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私がいま一番行きたい場所。


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記事:棚橋 愛(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
新型コロナウイルスの流行は収束する気配がなく、私たちはいま、自由に旅を楽しむことが難しい状況にある。
 
そんな私には、自由に行き来することができるようになったら真っ先に行きたい場所がある。
 
それは、大井川鐡道だ。
 
大井川鐡道は静岡県のローカル線で、蒸気機関車(SL)が走っていることで有名なところ。
 
私は2012年に初めてこの場所を訪れ、鉄道の旅を心行くまで満喫した。
 
その大井川へまた足を運びたいと強く願うのは、そこがSL以外にもたくさんの魅力があるからだ。
 
ある日私は京都にある「梅小路蒸気機関車館(現在の京都鉄道博物館)」でSLに初めて乗る体験をした。
 
そこで、強靭ながらほっこり感もあるSLに私はすっかり夢中になった。
 
京都では走行距離が往復1㎞だけだったので、せっかくならもっと本格的に楽しみたいなと思うようになった。
 
そんなある日、手に取った旅行雑誌で大井川鐡道のことが紹介されている記事を見た。
 
広大な茶畑の中を気持ちよさそうに走るSLの姿が目に飛び込んできて、「ここに行くしかない!」と鼻息を荒立てた。
 
その勢いのまま早速旅行の計画を立て、数か月後にその計画を実行した。
 
大阪から新幹線と在来線を乗り継ぎ、始発駅である新金谷(しんかなや)駅にたどり着いた。
 
長時間の移動ですっかり疲れていたが、駅のホームで私たちを迎えてくれたSLが視界に入ったとたん、またエネルギーが復活した。
 
どしっと構えるその佇まいに、心がときめいた。
 
そして、いよいよ乗車。
 
客車もSLと同じく、古くから大切に引き継がれているレトロな車両で、木の温もりが存分に伝わってくる内装に心を奪われた。
 
初めて目にする光景にわくわくしている間に、列車は走り出した。
 
ガタゴトと大きな音を立て、小刻みに車体を揺らしながら、列車は私たちを乗せて出発した。
 
しばらくすると、車窓の風景が変わった。
 
市街地を走っていた列車が茶畑ゾーンに入ったのだ。
 
私の視界を緑色が占領したその瞬間、私のテンションは最高潮に達した。
 
茶畑や河原といった風景のスケールは、私の想像をはるかに超えていた。
 
そこに広がっているのはまさに、日本の原風景そのものだった。
 
広大なパノラマの中に身を置いた私は、これまで決して味わったことのない開放感に襲われた。
 
日々の生活で少もなからず感じていたストレスも、大自然が全部吸い取ってしまったかのような気分になった。
 
ほどなくして、走行音に紛れてハーモニカの軽快な音色が聞こえてきた。
 
音がする方向に目をやると、そこには制服姿の女性車掌がハーモニカを吹きながら客車の中を巡回している姿があった。
 
乗客たちは曲に合わせて手拍子を打ったり、手を振ったりして車掌を出迎えた。
 
彼女は歓迎を受けると、満面の笑みを返していた。
 
私も、自分の目の前に車掌がやってきたときには大きな拍手を送り、お返しに小さな会釈と福福しい笑顔をもらった。
 
その瞬間、心の中が温かいもので満たされるのを感じた。
 
夜は沿線の近くにある小さな温泉旅館に泊まって休息を取り、翌朝また鉄道の旅を再開した。
 
2日目はSL以外の鉄道にも乗車したが、それもまた特別な車両だった。
 
大井川鐡道では、SLのほかにもかつて都心で活躍していた車両を受け入れている。
 
南海や近鉄、京阪といった関西地区の大手私鉄でかつて使用されていた車両がこの地で第二の人生を送っているのだ。
 
特に私の目を惹いたのは南海の「ズームカー」と呼ばれていた電車。
 
昭和生まれの古い車両だが、現役時代は高野山へ向かう山道をスイスイと走るたくましい急行電車だった。
 
その堅牢さはホームから遠く離れた静岡でも活かされており、古さを感じさせないパワフルな走りを見せていた。
 
さらに、車体の緑色は茶畑の色にもよく馴染んでいた。
 
生粋の大阪人である私は、懐かしい電車がまだバリバリ走っている姿を見て感激した。
 
「久しぶりやなぁ、元気そうでホンマに良かったわ」と古い友人と再会した時のような思いで、電車に向かって声をかけた。
 
(ちなみに2021年現在、この車両はまだまだ現役で活躍中。なんと嬉しいことか!)
 
たっぷり堪能したズームカーに別れを告げた後はSLに乗り換え、鉄道旅の始発だった新金谷駅を目指した。
 
西日を受けた風景は、また往路とは違う色彩を見せてくれた。
 
太陽の光を反射して眩しく輝く川面に目を落としたそのとき、私は涙が止まらなくなった。
 
私を広い心で受け止めてくれた大自然や、温かい気持ちをシェアしてくれた車掌の笑顔。そして衰えを見せることなくタフに走り続ける緑色の電車。
 
そのすべてが、一気に頭の中にフラッシュバックしてきて胸がいっぱいになった。
 
疲れてくすんでいた私の心は、この場所が浄化してくれたおかげで、清らかさを取り戻した。
 
大井川鐡道は、私にとって最高のパワースポットだと断言できる。
 
だから、また私はここに行ってコロナ禍で疲れた心を癒したい。
 
その日が早くやって来ることを願い、今はとにかく耐えるしかない。
 
頑張ろう。
 
頑張ったその先に、あの場所が私を待っていると信じて。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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