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スーパーで肉と魚を見て思うこと


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記事:田村 彩水(平日ライティング・ゼミコース)
 
 
料理は好きだ。
生来の食いしん坊気質もあり、食べることと同じくらい、作ることにも情熱を燃やしている。
スーパーでまだ何の味付けもされていない肉の塊を眺めて、何作ろうかなと想像を膨らます時間は楽しい。
だが、ふと思う。
スーパーに当たり前のように並ぶ肉、肉、肉。魚。魚。魚。
四角いプラスチックの容器に並べられた塊たち。
これ全部、ちょっと前まで生きてたんだよな。
生命、だったんだよな。
元の姿があって、生活があり、家族があって、でも殺されて、バラバラにされて、ここに運ばれてるんだよな。
途端にスーパーが、様々な生物の死を売り物にしているところだと気づく。
 
その昔、私は10歳になるまで肉が食べられなかった。
「肉を食べる」という行為がどうしても受け付けられなかったのだ。
肉を食べる前の、動物を殺すという残虐な行為の上に成り立っているという事実に思いを馳せてしまい、食べる前から気持ち悪くなってしまうのだった。
だが10年間食事の度に受け続けた、親や友人からの「肉が食べられないなんて」という叱責と憐みの混じったコールの連打についに耐えられず、我慢して食べるようになった。
 
最初の最初、肉の食べ始めは肉の存在を自分の認識から消すことから始めた。
具体的には、カレーなど、味の濃いものに交じっている肉から食べるようにした。
そして口に運ぶときは、勉めて肉が元々は生命であったという事実を忘れようと、必死で精神統一をした。
元は命だがどうした、今は食材じゃないか。そうただの食べ物。たべものだ。
そう思って口に運ぶ回数を増やす度に、だんだんと肉の旨みがわかってきて、11歳になる頃には焼き肉大好き少女になっていた。
我ながら極端である。
だが12歳くらいのでは、たまにふと「やっぱり肉を食べるなんて気持ち悪い!」と気持ちが振り戻る瞬間があった。
そんなときはもう、深く考えるのよめようぜ自分、と自分で自分を宥めるようになった。
こうやって感覚を麻痺させて鈍くならないと、やってこれなかった。
だがそれすらもだんだんなくなり、10数年経った今ではやっぱり、焼き肉大好きアラサーだ。
 
こうして肉が嫌いだったこともほぼ忘れて、10年以上の月日が流れたが、ある日、生鮮魚コーナーで陽気に流れる歌を聞いた。
 
きりみきりみきりきりきりみ……
 
何について歌い上げているのか、全く分からない不可思議な歌詞に、思わず振り向いた。
そこにはテレビ画面があった。
そこに映っていたのは……きりみちゃん。
サンリオキャラクターのきりみちゃんだった。
鮭の切り身のあの弓なりフォルムに、かわいい顔と身体がついているという、攻めに攻めまくった斬新な造形のキャラクターだ。
キティちゃん、マイメロディなど、「かわいい」の権化たるサンリオが放つキャラクターとしてはかなり異質だ。
それはおいといて、切り身、つまりすでにその命を全うした後であるはずの切り身が、陽気に歌を歌って生を謳歌している。スーパーの生鮮魚コーナーで。
生前(?)は一匹の鮭だっただろうが、そんな生前(?)の姿は全く想像させない、陽気なきりみちゃん。もはや別個の存在としてのきりみちゃん。
鮭の切り身に対して、私たち現代人が持つイメージを的確に表現している表象じゃないか、と私は買い物かごを下げたまま、静かに感動した。
 
そう、私は、私を含めておそらく平気で肉食をする人は、肉や魚を、元の命を殺して食べている、という事実を普段忘れてしまっている。
分かっているつもりだけれど、あまりその事実について深く捉えようとしない。
鮭と聞いて、川を遡上する魚のフォルムを思い浮かべる人がどれくらいいるだろうか。
おそらく多くの人が、もはやスーパーで綺麗にラップされ、陳列されているあの鮭の切り身を思い浮かべるのではないだろうか。
(もはやきりみちゃんを思い浮かべる人もいるかもしれない。)
そしてそれらが、元はひとつの命であり、自分の身体に例えるならば、右腕や左モモを、差し出してくれていることを、思い浮かべる人はどれくらいいるだろうか。
私たちの日常目に触れるものは、美しさやお手軽さにコーティングされて、その存在の裏側の、歴史や献身、苦しみを忘れさせるようなものが、何気なくそこかしこにあるのではないだろうか。
キレイに、便利に整えられたものを享受することに慣れ過ぎていて、感覚が麻痺しているのではないだろうか。
 
今、私は肉が食べれて幸せだが、たまにふと自分に言い聞かせる。
目の前の肉を、魚を、きりみちゃんだと思うなよ。
このこ達にも、命があったことを忘れるな。
麻痺した感覚を、そのまま捨て置くなよ、と。
この一瞬の自戒によって、募る罪悪感、それがあってようやく目の前の食材とほんの少し向き合える気がする。
生きていくためには食べなきゃいけない。
いただきます。
本当の意味に近い心で、言っていきたい。
 
 
 
 
***

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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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