メディアグランプリ

顔も本名も知らない友人たち


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:廣田夏(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「一緒にオンラインゲームをやらない?」
大学2年生の夏休み前の試験期間中、いつも一緒に講義を受けている松本くんからこう誘われた。
 
「いいけど、どんなゲームをするの?」と僕が聞くと
「チームを組んで銃を打ち合うゲーム! 今、高校の友だちとチーム組んでやってるんだけど、1人メンバーが足りないんだ。いいだろ?」
 
それはPlay Station3で遊べる「コール オブ デューティ4 モダン・ウォーフェア」というゲームだった。6対6のチーム戦が主流で現代の軍隊が使っている銃で戦うテレビゲームだ。エアガンを使ったサバイバルゲームをそのままゲーム機で再現したようなテレビゲームだった。
 
夏休み中、特に予定も無かったのでやってみることにした。実際に参加してみると面白い。男の子であれば小さい頃、誰しも一度はやったことのあるであろう「銃の撃ち合いごっこ」が見事に再現されている。どハマリしてしまった。
またゲームをしながらコミュニケーションを取れるというのが更にゲームを面白くさせていた。「ドラゴンクエスト」のようなこれまでのゲームは一人で黙々とやって、次の日に学校で友達と「どこまでクリアした?」くらいのコミュニケーションしか取れなかった。
しかしオンラインゲームだとリアルタイムにコミュニケーションが取れ、しかも”相手チームを倒す”というゴールを共有しているので盛り上がる。
新しいオンラインゲームが出るたびにコミュニケーションツールが進化していった。僕が始めたときのオンラインゲームはゲーム内の通話品質があまり良くなく、やり取りは主に主にチャットだった。
そのため、敵味方がリアルタイムで動き回り銃を撃ち合うゲームでは、キーボードでチャットしている間に相手に銃で撃たれることありイライラさせられた。
だがその後、通話機能も改善されていって徐々に声でのやり取りがメインになっていった。初めて音声でやり取りするときはドキドキした。なぜなら僕は大学の友人である松本くん以外、顔も本名も知らないからだ。だが慣れとは怖いもので、音声によるやり取りを繰り返すうちにどんどん違和感が無くなっていった。
結局、松本くんと彼の高校の友だち4人とは大学卒業まで、ほぼ毎晩遊び続けた。昼間は大学の講義を受け、夕方バイトに行き、家に帰ってきたら深夜までオンラインゲームというルーティンを繰り返した。
しかしそんなルーティンもある日終わりを告げる。就職活動が始まったからだ。手書きでエントリーシートを何枚も書いて、書類選考に通れば着慣れない黒いスーツを着て面接に行く毎日。家に帰ってきても、疲れてゲーム機のコントローラーを持つ元気がなかった。
「週末くらい一緒に遊ぼうよ」と声をかけられたが、週末はエントリーシートを書かないといけないため断った。そんな日常を送っていると自然とゲームから気持ちが離れていった。就職活動が終わったあともゲームに復帰することはなかった。
直接の友人である松本くんとは同じ研究室で卒業旅行も一緒に行く位、仲の良い交流が続いていたがオンラインを介して友達となった彼の高校の友だちとは交流が無くなっていった。
 
ゲーム熱が戻らないまま社会人も3年目になるある日、しばらく会っていなかった松本くんから突然LINEが来た。
「実は今度結婚するんだ。招待状送ってもいいかな?」という内容だった。もちろんOKした。
 
結婚式当日、案内された”大学のご友人様”という席札の置かれている席に座っていると突然知らない男性から声をかけられた。
「もしかして……ナナトさんですか?」
ナナトは僕が当時使っていたオンラインネームだ。そして名前を尋ねてきた声を聞いて自然とオンラインネームが思い出された。
「その声、もしかしてマロンマン?」
当たりだった。優しそうな丸顔の彼の本名は栗田さんだった。名前に”栗”が入っているから”マロンマン”というオンライン名にしたそうだ。
更に2次会で松本くんを含む他のメンバー全員が合流し、当時の(といってもゲーム内だが)思い出話に花が咲いた。
でもみんな本名ではなくオンラインネームでお互いを呼び合うものだから、周囲からは怪訝な目を向けられていた。松本くんの嫁さんは苦笑いしていた。
 
この記事を書いていて
「もしかして仕事もそのうち、顔も本名も知らない人たちとすることになるかもしれないな」
と思ってしまった。数年前にこんなことを言ったら笑われていただろうが、コロナ禍によって社会がリモートワークを推進するようになると可能性は低くはないだろう。
「そんなんでコミュニケーションは上手く取れるんだろうか?」とか「仕事はちゃんと進んでいくんだろうか?」と心配する人たちも出てくるかもしれない。
でも僕はあまり心配していない。案外顔が見えなくてもコミュニケーションは取れるし、本名を知らなくても仲良くなれる。だから共通のゴールさえ決まっていたら仕事も案外なんとかなってしまうんじゃないかと思っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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