語った言葉の端々に、お互いの思いや気持ちは確かに存在する。
そのことに気づけるようになった。
「身内だから」は免罪符にはならないが、家族への気持ちや思いが無いわけではない、と理解できるようになって、無理に会話をする必要はないのかもしれない。そのように気持ちが変化してきた。
直接言葉にしなくても、それが家族の在り方なら認めても良いのではないか、と。
 
直接的な言葉や感謝が無くとも、少しでも伝わればそれでいい
想いを受け取ったと少しでも感じられれば、それでいい。
諦めかもしれない。
でも、それでいい、と思えるようになった。
 
母が親友の前で大泣きしたこと。やっぱり日曜日は電話したいと前言撤回したこと。
私には、そんな思い出たちが要所要所にある。だからそれでいい。
そう思えるようになった。
 
ちなみに、私の母に号泣された親友には、娘がいる。
2年前、長女が社会人となり一人暮らしを始めた。
そのときの心境は
「1ヶ月ぐらいは寂しくてしょぼしょぼだった」そうだ。
すぐ慣れたけど、と飲みながら彼女は明るく笑った。
当時、私の母に泣かれて怒ってくれた親友は、今、当時の私の母と同じ心境で娘を見送った。
時は流れる。流れる時の中で、出来事は巡る。
当時の母の心境に思いを馳せて、申し訳ないようなくすぐったいような温かい気持ちになる。
 
一週間のスタート前夜、日曜の9時。
「元気ね?」「うん、元気」
テンプレートとなったやり取りに安心しながら、今週もまた言葉少なに電話を架ける。
 
 
 
 
*** 
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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