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わたしのワンピースは、どんな柄?


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記事:黒木里美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
本好きの両親は「本ならば」と絵本や児童書をよく買ってくれました。漫画本も小遣いの範囲ならばと、好きなように買わせてくれました。
ところが、手放すことは許されませんでした。
 
「本は、その人を作ってきたものだから、決して捨ててはいけない」
 
これは父が作った「家訓」です。こんな家訓の布かれた家はどうなるでしょう。それはもう大変です。すべて部屋に本棚があるのはもちろん、押し入れも、クローゼットのなかも本棚と本がぎっしり。台所の食器棚も半分は本棚に。トイレにはマガジンラックがあって、ついつい長居してしまうので、お尻に優しくはないのですが、撤去する人はいませんでした。良かったのか悪かったのか、今でもわかりませんが、こんな環境のおかげで、少なくともよく本を読む大人に成長することができました。そして、子どもたちに読書や作文を教える教室の先生をしています。
 
そんな私の幼少期、一番の思い出の絵本『わたしのワンピース』を紹介します。
野原でくらすウサギのもとに、空から大きな白い布が舞いおりてきます。カタカタと手回しミシンで作った真っ白なワンピースを着てウサギは散歩に出かけます。すると不思議なことが起こります。花畑を通ると、真っ白かったワンピースが花柄に、雨がふると雨模様になるのです。
 
幼稚園の年少のころ、よく通っていた地元の図書館で、この絵本に出会いました。そんなに好きならと、母が誕生日プレゼントに買ってきてくれたほど借りていたようです。
 
確かに、私はこの本が大好きでした。幼いころ、母がよく洋服を縫ってくれていたので、その姿にあこがれていたのでしょう。いつか私もウサギのように大きな布を買って、ミシンでワンピースを作りたい、そんな気持ちもありました。
 
しかし、私がこの絵を繰り返し読んでいた理由は、お気に入りの本だから、だけではなかったのです。私は、この本が大好きで、でも嫌いだったのです。
 
ウサギのワンピースは最後、星柄のワンピースになります。ところが、私はどうしてもその柄が好きになれませんでした。星柄になる前の、麦柄、小鳥柄、虹柄、夕焼け柄はどれも本当に素敵でした。ページを開くたびに、こんな柄のワンピースを着てみたいと夢見ていました。でも、最後の星柄は着たくない。理由は、うまく言葉にはできないのですが、星柄がシンプルだったことに面白みを感じなかったのかもしれません。もしくは、星柄は男の子の物という気持ちがあったのかもしれません。
 
絵本を熱心に読む私の姿をみて、ラストが気に食わないと思っているとは誰も想像できなかったでしょう。私自身も当時ことのことを両親や友達に話した記憶はありません。好きだけれど、嫌いというアンビエントな気持ちを上手に話すことができなかったのだと思います。
 
とのかく、毎回ラストに近づくたびに、星柄は嫌、星柄になりませんようにと祈りました。目をつぶりゆっくりとページをめくってみたり、それでもだめなら早くめくってみたり、本を逆さまにしてみたり、ラストを変えようといろいろな読み方を試していました。
もちろん、いくら願っても祈ってもラストは変わりません。毎回、星柄をきたウサギが朝日を浴びながら自分の家に帰っていきます。
 
せめて月柄になればいいのに、最後に朝日を浴びたんだから、太陽の光柄になればいいのに。
今日も思い通りの柄にならなかったと、がっかりした気持ちで本を閉じるのですが、こりないのです。表紙を見た途端、次こそはと、リベンジを誓っているのです。自分でも、なんとしつこくて、頑固な子どもだと思います。
 
その後、大学で2つのことを学びました。
1つ目は『わたしのワンピース』のラスト星柄になる秘密。
2つ目は小学校に入る子どもたちの独特な心の動きについてです。
 
7つ描かれた星柄。実は、一つ一つが異なる「人格」を表しているそうです。
ウサギは散歩をしながら、様々な柄のワンピースに着替えます。これは、子どもたちが様々な体験を経て、自分の中に生まれる人格と出会い、心が成長していくの過程を表しています。
家での自分、学校での自分、習い事での陣、みんな違うけれど、どれも自分である。様々な自分と出会い、本当の自分とはどのような姿なのかと悩み、そして思春期に自我が芽生え、人格が統合されて一人の人間になっていく。
 
少し難しい話かもしれません。
子どもたちが様々な経験を経て、大人になった証を、人生という旅の指針となる「7つの星」北斗七星という象徴に託し描かれたそうです。
私自身も教育の現場で、たくさんの子どもたちと接するようになった、今だからこそ実感の湧く話ですが、当時はさまざまな「人格」が統合されて「自我」が生まれ、大人になっていくなど、想像もつきませんでした。
 
もう一つ、小学校に入る前の子どもたちの心についてです。
そのころの子どもたちの心は、大人には理解しがたいものがあります。
「願い続ければ、いつか必ず絵本のラストが変わる」と信じていた私の心は、子どもの心そのものでした。
でもこれは、私だけのものではなく、子どもの頃には誰におこることなのです。
言葉を話すようになった2歳から5歳くらいの子どもたちは、考える力がぐんと伸びてきます。しかし、その言い分は「自分勝手な」とも捉えられるものでもあります。
でも、それは仕方がありません。なぜなら、自分の見たもの、聞いたもの、体験したことをもとに物事のつながりを考えるからです。
夜空の月が、どこにいても見えるのは、月が自分のことを好きで追いかけてくるからだ。かくれんぼの時、目をつぶっていれば、絶対にみつからない。なぜなら、自分の姿が見えなくなれば、鬼からも見えなくなると考えているからだと、心理学の授業で学びました。
 
子どもたちの「自分勝手」や「思い込み」は、自分のなかにある経験や知識を使って一生懸命に考えている証です。
そして、考える力を支えているのは、大人たちが与えてくれる安心感や希望です。どうか、子どもたちの姿を温かなまなざしで見守ってください。
 
『わたしのワンピース』と子ども心の成長について、興味を持っていただけたでしょうか。
ぜひ、図書館や本屋さんで『わたしのワンピース』を見かけたら、手に取ってみてください。思わず好きな柄を選びたくなる、素敵な絵本です。
そして、読み終わったら、白いワンピースを着た自らの姿を思い描いてください。
今、どんな柄のワンピースを着たいかしら。子どもの時だったらどうかな。
毎日着ていたワンピースを脱いで、新しい柄のワンピースに包まれた自分。
そう、今まで知らなかった、新しい自分にきっと出会えるとことでしょう。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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