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老後資金の2,000万円問題の解決策は、「死人」になることが一番の近道だった


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記事:ぴぼなっち(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「手に職をつけて、堅実な生活をしなさい」
 
公務員家系に生まれ育った私は、ことあるごとに両親からそう言われて育った。起業したり株式投資をしてお金を稼ぐことなどもってのほかで、「お金は汚いものだ」という雰囲気すら漂っていた。
 
三人兄弟の長男である私は、両親の教えに従って大学生活も質素堅実だった。大学の授業料は奨学金を借り、築何十年もたった格安の大学寮に住み、アルバイトで稼いだ月数万円のお金で生活し、仕送りは万が一のときのために貯金していた。
 
そのころ入り浸っていた大学図書館で出会った本の一冊が、ロバート・キヨサキ氏の「金持ち父さん貧乏父さん」だった。そこには、こんなことが書かれていた。
 
「お金に関する知識を身につけなさい。そしてお金を生み出す資産を作りなさい」
 
私が大学を卒業するころにはすでに、政府の年金政策は将来破綻すると言われており、自分で老後に備えなければいけないという危機感をうすうす感じていた。だから、逃げ切りが可能な親の世代とは違って、その本の教えに従って「お金にも働いてもらわなければならない」と胸に刻み込んだのだ。
 
卒業後、まずはお金を生み出すための「資金作り」と「稼ぐ力」を身につけるため、当時上場したばかりで勢いのあった人材系企業で営業の仕事をすることにした。そして、本の教えそのままに、最初のボーナスで「資産」となりうる株式を購入したのだ。
 
朝早くから夜遅くまで「稼ぐ力」を身につけようと働いていた当時は、どの株式を買えば良いのかまったくわかっていなかった。はっきりわかっていたのは、「人材業界は伸びている」ということと、「この業界はなくならない」ということだった。
 
そうして自社の株を買った。買ったところまではよかった。だが、買った直後から株価は下がり始めた。新卒のなけなしのボーナスで買った株が、富を生み出すよりもどんどんと価値を失っていくのである。
 
一方、「稼ぐ力」を身につけようと土日出勤をしてまで仕事をしていたにもかかわらず、私の営業成績は一向に伸びなかった。毎月の営業目標はほとんど達成できず、ラットレースから逃れようともがけばもがくほど、精神的に自分がつぶされそうになっていった。
 
その間も、会社の業績は伸びていたのに、株価は下落し続け、リーマンショックの大暴落とあいまって、その数年後には、「資産」だったはずの自社株はほとんど紙切れのようになっていた。自己投資のつもりで参加したセミナーや人脈を作ろうと飲み会にお金を使ったせいで、口座にはいつもお金がなかった。
 
口癖は、「お金はいつでも貯められる」だった。今思うと、大学生のお金がない頃の質素な生活スタイルをずっと続けていればよかったのだ。結局、大学で貯蓄に励んでいた頃が資産のピークで、その後右肩下がりに減り続け、社会人5年目に次の会社を見つけ転職するまでの1年間で、資産はほぼゼロになった。
 
転職をしてセミナーや飲み会の付き合いをやめた途端、またお金が貯まり始めた。銀行口座にお金が貯まっていくのを見るのは楽しかった。このままいけば、就職した最初の5年間で失った資産をすぐに取り戻せると思っていた。やればできるのだと過信した。
 
そして、大きな賭けにでた。
「人生最後の自己投資」とばかりに、海外の大学院に行くことを決断したのだ。
英語がまったくできないのに、である。
 
発展途上国で活動するNGOの支援にも携わることにした。
「人生一度きりだから」と。
 
「金持ち父さん貧乏父さん」には、米国トップの大学をいくつも卒業したのに貧乏なままのお父さんと、中卒にもかかわらず自分で会社を起こしてお金持ちになったお父さんが描かれていた。キヨサキ氏の本に書かれていたとおり、私は気づかない間に「貧乏父さん」そのものを目指していたのだ。
 
転職して以降積み上げた銀行口座の預金は「資産を生み出す」ために使われることなく、「自己投資」という甘い響きとともに湯水のように消えていった。むしろ、NGOの活動と大学院受験にかかった多額のお金の分だけ、数百万円の借金を背負うことになった。
 
やることなすこと、すべて裏目に出ていた。
 
大学院をあきらめ失意の中にいたころ、金融庁が発表した「老後資金が平均で2,000万円足りなくなる」という話が、メディアで大々的に取り上げられるようになるのである。
 
私は、はっと我に返った。「資産」を積み立てるはずではなかったのか、と。
 
再び働き始め安定した収入が入ってくるようになった頃、私はNISA(ニーサ)とiDeCo(イデコ)という国が用意している制度に気づいた。これらは、国内外の株式や国債などへの投資を通じて、「お金に働いてもらう」ことを促進するための制度だったのである。
 
私は同じ過ちを繰り返すまいと心に誓って、「お金を生み出すための資産」にすべく何に投資すべきか情報収集を始めた。わかったことは、iDeCoも積み立てタイプのNISAも、基本的には長期投資を目的とした制度だということだった。
 
つまり、リーマンショックのように大暴落が起こっても投資した金額まで戻ってくるような循環型か、一時的な大暴落を乗り越え長期的に右肩あがりに上がっていくような金融商品を選べということを示していた。
 
なにせ、最初のボーナスを自社株につぎこんで紙切れにしたような人間である。「個人投資家」と呼ばれるような人たちのように、儲かる株式を見つけられるなどと考えてはいけない。
 
2019年から本格的にiDeCoとNISAで長期積み立てを始めた私は、2020年に「新型コロナ」という大波を正面からかぶることになった。
 
2020年1月に新型コロナの世界的流行発表された頃、まだ米国を中心とした株式市場は歴史的最高値を更新し続けていた。2月になっても暴落が起こる気配もなかった。
 
それが3月後半にかけて株価は急激に下落していった。どこで下げ止まるのかまったくわからなかった。保有している資産はすべて真っ赤な色に染まっていた。証券会社の口座を開く気にもならなかった。なぜなら、積み立てた資産が30%もマイナスになっていたからだ。
 
40年近くかけて老後のために用意した2,000万円がたった1ヶ月で600万円もの価値を失ったとしたら、どう感じるだろうか。新卒の頃、自社株に投資して失敗した私は気が気ではなかった。
 
なぜ投資を始めてまた大暴落を経験しなければならないのだろうか。
世の中は、あまりにも理不尽すぎる。
だが、「死人」のごとく振る舞うことにした。
 
「投資成績が一番良かったのは、死んだ人だった」
 
長期投資は、大暴落が起こってもそのまま淡々と積み上げたものが勝ちなのだ、とその格言は教えてくれていた。だから、全ての資産が大幅に下落し真っ赤になっている間も、私の銀行口座からは毎月決まって金融商品を買うためのお金が引き落とされていった。
 
あれから約1年。
積み立てた「資産」は、20%以上の含み益を私にもたらしている。あの時、もし慌てて保有していた「資産」を売却していたら、もう二度と投資をしようなんて考えなかっただろう。
 
「金持ち父さん貧乏父さん」が教えてくれた、「お金を生み出す資産を作りなさい」の一端を理解するのに10数年の月日が流れていた。
 
私が出会った長期投資は、今この瞬間も富を増やすべく働いてくれているのだ。「死人」のようになった私に代わって。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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