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メディアグランプリ

専業主婦から消費税を払う年収になるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:馬場 さかゑ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「貴意に添えません」
 
またか!求人広告に応募して出した履歴書に対する返事は、無愛想な葉書一枚。
 
返事があるだけまだいい。
 
8割は、返事もない。
 
今ならわかる。
 
40歳目前の専業主婦が、正社員に応募しても、まず最初にハネられる。
 
あたりまえだ。
 
でも、主婦頭のわたしは、縁がないだけだと思っていた。
 
当時は、履歴書は手書き。修正してはいけない。
 
写真は、ちゃんと写真館で撮影する。
 
どこかで習った採用の心構え。忠実に守ってみた。
 
コクヨの履歴書、何通書いたことか。
 
だって、どこにも年齢による不採用なんて書いてなかった。
 
会ってさえもらえれば、やる気を伝えられるのに。
 
面接の機会さえ与えられない。
 
でも、仕事をしたかった。
 
専業主婦10年余。現状に概ね満足していた。
 
そんな時、ひとり息子が難病にかかった。
 
片道40キロの病院に入院。毎日、見舞いに通うのが仕事みたいなものだった。
 
約一年の入院の後、退院。
 
他の子供たちに追いつかせようと、私は、教育ママになった。
 
そして、再発。生存の確率は50%。
 
さすがに、愚かな母も気がついた。
 
「この子にとっていい学校、いい職場に入るために、今、無理をさせるのは意味がない。だって、来年、生きていないかもしれないのだから。今日1日を幸せに、その日1日を幸せに、その積み重ねで、来年の幸せ、5年後の幸せを作っていくしかない」
 
再び、片道40キロの見舞い生活。
 
そんな時、北海道のトンネル落盤事故が起こった。
 
元気に出勤、登校したサラリーマンや高校生の乗ったバスが、落盤したトンネルの中で生き埋めになり、多くの人命が失われた。
 
今朝、息子よりずっと元気だった人たちが、先に死んだ。
 
その事実は、命について考えることが身近になっていた私に大きな衝撃を与えた。
 
「わたしも、今日、死ぬかもしれない。来年生きていないかもしれない」
 
毎日の往復80キロの行程のどこかで、事故に会うかもしれない。
 
気がつかなかった病に、急に、倒れることがあるかもしれない。
 
「私は、死ぬ時、後悔しないだろうか」
 
出てきた答えは
 
「後悔する」
 
だった。
 
馬場くんのお母さん、馬場さんの奥さん……。
 
それだけでは、きっと、後悔する。確信があった。
 
「ああ、もっと何かできたはず。もっと自分らしく生きられたんじゃないか」
 
「あなたが病気にならなければ、お母さんは、もっと楽しい人生を送れていた。あなたに理解があれば、私はもっと充実した人生を送れていた」
 
と、誰かのせいにしながら生きていくのはいやだ。死んでいくのはいやだ。
 
そして、わたしは、40歳目前にして、就職活動を始めたのだった。
 
面接の機会が掴めないと言って諦めるわけにはいかなかった。
 
社員に応募しても無駄なことがわかって、私は、派遣に登録した。
 
幸い、若い頃の職場で英文タイプを散々打ったおかげで、ブラインドタッチができた。
 
パソコンの時代になってはいたが、入力のスピードは早かった。
 
しかし、それすら、ほとんど声がかかることがなかった。
 
ある日、登録していた派遣会社から定期的に送られてくるスタッフ向けの冊子をパラパラと開いていた。
 
普段なら見ないで捨てているその冊子の中の記事の一つが目を引いた。
 
「マナー研修インストラクター養成講座、受講者募集」
 
マナーはさっぱりだけど、研修のインストラクターだったら、元教師、いけるかもしれない。
 
「ねえ、これ受けたいんだけど」
 
幸運なことに、夫は、部下でも家族でも、本気で考えて持ってきたものに関しては、なるべくやらせてあげようと考える人だった。
 
「それを否定すると自分で考えなくなるから。モチベーションがさがるから」
 
「でも、それって、仕事になるの」
 
主婦頭のわたしは、受講さえすれば、仕事になると思っていた。
 
そうだ、そこは、重要。
 
社員研修事業部のマネージャーに問い合わせた。
 
「興味があるのですが、仕事はあるんでしょうか」
 
「仕事はたくさんあります。でも、全員がなれるとはかぎりません。昨年の受講者で今仕事をしているのは2割です」
 
「どんな人がなれるのでしょうか」
 
「最低条件は2つあります」
 
「ひとつは、声が大きいこと。もう一つは、1日立っていられるだけの体力があること」
 
いける!
 
今、思えば、相当な勘違い。
 
でも、それが、第一歩だった。
 
受講後、マネージャーが声をかけてくれた数名の中に、私も入っていた。
 
後年、「どうして選んでくれたのか」を聞くと
 
「一番迷ったのは馬場さんだったのよね。もう、歳だったし。でも、ちょっと面白いところがあるから、一回チャンスを与えてみようと思ったの」
 
ただの気まぐれだったのだ。
 
もちろん、その後も、山も谷もあった。
 
マネージャーから
「もう一回だけ、チャンスをあげる、でもその後はないよ」と引導を渡されたこともある。
 
でも、20年以上、仕事を続けて、今では、一人前に消費税を払うだけの収入を得るようになった。
 
世の中には、二十数年前のわたしのように、やる気はあるのだけど機会がない人たちがたくさんいる。
 
残りの人生は、その人たちの後押しができたら嬉しいと思う。
 
「まずは、一歩、行動してみる。意思さえあれば、あとは、偶然が、あなたの思うところへ、連れて行ってくれる」
 
先日、出張に向かう新幹線の車窓から、夜景を見ながら、しみじみと思った。
 
「今、この新幹線が事故になって最後を迎えたとしても、私は、自分の人生、楽しかったと心から言える」
 
 
 
 
***
 
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2021-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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