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USBより墓石よりラスコーの壁画、何よりも今


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:喜多村敬子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
あなたは大事な写真をどこにしまっていますか。
プリントしてアルバムに入れる、定期に入れる、
データとしてスマホ、USBやサーバーに保存でしょうか。
 
今、世界中でインターネットを約39億人が利用していると言う。
PCやスマホの利用者数も同数と考えると、
天文学的枚数のお気に入りの写真、大切な人の写真が
PC、スマホ、クラウド、USBなどに保存されている。
フィルムやプリントのように劣化することもなく、色鮮やかなまま、
バックアップが万全ならば、ずっと残っていくと思って、
多くの人が写真をデジタル保存する。
しかし、いったん地震や台風で停電したり、
PCやスマホが水や土砂で使えなくなった途端、
電気とデバイスがなければ見ることもできない、
データも簡単に失われてしまうような脆いものだったと思い出す。
サーバーが災害を逃れたとしても、
それを維持管理している会社がいつまでもある保証もない。
 
そう思うと、ラスコー洞窟の壁画はすごい。
歴史の教科書に載っていた牛の絵でおなじみのものだ。
この壁画をクロマニョン人が描いたのは2万年前。
今も色鮮やかに存在するのは、すごいことだ。
今デジタル保存されている写真は、2万年後にも残っているだろうか。
VHSは20年ほど前までは、当たり前にレンタルビデオ屋に並んでいた。
なのに、今はプレーヤーが入手困難で再生するのは難しい。テープも劣化する。
より便利なメディアに取って代わられた。
保存した大事な写真も、見られなくなる日が来てもおかしくはない。
100年前のレコードは今でも再生できる。
USBは100年後でも劣化しないのだろうか、
読み出すデバイスはどうなっているだろうか。
 
画像でなく、文字ならもっと長く確実に残るのだろうか。
石に刻まれた文字は半永久的に残るだろうと以前は思っていた。
だが、石なら残るとは限らないことが、
実家の墓のあるお寺の墓地に行って、よく分かった。
家のご先祖様たちはどんな名前だったのかと見ると、
明治のものはまだ刻まれた文字が読めるが、
それ以前では文字の判読ができないものが多かった。
風化していたり、石が劣化して所々もろくなって崩れていた。
墓の引っ越しの時に石材店の人に、なぜ墓石が傷むのかを教えてもらった。
冬に石の傷や隙間に入った水分が凍るとかさが増える。
そのかさが増える時に石の中に亀裂が少しずつできていくという事だった。
冬に水道管が凍結して破裂するのと同じ仕組みだ。
風化以外の理由で墓石が経年劣化するとは思っていなかったので、驚いた。
雨ざらしの庶民のお墓では仕方がない。石も古くなるのだ。
大英博物館で大切に保存されている、
2200年前に3種類の文字で文が刻まれた、
ロゼッタストーンの様に残るものの方が稀だ。
 
写真にも文字にも、それを残したい人の思いが込められている。
お寺のお墓のほとんど読み取れなかった戒名の中に、
「童女」や「童子」が付くものがあった。
幼くして亡くなった子供の戒名だ。
親たちが亡き愛児のために作った墓石なのに、
その子の名前が消えかかっている。切なくなってくる。
 
消えかけた子供の戒名は、
20年ほど前に見たTVの戦争についての番組を思い出させる。
1人のおばあさんが古い女の子の小さな着物を見せていた。
それは、太平洋戦争中の空襲で亡くなった幼い娘が、
その時に来ていた着物だった。
色はあせ、傷んだ部分やその子の血痕らしい洗っても残ったしみがあった。
「私が死んだら、娘を知っている人がいなくなってしまうのです」
とおばあさんは静かに言った。
今はもう御存命ではないだろう。
あの着物と亡娘の話は家族に引き継がれたのだろうか。
 
昔、遠縁のおばあさんは生後一か月もしない我が子を亡くした。
上の子が布団の赤ちゃんが息をしていないと言ってきて、初めて気づいた。
どんなにショックで悲しい思いをしたことかと思う。
晩年、そのおばあさんは認知症になり、
「私は何人の子供を産んだんだった?」と家族に尋ねた。
その話を聞いた時、亡娘の着物を大切にしていたおばあさんの事と重なった。
母親が忘れてしまったら誰がその子を思うのかと、悲しくなった。
だが、おばあさんにとって赤ちゃんを亡くしたつらい記憶がなくなることは、
救いなのかもしれないとも思った。
年老いて、亡くなった子を覚えていることも、忘れてしまう事も、
どちらも本人にも誰にも選べない。
だから、どちらがよいのだろうかと考えるのはおこがましく感じる。
答えの出ないものは答えの出ないままに、受け入れるしかない。
 
「亡き子を覚えていること/忘れること」も
「写真のデータが残ること/消えてしまうこと」も
「墓石に戒名が残ること/読み取れなくなってしまうこと」も
同じに思えてくる。そして、どれも人の都合だけではどうにもならない。
 
人は写真や映像、文章に思いを託して様々な形で残す。
どれほどの人が知ってくれるか、いつまで残るのか誰にも分からない。
それでも、残るべきものは残ってほしいし、人に知ってほしいと私は思う。
そして、今も39億の人が文章や写真をせっせとアップしたり、デジタル保存している。
承認要求に突き動かされて、「思い出作り」してSNSにアップする人も多い。
その「思い出」には、亡き娘の着物を大切にしていたおばあさんほどに、
残しておきたい気持ちがあるのだろうか。
もしそうでないなら、本当に残したい過去ではない「思い出作り」のために
「今」をないがしろにしないことを切に願う。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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