メディアグランプリ

おしゃべりな「絵」を探しに


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記事:こやまともこ(ライティング・ゼミ スピード通信クラス)
 
おしゃべりな「絵」が好きだ。絵が何を語りかけてくるのか、はたまた、どんな「音」や「声」が聴こえてくるだろうか。今回の美術展でもおしゃべりな「絵」に出会えるだろうか。そう考えると、美術展へ行くのがより楽しみになる。
 
子どものころから「絵」は苦手分野だった。描く方はもちろん、観る方も苦手。教科書を見ていても、「ふぅ~ん」という感じ。有名な「絵」が来るというので、ミーハーな気持ちで美術館に行くことはあっても、正直「どう見る」とよいのか、わからない。「きれいな色づかい、写真のような絵、すごい」感想は以上、みたいな。要するに「正解」がわからない。
 
10年前のこと。仕事で浮世絵の専門家にお会いした。学問として浮世絵を研究されている方だった。時代背景や、浮世絵師のこと、プロデューサーでもある「版元」のことなど、貴重なお話をうかがうことができた。
 
それまでは浮世絵といえば、「〇〇園のお吸物についてくるカード」くらいの印象しかなかったが、お話をうかがい、興味も湧いた。確かに江戸の時代に彼らは生きていたのだ、と感じることができた。以来、浮世絵をとても身近に感じられるようになった。
 
浮世絵の中に日本の原風景を見たり、役者絵に描かれた人の顔が、現代に同じ名前を引き継いだ人となんとなく似ているような気もしたりして、面白い。当時の人たちは、どんな風に見ていたのだろう。東海道五十三次を見て、旅行気分を味わっただろうか。お気に入りの役者絵を手にして萌えまくる、江戸時代のオタクもいただろうか。
 
「芸術」という高い階段の上にいた「絵」が、なんとなく近くに来てくれたように感じた。
 
5~6年前のある日。やはりいつものミーハー心で、ある美術展に行った。
 
ある展示室の1枚目に展示されていた絵を見た瞬間、衝撃を受けた。高い身分だとわかる女性の、着衣は乱れ、目はうつろ。白い花と手紙の入った花籠を手に、紅葉の舞う中をさまよっている。
 
「一体、この人はどうしたんだ?」
 
美しいけれど悲しい絵。女性は、精神に異常をきたしているようにも見える。寂しげな瞳の中に、幸せだった時の記憶を感じることができる。なんとなく歌っているようだ。
 
彼女の様子を見ていると、いろいろな感情があふれ出した。悲しさ、愛しさ、悔しさ、うれしさ、寂しさ、楽しさなど、とにかくあらゆる感情が複雑に入り混じった不思議な感覚。まるで、彼女の気持ちと共鳴しているかのようだった。
 
気づけば私は、その絵の前で涙を流していた。絵を見て泣いている自分に、ドン引き。
だが、自分なりの「絵の楽しみ方」を見つけた瞬間だった。
 
その絵は、「花筐(はながたみ)」という能の物語をモチーフにしたもので、描かれた女性は「照日の前(てるひのまえ)」という。
 
彼女は、のちに継体天皇となる、大迹部(おおあとべ)皇子(5~6世紀頃、第26代天皇といわれる)と愛し合っていた。時が移り、皇子は即位するために、都に戻ることになる。喜ばしい気持ちで送り出す彼女であるが、別離は想像以上に辛かった。
 
ついに耐え切れず、故郷を飛び出し都へと向かう。紅葉狩りに出た帝の一行に出会い、恋しさのあまり思わず飛び出すが、「不審人物」として、警護の官人に追い払われてしまう。この絵は、その時の彼女の様子である。
 
変わり果てた姿に、帝はかつて自分が愛した人とは気づかなかったのであるが、自分が送った花籠を見て、かつて愛した女性だと気づく。
 
まぁまぁ悲劇的な状況であるが、不思議と究極的な悲壮さは感じられない。この絵に直接描かれていない帝の愛情なのか、温かみが伝わってくる。あとから知るのだが、この物語はハッピーエンドなのだとか。「やるじゃん、私」とちょっと嬉しくなった。大好きなドラマの結末が予想通り、あるいはいい意味で予想を裏切ってくれた、みたいな喜びに近い。
 
絵の「正しい見方」は今もわからない。しかし、五感を総動員して「想像する」、または「妄想」すると、いろいろなドラマを体験することができる。絵が語りかけてくる。
 
以来私は、おしゃべりな「絵」に会いに、美術展に出かける。先の「照日の前」の絵が、第三者的に「見て」楽しむ「劇場型」なら、自分が入り込んで楽しむ「体験型」もある。
 
横幅10メートルに及ぶ雲龍図に心を奪われ、その背に乗って飛び回ったり、幽霊を描いたのかと思うような「美人図」に話しかけられる。「妄想もたいがいにせい」と、ツッコミが入りそうだが、実際めちゃくちゃ楽しい。そんな妄想にかきたてられる「絵」との出会いは多くない。だから、出会えたらビッグチャンスなのだ!
 
絵を「目」で見ていた時は、「お、教科書に載ってたやつだ」的な感想がほとんどだった。スタンプラリーのように、「あれも見た」「これも見た」というだけの感想。ところが、おしゃべりな「絵」に出会い、いろいろと妄想するようになってからは、美術展の歩き方も変わった。
 
作者が意図したことをくみ取ることだけが「芸術鑑賞」ではないだろう。こちらが勝手に妄想して、絵と遊び、語り合うのが私の楽しみ方だ。さて、次はどんなおしゃべりな「絵」に出会えるだろうか。おしゃべりな「絵」を探しに、また私は美術展に足を運ぶ。
≪終わり≫
 
 
 
 
***
 
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2021-02-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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