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棺に入れてほしい一冊


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:山﨑陽子(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
あなたには自分が死んだ時に棺に入れてほしい一冊はありますか?
死んでもあの世で読みたい一冊。あの世の本棚に大切にしまっておきたい一冊。そんな大切な一冊のお話。
 
高校2年生の春。
私は教室の窓側の一番後ろの席の一つ前に座っていた。出席順番に並べられた机に名前の順で座る。「や行」の私は毎年クラス替えになるとだいだいこの辺の(最後)に座っていたのだ。
しかしこの年は珍しいことに一つだけ違った。私の後ろに座っていた(最後の人)がいたのだ。それがMとの最初の出会いだった。
Mとはその時に初めて同じクラスになって話をした。仲良くなるのに時間はかからなかった。
昨日見たテレビの話やクラスの子の話、今日は自動販売機で何のジュースを買うか……など、とにかくいろんなことをなんでも話した。
私は高校を卒業と共に地元を離れ、Mは地元に残った。最初は頻繁に連絡を取り合っていたが、それぞれに日々の生活に追われてなんとなく疎遠になってしまった。
それでも時々は連絡をしあってお互いに近況報告をした。
 
ある日、Mからの突然の結婚報告のメールが来た。私から見た彼女は仕事をバリバリするキャリアウーマンの様だった。先に結婚して子どもを持ち家庭に入った私にとって彼女は社会に貢献している素敵な人に見えてとても羨ましく思ったこともあった。
そんな彼女が結婚するという。そんな相手がいたことも知らなかったし、その相手が年下だというのもびっくりしたが、彼女の結婚を心から私は喜んだ。
 
彼女からの結婚報告を受けて私は一冊の本を思い出した。重松清著の「きみの友だち」という本だ。足の悪い主人公の恵美ちゃんと腎臓の病気をもつ由香ちゃんの友情の話で、その家族や友だちのことも書いた連作長編だ。
私はこの物語が本当に好きで何回も繰り返して読んだ。(ドラマや映画にはなってほしくないなぁ……)とさえ思っていた。すでに私の頭の中で完全版として映像化されていたからだ。(のちに映画化されていたことを知ったけど)
最初に読んだ時から恵美ちゃんと由香ちゃんの姿に私とMを重ねて読んでいた。恵美ちゃんが私で由香ちゃんがMだった。物語の中での二人の会話が高校時代の私たち二人と重なる部分があったし、何より由香ちゃんの性格とMの性格が似ていたからだった。
 
本棚からこの本を出して彼女に贈った。
『結婚して名字が変わってもMはMだよ』という意味もあったし、『Mは私にとって離れていてもずっと大切な友だちだよ』という意味も込めてこの本を贈った。
贈ったあとになってから、なぜ私の手垢がたくさんついた本をプレゼントしたのだろう?お祝い事なのだから新しい本を買ってプレゼントしたらよかったのにと後悔した。
私は正直に「私の本棚から嫁に出しました」と伝えた。
「うまいこと言うねー」とM。
「でも本棚から出して贈ってくれるところはなんだかあなたらしいね」と言ってくれた。
私は少し引っ掛かってしまったけど、褒め言葉としてとらえた。
 
Mが結婚してから数年たった。
私はMに手紙を書いた。「人生のソロ活動を始めました」と。
なるべく明るくポップに報告したくてひねり出した言葉だった。
(彼女はどう受け取ってくれるのだろう。びっくりさせただろうな。でもちゃんと受け止めてくれるだろうな)と思って数週間過ごした。
 
しばらくたってMからレターパックが送られてきた。
びっくりした。彼女らしく丁寧に封がされていて開けるのに手間取った。
相変わらず用心な性格だ。開けてみるとあの本だった。目を疑ったし、Mから返却されたのか? と思った。
中に手紙が一緒に入ってあった。
「今のあなたにとって大切な一冊だと思うので贈ります」
その一文に込められた気持ちがとっても嬉しくて独りで泣いた。
私がMにこの本を贈った気持ち、そのままを贈ってくれたように感じがした。
「わたしは本屋さんで新しく買って贈ったよ。あなたがくれた本はちゃんと持っているからね」と書いてあった。それを読んで今度は笑った。こういうところがMらしいなと思って「あはは」と声を出して独りで笑った。
 
今でもMから贈られたあの本は私の本棚に大切にならんでいる。
文庫本だから鞄に入れて持ち歩くときもある。ちょっと緊張する場所に出かける時も電車の中でこの本を読んで緊張を和らげる。私にとってこの本はお守りのような役目も果たしている。
 
Mにはこれから先、何かあったらこの本を読んでほしい。
お互いに同じ本を人生の節目に贈りあったこと。
これも何か意味があるのではないかと思ってしまう。
ここでもうひとつ意味を付け加えたい。
『いつまでもずっと変わらずあなたの友だちだということは変わらないから』
と言うことを。
 
そして、これからの人生の節目でもこの本を私は必ず読み返すだろう。
人生最後の節目のとき。それは死ぬとき。
だから私はこの本を棺に入れてほしいと思うのだ。
 
 
 
 
***

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2021-01-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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