メディアグランプリ

環境問題は空飛ぶじゅうたんから


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記事:鈴木 道(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なんだろう? あれ」
 
洗濯物を干しにベランダに出た私の目に屋根屋根の向こうの高圧線に引っかかっている何かが目に留まった。「風でとばされた畑のビニールかな」「あぶないな」とよくよく目を凝らす。
 
「あれ、あそこにも。向こうにも」
高圧線に引っかかっている謎の物体は一つではなかった。足元にいる蟻に最初は気が付かなくても、一匹見つけると急ぎ足で歩きまわる蟻が次々目にとまるように、その物体はこっちに3つ、向こうの鉄塔の近くに4つと複数あることが分かった。よく見るとそこにはなんと人がいるではないか。ビニールのように見えたのは、物を落下させないための、あるいは自分が落ちないためのかご型のネットだ。かご型のネットの上に、まるで一寸法師がお椀の舟で川を渡るように、送電線にぶら下がるようにして作業をしていたのだ。
 
私の家の近所を高圧線が通っている。高圧線の下は遊歩道になっていて、数百メートルおきに鉄塔が立っている。このたび、その鉄塔が建て替えられたのだ。送電線が外され、鉄塔が解体された。工事に特に関心も持たず、飼い犬が亡くなり遊歩道を散歩する機会もなくなっていたので、ほとんど気が付かない間に工事は着々と進められていた。ただ、送電線が外されている間、遮るものがなく空が広々と見渡せた。
工事中は、他のルートを使って送電をしていたのだろう。
「工事をやめてこのままにしておいてほしいな」
「このご時世、工事予定変更してみんな地下に埋められないのかな」
と思いながら空を見上げていた。
 
そうこうしているうちに、新しい鉄塔が建てられ、5月のある朝、作業員があの空飛ぶじゅんたんのようなかご型ネットにのって送電線で作業をしていたのだ。
あんなところで作業できる人は、そう多くはないはずだ。かなり特殊な技術がいるのだろうと想像しながら、写真に収めた。それからしばらくの間、通勤や買い物の時も、別の鉄塔のところでも作業をしているのを見かけ、空を見上げて見守った。
 
通常の電柱くらいの高さの作業だと怖さを感じるが、あれだけ高くなるとむしろ怖くないらしい、と教えてくれた人がいた。確かに、上空で作業をしている人たちは何やら楽しそうに話しながら作業をしていた。内容は分からないが、作業上の話というより世間話をしながら作業をしてるという風にも見えた。
コンビナートの配管の工事を手掛けたことのある息子の、こうやって手作業で確認していかなきゃいけないことがあるんだね、と言う言葉に妙に納得もした。
この光景は私の周りで話題を提供してくれた。
 
私たちの生活に電気は不可欠だ。スイッチを押せば一瞬で明るくなり、部屋を暖めてくれる。お湯も沸かしてくれる。電気は当たり前に、気軽に使え、なくてはならないものだ。そんな私たちの生活も東日本大震災に伴う福島第一原発の大きな事故の際は、電気を使うことに大きな待ったをかけられた。首都圏で使われる電気が福島の原発で作られていたことを私はその時初めて知った。それは電気を使う側の責任について考えるきっかけにもなったと思う。
 
電力会社を自由に選べるようになり、我が家は再生エネルギーの比率の高い会社に切り替えた。電気に色がついているわけでもなく区別できるわけではない。同じ送電線を流れてくるのでどの会社の電気でも同じと考える人もいるが、どの会社に電気代を払うか、でその会社の考え方を応援することになるのではないだろうか。私は、原子力発電はもうやめてほしいと思っている。その願いを込めて電気代を払いたい。
 
空飛ぶじゅうたんのようなネットで防御しながら高所で作業する作業員の姿は、原発問題を持ち出すまでもなく、私たちがコンセントにプラグをさし、スイッチを押せばすぐに使える電力について、コンセントやスイッチからその奥の目に見えない部分に関わる多くのことを想像させてくれる。この数年の間に立て続けに全国各地で地震や台風などの災害で大規模な停電が起こった。昨夜もこの大寒波と大雪のなか、停電で暖房が使えず凍えている人々のことがニュース番組で報道されていた。停電が起これば昼夜を問わず復旧作業に取り組む人がいて、老朽化が進めば住民の気に留められることもなく黙々と日々の工程を進め、新しいものに建て替える作業に従事する人たちがいる。一つ一つの積み重ねで私たちは便利に生活できている。
便利であるからこそ、手軽であるからこそ、それは無限に使えるものではないことを知り、私たちが生きている環境にできる限り負荷をかけずに、長く長く使い続けることができるように気を配っていかなくてはいけない。
空飛ぶじゅうたんは、コンセントのその先の私たちが忘れてはいけない問題を話題にさせてくれた。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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