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無一文旅行

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:辻 敏充 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「○○××」と車掌の大きな声で目が覚めました。夜行バスが、早朝に目的地に着いたようでした。寝ぼけまなこで車掌を見ると、白い袋を掲げて大きな声を張り上げていました。どうやら忘れ物のようでした。誰だ! 忘れ物をしたやつは!と他人事のように思っていました。
 
しばらくしても誰も彼に近づいていきません。おかしいなぁと思って、よく見てみると、彼が持っている白い袋に見覚えがありました。
 
隣に置いていたリュックサックの中を確認すると、入っているはずの貴重品袋がありません。血の気が引きました。「俺のじゃないよな」と淡い期待を持ちながら、車掌に近づいていきました。
 
見慣れた私の貴重品袋にとても似ています。手渡ししてもらい中を見ました。中から私のパスポートが出てきました。間違いなく私の貴重品入れでした。
夜行バスで私が寝ていたときにリュックサックから貴重品袋が抜き取られていたようです。
 
盗まれたものを確認すると、現地通貨とトラベラーズチェックでした。トラベラーズチェックとは、小切手のようなものです。事前に左上にサインをしておき、換金する時に右下にサインをするとお金として使えます。二か所サインをしてないとお金として使えません。今は流通していませんが、とても安全で便利なものでした。
 
手元にあるお金を確認すると、ポケットに500円分くらいの現地通貨のみでした。これから始まるのは、30年前にネパール旅行で一文無しになってしまった話です。
 
現地通貨の約1万円は戻ってきません。しかし、トラベラーズチェックは紛失しても二か所にサインさえしてなければ再発行が可能です。
 
時間がたつにつれて、トラベラーズチェックを銀行で再発行すれば、旅は続けられるだろうと気が楽になってきました。ただ500円じゃ、不安です。当座のお金を借りるために日本人が宿泊しているホテルを探しました。
 
ガイドブックのおかげでホテルはすぐに見つかりました。手続きをして大部屋へ行くと、日本人の学生が一人いました。お金を盗まれたことを話しすると、快く20ドルを貸してくれました。これで2日はしのげます。
 
まずは、トラベラーズチェックが盗まれたことを証明するために警察へ行きました。つたない英語で説明して、なんとか証明書を発行してもらいました。
 
そして銀行へ行きました。ここで問題が発生しました。今ならインターネットがあるから確認が簡単ですが、30年も前のネパールです。電話やFAXを使っても日本と確認ができない。改めて明日来いと受付の女性がいうのです。言い争っても仕方がないと思い、ホテルへ帰りました。所持金があまりないので、夕食は寂しい食事になりました。
 
翌朝、トラベラーズチェックを再発行したら、すぐに換金して良いものを食べようとウキウキしながら、銀行へ行きました。
 
昨日とは違い、別室に連れていかれました。女性の方が出てきました。丁寧に英語で事情を説明してくれました。何度聞いても私の英語力が不足していて、理由は分かりませんが、ここの銀行では再発行はできないようでした。再発行がしたかったら、インドのニューデリーへ行って再発行してもらってくださいと言っているようでした。
 
目の前が、真っ白になりました。マジで一文無し!
 
これからどうしたらいいねん!と思いました。銀行から出てうつむき加減で歩いていると、ひらめきました。こういうときこそ大使館だ!
 
そこから地図を調べて、日本大使館へ行きました。日本人の担当の方が出てこらました。昨日お金を盗まれたこと。ネパールと日本の銀行との連絡がつながらずトラベラーズチェックが再発行できないと窮状を訴えました。
 
ここで担当の方が、ネパールや日本の銀行へ電話してくれると期待していました。
 
「それは大変でしたね。申し訳ないですが大使館ではそのようなことに対応できません」
 
途方にくれて「どうしたらいいですか?」と聞くと
 
「私には何も出来ません」と言うだけでした。
 
万事休す。トボトボとホテルまで帰りました。ホテルに戻ると20ドル貸してくれた日本人が
「どうだった?」
「ちょっと再発行には時間がかかるみたい」と嘘をついてしまいました。
「2日後には日本に帰るから、それまでには返却してね」
「分かった」と言って、ベットに横になりました。
 
安宿の天井を見ながら、20ドルの返却を日本に帰ってからにしてもらおうか、ホテルのオーナーに事情を説明してお金を借りようかといろいろと思いを巡らせました。
 
考えが堂々巡りをして少し眠くなってきました。うつらうつらしているときに
「2日後日本に帰るからね」という彼の言葉がきっかけで、アイデアがひらめきました!
 
翌朝、お土産屋さんが並ぶ通りに行きました。何人かの学生風の日本人が私の前を通り過ぎていきました。彼らは私の狙いではありません。
 
二時間くらい待っていると、3名の30代くらいの男性が歩いてきました。とうとうチャンスがめぐってきました。
 
私の狙いは、帰国間近な社会人でした。学生と違って、お金を十分に持っている。帰国間近なら、余分に持ってきたお金を貸してくれる可能性が高いと考えました。そういう人は日本へのお土産を買いにやってくると予想をしました。
 
「すみません。少し良いですか?」
 
「どうしたの?」と真ん中の人が答えてくれました。
 
「二日前に夜行バスでお金を盗まれました。ネパールの銀行ではトラベラーズチェックを再発行できず、インドへ行けといわれました。インドへ行くのに少しお金を貸してもらえませんか?」
 
三人が顔を見合わせました。真ん中の人が左の人に「明後日に日本に帰るし、お前結構お金を残しているのだから、この子に貸してやれよ」と言ってくれました。
 
私のことをかわいそうだと思ってくれたのかすぐに「分かったよ」と答えてくれました。
 
「ところでいくら必要なの?」
「3万円くらい貸してもらえると助かります」
「それじゃ、インドまで足りないだろ! 5万円貸してあげるよ」
「助かります。何かあったときために運転免許証を持って帰ってください」
「そんなのいらないよ。日本に帰ったら、お金だけ送ってくれたらいいよ」
 
狙い通りにお金が借りれたことよりも、見ず知らずの私のことを信じて、免許証も何もとらずに、お金を貸してくれる優しい人と出会えたことに感激しました。本当にありがたいことでした。
 
彼に借りた5万円でインドへ向かい、タージマハール、ブッタガヤ、ニューデリーと旅を予定通り続けることができました。無事トラベラーズチェックも再発行ができ、日本へ帰国ができました。
 
帰国後、すぐに5万円と少しの気持ちを包んで彼に送らせていただきました。その時は考えが及ばずに、お金を返してそれっきりの縁にしてしまったことを今は後悔しています。
 
頂いた恩を返すことはもうできません。私のように困っている人がいたら、彼のように手助けして、彼に頂いた恩を次の人へ送っていきたいと思います。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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