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抽象画の味わい方のススメ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:梅とら (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
和菓子ほど季節感を表現できる食べ物はないだろう。
 
茶席で用いられる和菓子、上生菓子。その大きさは大きくても50gだ。スマートホンの半分ほどの重さで、手のひらにすっぽりと入るそのお菓子には職人の技術と季節が詰め込まれている。
「あん」と米粉をはじめとする粉、限られた材料に色粉で色を足し、焼印をつけたりしながら季節を表現したお菓子、それが和菓子だ。
 
「フランス料理は足し算、日本料理は引き算である」
昔、食いしん坊の私が何かの本で目にした言葉だ。実にそれぞれの特徴を捉えた名言である。これは料理だけでなく、お菓子にも言え、洋菓子は足し算、和菓子は引き算の文化そのものである。
洋菓子の世界は宝探しだ。
基本は小麦粉、バター、砂糖で出来た生地に果物、クリームの組み合わせ。ここに果物の取り合わせやチョコレート、香辛料など…いくつもの素材を組み合わせ、何層にも重ねて絶妙なバランスの作品を作り上げる。王道の苺とピスタチオやオレンジにチョコレートの組み合わせ、冒険のライチとバラや山椒とチョコレートなど…組み合わせは無限大。この組み合わせ方がパティシエの腕の見せ所でもあり、私たち食いしん坊にとっても非常に楽しい宝探しである。
 
その点、和菓子の世界は「探究」という言葉に尽きる。
材料は至ってシンプル。あんと呼ばれる小豆などの豆と砂糖を練ったものに、餅粉、米粉といった粉だけだ。時には山芋、ゆず、抹茶など使う場合もあるが、洋菓子に比べるとはるかに少ない。しかし面白いことに材料は同じだが、それぞれの店で味が全く異なるのである。材料ではなく、あんの炊き方、生地の配合で店の味を出すのである。
 
同じ「探す」でも、多くの場所を探す洋菓子と、ひとつの場所をひたすら掘り続ける和菓子。引き算と言われるのも納得である。
 
そう、あんこは思っているより繊細なのだ。
豆と砂糖だけで出来ているからこそ、豆の味が如実に現れる。豆の産地はもちろん、ガス火で炊くのか、薪でで炊くのか。それだけでも味や舌触りが変わる。そこに加える砂糖の種類でも後味を演出することができる。同じ材料で上品に仕上げることも、滋味深い味に仕上げることもできる非常に科学的で面白いものなのだ。
 
材料のシンプルさもさながら、デザイン面でも和菓子は非常にシンプルである。
中でも「京菓子」と呼ばれるもののデザイン性には目を見張るものがある。ぜひインスタグラムなどで全国の和菓子屋の作品を見比べてほしいのだが、意外にも京都の上生菓子は他のどの地方のものよりシンプルなのだ。和菓子の大本山と思われる「京都」こそ繊細で美しい細工をしそうだが、こと上生菓子に関しては至ってシンプルである。
 
なぜなら京菓子では直接的な表現はよしとされていないからである。京菓子の需要を支えているのは「茶席」である。茶席では自分たちが招かれた茶席に込められた思いを知り、感謝するために、客が亭主にその日の空間コーディネート「設え(しつらえ)」について道具や菓子の「銘」を聞く。その銘を聞き、亭主の込めた思いを知るのだ。これは茶席の一番の楽しみでもある。
 
そう、茶席においては菓子を見て答えがわかったら面白くないのだ。茶席で用いられる菓子に与えられた役目はあくまで抽象的に、茶席でそれを出されたものがこの銘は何か想像する余白をもたせる必要がある。そして亭主から銘を聞き、自分の思う世界をその菓子に見るという楽しみが菓子に与えられた使命なのだ。目で見て、耳で銘を聞き、舌で味わう。まさに五感で楽しむ菓子、それが和菓子だ。
 
この役目を果たすため、菓子のデザインはとことん削ぎ落とされている。
 
例えば上生菓子の代表に「きんとん」と呼ばれるものがある。これはあん玉にそぼろ状にした生地をまとわせただけのシンプルなものだが、季節によってその色を変え、表現するものを変えている。今の時期ならば紅白2色で「咲分け」とまだ寒い中で咲く紅白の梅、夏になれば紫や水色で「七変化」と紫陽花、秋になれば黄や橙、茶色で「錦秋」と紅葉を表現といった具合だ。形は変えずに色だけで季節を表現できるのだ。
 
和菓子の生地は粘土のようなものだ。洋菓子より色も形も自由自在、作ろうと思えば忠実にそのものを表現することもできる。実際、コンビニではキャラクターの練り切りが売られている。苺大福のように果物を合わせたり、チョコレートや香料を合わせることも可能である。しかし私はそれをあえておこなっていない、シンプルな抽象画のような和菓子をぜひ感じていただきたいのだ。
 
まずは近所の和菓子屋を覗いてほしい。その扉が重たければ百貨店の和菓子コーナーでも構わない。1店舗あたり用意のある上生菓子は5種類ほどであろう。洋菓子ほど種類もなく、色も派手さはない。しかしその手のひらサイズの抽象画には店々でこだわった材料にデザイン、銘と様々な思いが込められている。
 
家で包みを開け、召上る前に一度その作品の全体を見て、銘を思ってください。あなたがその銘から感じる世界を作品に映していただくと、より一層美味しく楽しんでいただけますので。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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