メディアグランプリ

120万円保留中の今、思うこと

thumbnail


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:梅とら (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
120万円、それは私の年収の三分の一以上の金額である。しがない契約社員の私が必死に貯めたお金、120万円。その金額が保留のまま、相手から返ってこない…こんな宙ぶらりんのまま既に数ヶ月を過ごしている。
 
「イギリスに留学します」 そう言って私は前職の会社を退職した。
 
時は2020年の3月末日。ロックダウンという今まで聞いたことのないワードが囁かれだした時期である。「どうせ行けないんだから」や「おさまるまで続ければいい」と周りに言われながらも私の意志は頑なで「辞めます」の一点張り。最後まで頑固道を貫き退職した。
 
何故なら、私は「辞める」ということを1年以上前にすでに決めていたからだ。仕事の引き継ぎをどうするか、いつ辞めるのか、計算に計算を重ね、出したのが1年以上先の2020年3月末日という選択肢であった。
 
コロナことCOVID-19が世界に広まったのがちょうどその頃である。辞める2週間前までは留学先のイギリスの被害は少なく、むしろ感染地域である日本からの留学生が入国できるかが問題であった。飛行機も普通に運行していたし、学校からもエージェントからもそのような心配の声はなかった。それが一転し、欧米諸国での感染が急増。各都市のロックダウンが始まった。そして学校が休校になり、留学が延期になった。私は最後までそれを周りにひた隠しにし続けた。
 
私は虎である。周りよりも秀でたい、成果をあげたいと必死に仕事をこなし、チームを取り仕切った。その反面、自分より対応ができない先輩方に対して「何でなんだろう」と不満を持ち、先輩と思わない態度の時もあった。まるで『山月記』で自尊心の高さゆえに虎になってしまった李徴のごときプライドの高さだ。そんな人たちに「夢が叶わなかった可哀想な子」という目で見られるのが堪え難かった。しかし私にとってはそんなよりも辞める理由がなくなったことが周りにバレてしまうのを恐れたのだ。
 
そう、私は「留学をするために辞めた」わけではなく「辞めるために留学をした」のだ。そんな私に「どうせ行けないんだから」や「おさまるまで続ければいい」なんて言葉は火に油。さらにメラメラと「辞めたい」気持ちを助長させた。
 
コロナが広まり、チームが忙しくなることも見えていた。長年お世話になった愛着のあるチームだ。チームメイトが苦しむ姿には後ろ髪を引かれるものがある。そして世間では逆に職探しが困難になるであろうこともわかっていた。実際職探し中にはほとんどの面接で「何故この時期に?」と聞かれた。辞めてしまえば自分の行く道は華やかな「留学」から真っ暗闇の「無職」だ。後悔が全くなかっとは言わないが、それでも自分は進まなくてはいけなかった。
 
仕事を辞めてから、同じように辞めていった人達と会う機会が増えた。その時に決まって話題になるのが「私が辞めた本当の理由」だ。怪我をした、体力的に限界、他の仕事が見つかった。皆、そう言って辞めていったが、口から出てくるのは会社や組織、同僚への不満ばかりだ。皆、それが自分の中で限界に達したため、辞めていったのである。
 
人が辞める時、その背景に何があるのかを組まねばならない。何故なら、その人が口に出して言うことは、たいてい「たてまえ」であるからだ。何かを主張する時、人は自分の主張を正当化するためにもっともな理由を探し、自分がすでに出した結果に裏付けをし、主張する。会社に何の不満を持たない人はいない。そもそもその不満が言えず、またぶつける場所がないから自分の中の限界点に達し辞める決断そするのだ。つまり辞める時に会社に対しての不満を言わない人はその「たてまえ」を主張していると見るのが妥当である。
 
これから先の日本は人材不足が顕著になるであろう。いかに優秀な人材を囲い込めるかが企業にとっての最重要事項になってくる。クレームは商品開発の最大のヒントと言われることがある。辞める人の言葉もそれと同じである。辞めることは会社に対しての従業員からのクレームなのだ。そのクレームをしっかりと聞き、処理してこそ企業の未来が広がるであろう。
 
私は無職になり、4月にはこれまでにない絶望の淵を彷徨った。皮膚はあれ、髪も抜け、体重も減った。しかし幸い今は別の会社で就業している。中々難しい仕事であるが、優しく、頼もしいマネージャーの元で仕事をさせてもらっている。しんどい時にしんどいと上に相談できる環境だ。むしろ「しんどい時は必ず相談して欲しい、一人で悩むな」と何度も教えられている。たとえ仕事内容がハードであっても「相談できる」だけで、なんて幸せなことだろう。私はその幸せに外に出てから気づいたのだ。
 
キャンセルをした留学費用の120万円は、現在交渉中のまままだ戻ってきていない。通常であれば焦り、怒るところだが、私はいたって落ち着いている。120万円は戻ってきていないが、社会人として働く上での幸せの形を見つけたからだ。もちろん、120万円が戻ってくることが一番望ましい。しかし、万が一戻ってこなくても、この幸せを紆余曲折の上買うための代金と思えば、安くも思えるのである。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事