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どうしようもない社会人1年生への処方箋


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石田友希(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
一瞬、何が起きたか分からなかった。取引先のHさんから電話だと言われ、とある書類の状況について聞かれた後、気づいたら猛烈な雷が落ちていたのだ。先日、担当交代のあいさつに行った時には、とてもにこやかだったのに。初対面にもかかわらず、親しく声をかけてくださったのに。電話口のHさんは、私の知っているHさんとは、まるで違っていた。
あまりの衝撃に、社会人1年生だった私は声が出なかった。頭が真っ白になるとは、こういうことなのだと、その時初めて知ったのだ。
 
そもそもの要件は、私が定期的に届けることとなっている資料についての問い合わせだった。通常なら月に2~3回のペースでお届けに行かねばならないところを、新人だった私は段取りがわるく、しばらくお届けできずにいたのだ。
資料の中身は見込み客のデータがまとめられたもので、Hさんはそれをもとに販促活動を進めていた。競争相手の多い業界かつ扱っているのが客単価の高い商品ゆえ、可能性のある客がひとりでもいれば、いち早くアプローチしたいというのが当然の考えだろう。Hさんも客の獲得に向けて熱心に草の根活動を続けていた。
 
そんな激しい競争が繰り広げられているという想像すらできなかった私は、Hさんに「いつもの資料が届かないけど、どうなっていますか?」という質問に対し、のんきに「忘れていました」と言う大失態を犯してしまったのだ。その瞬間、Hさんは何かの糸がプツリと切れたように怒鳴り声を響かせた。
 
「あんた、なにしてくれるのよ!」
 
社会人生活で、他人にここまで激しくドヤされたのは、後にも先にもこの一回限りだ。
けれども今なら、はっきり分かる。大切なお客様の業務に支障をきたしてしまうなど、もってのほか、叱られて当然のことをしたのだと。
その時の私は、訳が分からないながらも、誰かに報告しなければということだけは察知し、上司に先のやりとりを伝えた。すると上司も一瞬で事の次第を把握し、とにかく早く謝らなければと取引先まで同行し、Hさんと取引先の社長に対し、一緒に頭を下げてくれた。
むしろ私よりも深く頭を下げてくれていたと思う。
機会損失という不利益を与えてしまったことを詫び、その補填として自社の商品をスケールアップして提供する機会を設けることで、先方も何とか納得してくださった。
大失敗をしたとはいえ、何とか巻き返しのチャンスをもらった私は、とにかく安堵したのを覚えている。
それと同時に、もう二度と失敗できないというプレッシャーも重くのしかかった。
唯一の救いだったのは、普段は厳しい上司がこの時ばかりは励ましてくれたことだ。
「私の担当顧客だったら、書類が多少遅れても大して気にしないと思う。同じことを前にしても、人によって優先することが違うから、かたや一大事になったり、場合によっては問題にもならなかったりして。だから今度のことで、そんなに気を落とさなくていい。けれど、相手が大事にしていることを把握して、そこだけはしっかり押さえなきゃいけない。今後は気を付けていこう」
新卒で入社して数か月目の私には、目からうろこの話だった。自分の小さな気のゆるみが、相手に大きな損害をあたえてしまう……考えるだけでもゾッとするが、そんな当たり前のことに気づかせてくれたのがHさんであり、相手の優先順位を意識させてくれたのが当時の上司だったのだ。
 
その後1年は、かろうじて繋いでもらったバトンを守るべく、とにかく必死にやってきたつもりだ。ミスのフォローで提案した商品は、正直、新人にしてはスケールの大きなものだった。けれど、Hさんも取引先の社長も良いものを作っていこうと力を貸してくださり、少しずつ手ごたえを感じることができた。先方にスケールアップした商品を提供するという目的だったけれど、気づいてみれば、自分が成長する機会になっていたのだ。
さらにその先の1年は、前年の提案内容で正規の契約をしてもらい、自社の売り上げに結び付けることもできた。辛抱強く向き合ってくださった取引先にも、チャンスをつくってくれた上司にも、とにかく感謝である。当時お世話になった方々には、今も頭が上がらない。思い切り怒るも、とことん付き合うも、実際には面倒なことだし、言いたいことをグッとこらえて穏便に済ませた方がいい。けれどあの時出会った人達は、新人の私に対しても本気だった。むしろ仕事のすべてにおいて真剣だったといえるのかもしれない。
 
それから私にも後輩ができ、取引先の新入社員とやりとりする機会も増えた。
今となってはフォローする側にまわっているけれど、初心を忘れてはいけないと自分の心に言い聞かせている。Hさんの心意気が燃え上がる炎なら、私の熱意はろうそくの明かりくらいでしかないけれど、誰かの足元くらいは照らせるはずだ。そう信じて、手出しするのをこらえて見守ったり、時にはさりげなくヒントを出したりと、出来る限りを尽くしている。
こうして人を育てることもまた、成長の機会なのだ。
新卒だった頃の苦い経験は、折に触れて私に気づきを与えてくれる。
思い出すと今も背筋が凍るけれど、この記憶を胸に留めておくことが、過去と未来の自分を比べる指針になるのだろう。心の中にいるHさんに叱られないよう、うまずたゆまずやっていくのみだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-10-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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