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ざわざわ受験と冬の空


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木かおる(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「イトコが受験してあの学校に入ってさぁ」
「えっすごいじゃん!」
「うちも入れようかなぁ」
 
保育園母たちの飲み会で、
小学校受験、中学校受験がどうの、という話をきいてから3年ほど経つ。
当時長男が2歳になるかならないかの頃だったので、
「えっ、はや! え??」
ちょっとした衝撃だったことを今でも覚えている。
 
千葉の片田舎、90年代初頭に小中学校時代をすごした私。
小学校は町に2つ。中学校が1つ。
同級生約150人のうち中学受験した人は記憶のある限り2人。
町で評判の勉強ができる男子だった。
自分には縁のなかった話。
公立中学に進学する以外の選択肢を考えたことがなかった。
 
保育園母たちはライトに、
どこを受ける受けない、
あの先生で、あの塾で、などと話が飛び交っている。
 
東京西側、出産タイミングで引っ越してきたこの町。
やばい、もしかしてとんでもないところにきてしまった?
東京って、こんな感じなの?
 
ざわつき、ひっかかりつつもあまり深く考えられず日々は過ぎていき、
長男は、来年小学校入学を迎える。
 
そんなタイミング、ひょんなきっかけで、
友人から、自分たちの中学選択について対話する場の誘いがあり、
保育園母飲み会のざわついた気持ちをふいに思い出し、参加させてもらった。
 
日曜早朝、オンラインで開かれたその場は、とても居心地の良いものだった。
 
男性、女性、受験非受験、公立、私立、国立、海外……
さまざまな学校を選択した当事者が当時を振り返り、
小中学校時代に感じていた気持ち、今感じている気持ちを言葉にする。
 
良かったこと、もっとこうだったら良かったなぁと思ったこと。
 
どんな経験をして、人生においてどんなふうに糧になったのか、
振り返って言葉にする、そんな会にしたい、という進行役の友人の言葉どおり、
丁寧に経験と気持ちを紐解いていく場になった。
 
中学生の頃、私は……。
 
それまでクラシックと歌謡曲しか知らなかったけど、
友達や好きな人の影響で、
沢山のポップ、ロックミュージックを知り、バンドに興味を持って、
様々なカルチャーの良さと、人には好みがあることを知った。
 
わからない勉強はなかったけれど、「これだ!」と突き詰められるものがみつけられず、
そこから数年後、仕事の選択にも迷いが出た。
 
学ランの裏に天上天下唯我独尊って派手な刺繍がしてあっても、
心根が優しい人は沢山居て、
先生に気に入られ善良な笑顔の裏で平気で友達の悪口を言う人も居て、
人は見た目じゃないことに気づいた。
 
合唱コンクールで男子が全然練習しない割に本番だけドヤ顔で張り切って歌って、
今まで練習してきた皆の頑張りを壊されたようですごく腹が立って、
しかもそれが先生方に「男子の声はいいのに他が弱い」と評価され、
先生たちは何見てるんだろうとふたたび腹が立ち、
結果だけじゃなく過程を見られる人になりたいと思った。
 
部活に遅刻して連帯責任で全員グラウンドを1時間走らされ、先輩たちに恨まれ、
何の意味があるんだろうと思った。
 
流行りの髪型を皆が真似して褒め合って、
それにしないといけないような空気があって、
同じようにすると楽だけどなんだかおかしいなと思いながら、
言葉にできなかった。
 
……。
 
30年近く前のことだからぼんやりとしか思い出せないかと考えていたけれど、
自分と異なる経験をしてきた参加者の皆さんの話を聴いているうちに、
鮮やかに記憶が蘇ってきていた。
 
そこには私が今持っている価値観のベースが、確かに存在していたことに気づく。
 
そしてひとつ、気になっていた。
 
受験って、何なんだろう?
 
小中学校で受験した方、子どもを受験させた方、
さまざまな話をしていく中で、私は、
「小学、中学受験する人=勉強のできる人」で、
親が無理やり受けさせる、
という思いこみを、根強く持っていたことに気づいた。
 
皆の話を聴いていて、勉強とは違う観点で、
その人が輝く場所、やりたいことができる場所を選ぶ、という選択肢があることを知った。
 
やりたいことって、そんなに簡単に見つからないと思っていたけれど、
それを周囲が見いだせる、子どもも自分で選び取れる、ということは、
「これが好きだ」「これがいやだ」が自分でわかることなのだと気づいたとき、
アッと思った。
 
それって、つまり、自分を知っているってことだ。
 
たとえば自分が何に対してどう感じるのかを言葉にしてみたとき、
聴いた人にジャッジされるのではなく、
そうなんだね、と受け止めてもらえる土壌があってはじめて、
ああ、こういう風に考えるのが自分なんだなと気づくことで、
「自分を知り、選ぶ力」は育まれるのだと思った。
 
他者が「自分の判断に自信を持って!」「あなたに任せるから自由に選んで!」
と言ったから唐突に身につくものじゃない。
 
そしてその力が育まれるのは、誰とどこに行ったとか特別なことではなくて、
日々の生活であり、話す、聴く、であり、
小さなやりとりの積み重ねが、自分を知り、未来を選び取る力を育むのだと思えた。
 
気持ちが素直に出せる場所がひとつでもあれば、
きっとその人の未来は豊かになるのだろう。
 
こうして私は、自分の話をしているうちに、
子どもたちのこれからに思いを馳せていた。
 
私の人生は私のもので、子どもの人生は子どものもの。
 
彼らが生きていく中で、自分で自分にGOを出して選び取っていってほしいから、
私は、学校を調べるより先に、彼らの話をたくさん聴こう、話そう。
 
少なくとも今現在、彼らが素直に気持ちを出せる場所になっていたいし、
「あなたはどう思うの?」と問いかけていたい、
そう思った。
 
早朝2時間の対話を終え、窓を明けると冷たい空気と澄んだ冬の空。
保育園母飲み会でざわついた私は、もう居なかった。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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