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メディアグランプリ

SNSが引き寄せた私のお姉さん

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大下歩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「最近の若者は人とかかわるのが苦手だ。SNSばかりやっているから、リアルな人間関係が築けなくなっているんじゃないか?まったく、スマホばかりやっているとろくな人間にならないぞ」
こういう、SNSを問題視する声は社会にあふれている。それなりに調査や実体験に基づいた意見から、自分にとって馴染のないものをさげすむ言いがかり的なものまでさまざまだ。かく言う私も、SNSはあまり好きではなかった。たしかに便利で面白い。でもSNSで知り合った人同士でトラブルになったり、SNS上の誹謗中傷が原因で悲しい事件が起きたりするのを見るととても怖い。特にSNS上で知らない人とつながるということについて、ネガティブな印象があった。
そう、ちょうど1年前、彼女が私の家に現れるまでは。
「はじめまして。ゆりこです」
私の兄と連れ立って玄関先に現れた彼女は、トレーナーとジーンズという飾り気のない服に身を包んだ穏やかな雰囲気の女性だった。  歳は兄より1つ上野31歳。擁護学校の先生をしているのだという。
握手をし、家に招き入れながら、私は好奇心を抑えきれなかった。どんな人なのか、性格は良いのか、信頼できるのか、くまなく観察してしまう。本人には申し訳ないが、こちらにもやはりそうせずにはいられない事情があった。何しろ、彼女は私の兄の婚約者。それも出会ったその日から同棲同然の生活を始め、1カ月足らずで指輪を交換した人なのだ。2人の出会いは、スマホの婚活アプリだった。
アプリで知り合った人と婚約したと兄から聞いたとき、私たち家族は皆複雑な心境だった。  恋人を見つけるために登録する恋活アプリや、最初から結婚相手を見つけることを目的とした婚活アプリなるものの存在は知っていたが、まさかわが家からそれで結婚する人が現れるとは思わなかったのだ。形式や習慣にあまり頓着しない母は、「今時だねえ」と面白がっていた。一方警戒心が強く人目を気にするタイプである父や姉は、「そんなにすぐ結婚を決めなくても」、「本当に大丈夫なの?」と懐疑的だった。  そして私自身は、兄たちの結婚がどうこうというよりむしろ、婚活アプリとは いったいどんな仕組みで、どんな人が利用しているのだろうかという 社会学的な興味の方が勝っていた。
そんな私たちに、兄は力説した。
「婚活アプリといったっていろいろあるんだ。たしかに遊び半分でやる人もいるけど、俺たちがやったのは毎月結構な額を払わないといけないやつだから、やってる人はみんな真面目に結婚を考えているよ」
「自分の特徴や相手に求める条件を、全部プロフィールに記載しておくんだ。結婚して住みたい地域とか、職場や職種、年収とか。出会い次第すぐ結婚したいのか、何年か付き合ってから結婚したいのかなんてことも書くんだよ。自分の希望に叶う条件の人がいたら『いいね!』ができて、お互いが相手に『いいね』した時点でメッセージのやりとりができるようになるんだ」
「俺たちは出会ってすぐ2人でアプリを退会したよ。もう他の人は探さないから」
なんて効率の良いシステム!兄の話を聴きながら、私は内心舌をまいた。ネットという不特定多数の人が集まる場所のメリットを存分に生かし、かつ利用者同士でトラブルが起きないよう細心の注意が払われている。
家庭を築くということは、夫婦で協力して一つの大きなプロジェクトを実施するようなものだ。将来どうなっていたいかという大きなビジョンを共有し、そこから逆算して計画を練る。お互いの職場や転勤の可能性を考慮して住む場所を決めたり、2人の体調や経済状況から子どもを作るかどうかの選択をしたり、子どもが生まれればどんな教育を受けさせるか考えたり…。やるべきことは無数にあり、事業計画並みの綿密なプランが要る。
その意味で婚活アプリは、最初から自分の描くプロジェクトのビジョンや計画を公開し、共同運営者を募る場だ。仲良くなった友達同士で、同じ志を持ってプロジェクトを立ち上げるのが従来の結婚の流れだとすると、こちらはすでに自分の頭の中にある計画を大勢の人に向かってプレゼンし、賛同してくれる人を探すイメージだ。どちらもプロジェクトを始める方法としては間違っていない。
それに、同じような人生のビジョンを描く人は、人間としても愛称が良いのかもしれない。  2人して挨拶に来て、わが家のリビングで仲良くしている2人を見てそう思った。出身地、血液型、家族の出身校や職業……。不思議なことに、2人には共通点が多い。何度かメッセージをやりとりし、初めて対面した瞬間に、まるで前から相手を知っていたような気がしたらしい。今ではすっかり私たち家族とも仲良くなり、一緒にご飯を食べたり誕生日プレゼントをあげたりする。
そして再来週の土曜日、兄たちは晴れて結婚式を挙げる。
「SNSで人と良い関係を築くことはできない」と思っている多くの人たち、そしてかつての自分に言いたい。それはSNSそのものの問題ではなく、使い方の問題だと。きちんと礼儀を守って使うことさえできれば、SNSは逆に素晴らしい出会いをもたらしてくれるものになる。もうすぐ花嫁になる私の新しいお姉さんが、その何よりの証拠だ。
 
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2020-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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