タイの悪人顔
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記事:北濱直子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「$&%#?&!!」
何を言っているのかわからなくてキョトンとしていると、英語でパスポートを見せろと言われた。何を言っているのかわからなかったのは、どうやらタイ語だったらしい。ここはタイの空港だ。チェックインも終わって、後は飛行機に乗るだけなのにどうしてパスポートを見せろなんて……
2003年の秋、私は友人とタイへ旅行に行った。行き帰りの飛行機には各自で乗り、現地でのガイドのみついているツアーだった。何度目かの海外旅行だったが、東南アジアへの旅行は初めてだった。遺跡を見に行くには結構な移動が必要だし、言葉が通じない不安もあったので、ツアーに申し込んだ。今まで行った国は都会ばかりだったので、アユタヤなどの遺跡が見られるのがとても楽しみだった。
行きの飛行機はJALとタイ航空の共同運行で、どちらの国のCAさんも乗っていた。飲み物を聞きに来てくれたのは、タイのCAさんだった。隣にいた友達には日本語で話しかけたのに、私には英語で話しかけてきた。周りにはお客さんはおらず、別のグループと勘違いした様子もない。もしかしてと思い「タイ人だと思いました?」と聞くと「すみません、そう思いました」と謝られた。
タイに着いて、現地のガイドさんを初めて見たとき、とても懐かしい感じがした。と言うのも父にとても似ていたからだ。濃い顔なので沖縄でうちなんちゅかと聞かれたことがあったが、私のルーツはタイにあるのかもと思った。
宿はバンコクで1番高さの高い、素敵なホテルだった。最上階にライブバーがあり、バンドが演奏をしていた。お酒も音楽も好きな私たちは、ツアーで一緒になった同年代の女性2人と宿泊していた3日間、毎日そのライブバーへ行った。連日観に行っていたからか、最終日にバンドのメンバーが席に来てくれ、お互い片言の英語で話をした。どこから来たの?とボーカルの女性から聞かれた。同行者が端から、日本と答えていった。最後に私の番になった時に、ボーカルの女性が自分と私を交互に指差して「same?」と言った。「一緒じゃないです、日本です」と返事をしたが、4人中3人日本と答えているのに、私だけタイと思われるくらいタイ人ぽい顔をしているのかと思った。
見たことのない遺跡や水上マーケットに行ったり、象に乗ったりと楽しい4日間だった。それなのに最後になぜ……
どうして検査も終わっているのに、パスポートを見せろなんて言うんだろう?
旅行へ行く前に読んだ地球の歩き方に、警察官の格好をした人からパスポートを見せろと言われ、見せるとパスポートを取られることがあるので注意するようにと書いてあったことを思い出した。チェックインが終わっているのにパスポートを見せろなんて怪しすぎる。そう思った私は「Why?」と聞いた。
「It’s my duty」
「それが仕事だから」
そういう意味で聞いたんじゃないのに! 自分の英語力のなさに苛立ちながら、それ以上何も言えなかった。周りのお客さんも何が起きているんだとジロジロ見てくる。ここで足止めをされて飛行機に乗れないと帰れないし、これ以上いざこざを起こすわけにもいかない。
まず友達がパスポートを見せた。ペラペラとめくってすぐ返された。なんだ、そんなことでいいのかと、ちょっとほっとした。次は私の番。パスポートを差し出すと、なんとポケットから虫眼鏡が出てきた。やましいことはないものの、流石に虫眼鏡が出てきた時はドキドキした。彼は、虫眼鏡でパスポートじっくりと見はじめた。ほんの数分だったと思うが、何十分にも感じられた後「no problem!」と言ってパスポートを返された。
「no problemちゃうわ!! 謝れ!」と心の中で思ったものの、それを言える英語力もなく、素直にパスポートを受け取った。けれど、友達には「なおちゃんのせいでジロジロ見られて恥ずかしかったわ」とちょっと責められた。私のせいと言われても、こんな顔をしているだけなのに、と理不尽な思いで帰国した。
2003年と言えば、アメリカの同時多発テロ以降、テロへの警戒が強くなっていた頃だ。そして、タイ旅行の直前にもテロがあった。恐らく私は偽造パスポートで渡航しようとしていると警戒されたのだろう。声をかけてきたのが、警官がセキュリティかはわからないが、彼には私が偽造パスポートを持っているタイ人に見えたようだ。数日の旅行で何度もタイ人に間違えられたが、まさか最後に偽造パスポートを持っているタイ人に間違えられるとは思いもよらなかった。
この事件以降、自己紹介をすることがあると、私はタイでは悪人顔です、と言うことにしている。
***
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