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メディアグランプリ

星空にお餅!


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:笹川 俊明(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「ぷくぅ~っ」
網の上で真っ白い四角が膨らみ、湯気が立つ。
メトロノームほど正確で小刻みではないが、右に左にその身体を揺らす。
うっすらと茶色に染まり始めると、香ばしい香りが鼻をくすぐりだす。
「あ~。もう幸せ!」
踊るお餅を眺めながら、思わず声がもれる。
そして、もっと網の上をにぎやかにしたくて、真っ赤な炭に新鮮な空気を吹きかける。
「パチパチッ! パチパチッ!」
炭のはじける音に、お餅の焼ける音が呼応し、七輪の上はますますにぎわいはじめた。
 
今年初めてのアウトドアは、我が家のベランダが舞台だ。
自家製のお餅を、炭火で焼いて食べようというのが今回のコンセプト。
しかも、そのお餅の原料であるもち米は、従兄弟の営む農園で栽培された貴重な無農薬米。
親近感2倍のそのお餅を、炭で焼き、自然の味を楽しみたい!
そんなお正月特別企画なわけである。
とてもシンプルな企画ではあるのだが、基本的にインドア派の我が家では、これだけでも一大イベントである。
「炭焼きといえば七輪でしょ!」ということで、年末にネットのセールで七輪を手に入れた。でも、おばあちゃんのぽたぽた焼きに登場するような昔ながらの七輪ではない。
某有名アウトドアブランドがつくった空冷式の七輪である。
七輪という名がつくだけにフォルムは円柱タイプ。しかしながら、珪藻土の粉を粘土にして固めた昔懐かしのテイストではなく、どんな場所でも対応できそうなステンレス製の頑丈な洋風調なのだ。そして、空冷式なんて空調機みたいだが、場所を選ばない親切設計なのである。どういうことかというと、水をひいた内臓タンクが熱を遮断し七輪の底が熱くならない仕組で、例えば家のテーブルの上でも使える安心構造なのだ。
最大限の想像力と精一杯のWEB検索能力を発揮し、一通りの道具をそろえた私。
自他ともに認めるインドア派文芸オタクにとっては、これだけで、もう冒険度120%の大興奮状態だ!
結局、お餅に向き合うには、いささかオーバースペック気味が否めない中、年明け第一弾の大イベントがスタート。
 
「さぁ! 焼くぞ!」
 
緊張感たかまる着火の儀。
炭の間に丁寧に挟んだ新聞紙に、点火!
 
ぼっぅ! ぼぼぼぼぼぼぼぼ……。
 
勢いよく新聞紙は燃えた! が、炭は漆黒のままびくともしない。
 
リトライすること数回……。
「あれ? おかしいな」
新聞紙をちぎる。火をつける。炭は燃えない。やり直し。
またちぎって、つけて、燃えなくて、やり直し。
格闘すること2時間。それでも炭は燃えぬまま……。
私の頭上を、新聞紙の白い燃えカスだけがゆらゆらと舞っている。
 
「もうダメだ! ガスバーナーしかない!」
私は禁断のアイテムにすがる決心をした。
卓上コンロで使うガス管の先につけてガスバーナー化できるアイテムを、近所に住む義理の弟が最近買ったことを知っていたのだ。
「あれしかない!」
彼の家に走り、そして適切で的確な使用説明を受け、また七輪の前に戻った。
炭の山に向かい合う。
手にはしっかりと禁断のアイテムがある。
「いきますっ!」
勢いよく青白い炎が炭をめがけて突き刺さっていく。
 
「ゴォォォー!!! ヴボォォォォー!!!」
 
漆黒の炭は秒で発火! 空気を吹きかけると蛍のお尻のように光が大きくなった!
あの2時間は何だったんだ……。インドア派の自分が情けない。
でも、今、目の前にはこうこうと燃える炭がある。
しばらく眺めていると、その赤く光る炎にうっとりしてきた。
なんという美しい光景なんだろうと、思わず見つめてしまう。
ピンク色に近い赤色といえばいいのだろうか。
上手く言えないが、太陽に手をかざした時にうっすらと肌色がすけた時のあのピンク色。あの純度の高さと生きていることを感じるような色なのだ。
 
こうやって、ようやく火起こしに成功したわけだが、とどのつまり、「インドアくん、道具に助けられるの巻」なのである。どれだけかっこ良くキメようとしても、アウトドアのいろはの「い」で躓いたわけで、家族からも残念な生き物扱いであったことは言うまでもない。
 
とはいえ、このような紆余曲折(だから、そんなかっこいいものではありません)を経て、ようやくお餅を網に乗せることができた。
気が付くとあたりは暗くなり、空には星が輝き始めていた。
肌を刺すように空気も冷え込んできた。
吐く息の白さも濃くなった。
炭はますます赤々と燃え、その熱線のあたる場所だけ顔がほてる。
 
時は満ちた!
家族を呼び、妻と息子と愛犬が七輪を囲んだ。
 
星の輝きが濃くなるのに合わせるかのように、七輪の中の光も強くなる。
そして、網の上のお餅が息を吹くように湯気をだし、ゆっくりと暗がりの空に白い煙が立ち昇る。
 
「パチパチッ! パチパチッ!」
待ちに待った瞬間が目の前に現れた。
 
「おいしいぃ!!」
何も味をつけなくてもいい。ほんの少し香ばしい風味がまたなんともいい。
 
長い時間と手間暇をかけてつくられたもち米。無農薬でつくられるもち米は少ないそうだ。その恵みをゆっくりと炭火で焼きいただく。
効率や成果に追われる日々では感じることのできない時の流れがそこにはあった。
 
空には星が輝き、七輪の上では白いお餅が躍り、家族の笑顔がはじける。
 
火は起こせなかったけど、こうしてインドア一家の一大イベントは幕を閉じた。
また一つ、幸せのカタチを見つけられたのかもしれない。
 
 
 
 
***

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2021-01-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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