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自分を変えるための小さなチャレンジはヤクルトから始まった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:垣尾成利(ライティング・ゼミ(日曜コース)
 
 
尾崎豊が大好きだった。
彼が命を削って「自分」と向き合うことの苦しさを訴え続ける姿に自分を重ねていた。
 
自分自身の存在があまりにもちっぽけすぎて、ただそこにいることさえ認められていないような不安の中で毎日を過ごしていた高校生だった。
 
「自己肯定感」が異常に低かったんだなと今ならわかる。
 
でも、思春期真っ只中の私は、自分を認めることができなくてひたすら苦しんでいた。
 
「変わらなきゃ…… このままではダメだ…… でも、どうしていいのかわからないよ……」
 
真っ暗闇の中で自分を見つけられないまま、毎日を生きていた。
 
いや、生きていたと言えるほどの手応えも感じられないまま、ただ時間だけが過ぎていたような毎日だった。
 
友達の笑顔が信じられなかった。
 
一緒にいるときは仲間の一人で居るように振る舞っていたけれど、そこに居ない時には、アイツはなんで俺たちのグループにくっついてくるんだ? と悪く言われているように感じてずっと窮屈だった。
 
知らない人とすれ違うのさえ怖かった。
 
何この子? 気持ち悪い。
ここはお前が来る所じゃないだろう。
ここはお前の居場所じゃない。
どこにいても、全ての人にそう思われているような気がして、誰とも目を合わせられず、穏やかな気持ちで居られる場所なんてどこにも無かった。
 
心開いて向き合える相手は、尾崎豊の歌だけ、彼の心の叫びは、私の苦しさそのままだった。
 
高校三年生の夏休み、部活も引退して受験勉強が始まった。
 
進学校ではなかったため、受験勉強をしない人も多くて、少ない進学希望者たちは図書館に集まっていたけれど、私はそこには行けなかった。
 
なんでお前が来るの? もしかして大学行こうとか思ってるの?
お前がいるだけで勉強の邪魔になる。
迷惑なんだよ。
 
誰もそんなことは言わないけれど、そう思われているような気がして行けなかったのだった。
 
夏休みは公民館の自習室を見つけて、誰にも会わずに勉強した。
誰にも会わないことが寂しいとは感じなくて、ホッとした気持ちだった。
 
二学期の初登校の日に、進学希望なのに日焼けしているヤツを見て「こいつには負けない」と思った。
 
学校帰り、みんなはそのまま図書館に向かう。
でも私はわざわざ隣の市の図書館に通った。
 
当然ここにも違う制服の高校生がたくさん来ていて「あいつ誰? なんでここに来てるんだ?」と、邪魔者扱いされているような気がしていたけれど、どうせ独りなら、知っている人の中で耐えるより、知らない人の中に居た方が楽だった。
 
土日は一日中図書館にいて、昼は弁当を買ってベンチで食べた。
これもハードルが高かった。
何でこんな所で弁当食ってるんだ?
こいつ、頭おかしいんじゃない?
 
通りすぎる人にそう思われているような気がして、人が近付いてくる度に弁当を隠した。
ベンチで弁当を食べることが、人に白い目で見られるような悪いことをしているように感じていた。
 
誰もそんなことを気にもかけていないし、私のことなんて誰も見ていないと、今ならわかるけれど、当時の私は誰からも疎ましく思われているに違いないと思い続けるくらいに自分の存在が認められずにいたのだった。
 
早くここから抜け出したい。
大学に入って、知らない人しかいない世界に行って、そこで生まれ変わるんだ。
勉強しながら、嫌な毎日から抜け出ことばかり考えていた私は、図書館に行く度に、自分を変えるための小さなチャレンジを始めることにした。
 
まずは弁当を隠すのをやめよう。
誰が近付いてきても、そのまま食べ続けることにチャレンジした。
人が近付いてくる…… 緊張で体が強ばる。 ダメだ、耐えられない。下を向いてそっと弁当を隠しては自己嫌悪に陥った。
 
人が来ても膝の上に弁当を置いたままでいる、たったこれだけができるようになるまで一ヶ月近くかかったけれど、秋になる前に弁当はクリアできた。
 
少しだけ自信がついた。
 
クリアしたら、周りには同じように弁当を食べている人がたくさんいることにも気付いた。
ああ、同じことしている高校生が他にもいるんだな、俺だけじゃなかったんだ。
そう思ったら、少しだけ居場所が広がったような気持ちになれた。
 
さあ、次のチャレンジはヤクルトだ。
 
ベンチの近くにヤクルトを売りに来るおばさんがいるのを遠くからずっと見ていた。
 
いつか、あのヤクルトを買えたらいいな……
 
受験が終わる前に、あのおばさんに声を掛けよう。
あのヤクルトが買えたら、新たな人生が始まるんだ。
本気でそう思った。
 
それから何回かの土日が過ぎたある日、勇気を振り絞っておばさんに声をかけた。
「ヤクルト、買えますか?」
 
ヤクルトを二本買うことができた。
 
やった!!
ヤクルト買えたよ!!
スゴいやん俺!!
 
真っ暗闇に眩しい光が射し込んだような気がした。
 
推薦入試まであと一ヶ月の10月だった。
 
よし、次はジョアを買おう。いろんな種類があるから、好きなやつを選べるようになろう。
 
弁当の横に毎回ヤクルトとジョアが並ぶようになった頃、無事受験は終わった。
 
昭和63年のことだが、この時のことは今もはっきりと覚えている。
 
ここから抜け出したい、自分を変えるチャンスがほしい。
自分で自分の人生を切り拓くきっかけがほしい。
 
心からそう思ったから、乗り越えられそうな小さな目標を見つけてチャレンジしてみた。
小さなチャレンジを積み重ねたら、少しずつ自信が生まれてきた。
小さな自信が生まれたら、少しずつだけれど人のことも信じられるようになったし、他人の視線も気にならなくなった。
 
自己肯定感の低さは相変わらずで、今も尾崎豊の歌声も大好きだけれど、変わりたいと本気で願い、自力で乗り越えて掴んだ小さな自信は、今も私の生きる力になっていて人生の支えになっている。
 
今もヤクルトさんを見かけると、時々声をかける。
 
「ヤクルト二本ください♪」
 
 
 
 
***
 
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2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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