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21歳、くも膜下出血がくれたプレゼント。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:Shota Hitomi(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ここはどこだ?」
目が覚めると天井が白かった。仰向けに寝かされ、右隣には妹がいる。そして、激しい頭痛に襲われている。
 
 
「何で病院?」「何で妹?」「何で頭が痛いんだ?」
何一つ状況が飲み込めない。
 
 
妹は言う。
「お兄ちゃん、くも膜下出血らしいよ」
 
 
意味がわからなかった。
 
 
その日、僕は所属するフリーペーパーサークルの「男子会」に参加していた。
そのサークルは男女比3:7と女子部員が多く、男子部員が珍しかった。そのため毎月のミーティングで新しい男子が入って来る度に男子内で話題になり、明るく歓迎していた。その絆を深めようと考えられた飲み会が「男子会」であり、僕が幹事を任されることとなった。
 
 
会は大いに盛り上がった。2回生の後輩たちも、4回生の先輩たちも、そして3回生の同期も。誰一人欠けることなく笑顔の華が咲くその様を見て、僕は心の底からホッとした。「あぁ、みんな笑ってる。初めて幹事をしたけど、うまくやれたんだな」会計を済ませ、清々しい気持ちで店を後にした。
 
 
僕の記憶はここまで。その後何があったのか全く記憶にない。
「自分の身に何が起きたのか?」あまりの頭痛に考えることすらままならなかったが、入院から2、3日経った頃、男子会に参加したある先輩から、事の真相を聞くことになった。
 
 
あの夜、会計を済ませ店を後にした僕は、その先輩とバス停に向かった。あーだこーだと先輩と話しながらバスを待っていた最中、突然フッと真後ろに倒れたのだそうだ。転倒の際に後頭部を強打し、頭蓋骨を骨折。「外傷性くも膜下出血」を引き起こした。不幸中の幸いか、同じバス停に救急救命士の方が偶然居合わせ、迅速かつ的確な処置が行われたらしいのだが、日付や名前といった基本的な意識確認にすら答えられない状態であり、事態は深刻だった。
 
 
その知らせは岡山に住む両親の元にもすぐに届いた。しかし、時刻は深夜0時。京都にいる僕の元へはすぐには駆けつけられないため、同じ大学に通い京都市内に住む妹がまず最初に病院へ駆けつけていたのだ。
 
 
お酒が原因か……。いや、それはありえない。なぜならあの夜、僕は2杯しかお酒を飲んでいないからだ。元より強い方ではないが、飲み会に行けば3、4杯が普通、かつては10杯ほど飲めていた時期すらあった。そんな僕がたった2杯のお酒で倒れるなんて考えられない。事態を知ったサークル仲間たちも口を揃えて「なんで?」と驚いていたほど。
あり得ない……。そう思っていた矢先、近頃の自分に思い当たる節があった。
 
 
その当時の僕はかつてないほど心を病んでいた。理由は、親友が大事な約束を破ったことをきっかけに、それまで溜まっていた不信感が爆発したことである。数えきれないほどの思い出を作り、これから先の人生においても刺激し合っていくであろうと心の底から思っていた分、その一件は裏切りのようにも感じた。
 
 
そんな僕の背中を押してくれたのも、これまた友人たちだった。身近な友人、所属していたNPOの友人、そしてサークルの仲間と酒を交わした。言葉を交わし、悩みを吐き出すことが重要であり、お酒はそのきっかけでしかない。どの回も飲んだ量は決して多くはなかった。
 
 
しかし、そんな日が三日も続けば体の回復が追いつかない。ましてやメンタルがボロボロなら、体を傷つけてしまいかねない。バランスを失った心と体に酒が回り、エラーを起こしてしまったのだろう。この話は主治医をも納得させた。
 
 
結局お酒が原因ではない。大学に入って以降、想像を超えるスピードで交友が広がり、初めて親友と呼べる友人らも出来る中で、人に期待し、依存し、その繋がりの中でしか自分の存在を見出せない生き方をしてしまっていたのだ。だからこそ親友のミスを裏切りだと勘違いし、些細なことで大きく傷ついてしまった。他人を自分の理想にはめ込もうともしていたんだろう。
 
 
自分本位で、他者依存な生き方に情けなさが込み上げた。
 
 
「このままではいけない」
自分の意思を持って動こう。
思いを実現することで自分を認めよう。
やりたいことをやれば良いんだ。
 
 
変わるべき時を迎え、僕は心を入れ替えた。そして、1年間大学を休学した。
 
 
休学中はひたすら自分の好奇心に従い、今まで見たこと、感じたことのない世界に触れようと一生懸命になった。
ずっと夢に描いていた海外一人旅をした。台湾を一周し、東南アジア数カ国を訪れたことで初めて日本の素晴らしさを知った。
自転車で瀬戸内海を一周し、地元の美しさに心から感動した。
ヒッチハイクにも挑戦した。押し潰されそうな不安と凍える寒さを超えた先に、温かな出会いが待っていた。
旅をしていない時は一眼レフを持って様々な現場を撮影させてもらった。カメラを持っていないと行けないような場所や会えないような人とも出会った。
 
 
すると、どうしたことか。
気付けば僕の周りは面白い人たちで溢れていた。
 
 
楽器一つで世界中を放浪するsouさんと、台湾原住民アミ族の末裔マーランに、台湾で出会った。
八百屋を営みながら色んなイベントを催すヒロコさんとは、自転車旅で出会った。
言霊アーティストと一筆描きアーティストのご夫婦とは、ヒッチハイク中に出会った。
寄付文化発展のためNPOを立ち上げた大学生3人とは、カメラマンを通して出会った。
 
 
個性豊かな友人たちや、こんな風になりたいと思わせるカッコイイ大人たちがすぐそばにいる。
「この人といると何か面白いことが起きそうだ」そう思わせてくれる素敵な人たちに囲まれている。そんな、以前の僕では見られなかったであろう光景が、目の前に広がっている。
 
 
こんな景色、誰も想像し得なかった。だが、そんな景色を作ったのは他でもない僕自身であり、そのきっかけをくれたのは「くも膜下出血」であった。
 
 
くも膜下の入院生活はまるで地獄のようだった。激しい痛みと24時間闘い、時に気絶するように眠りに落ち、安らぎと言えるのは鎮痛剤を打たれる時だけ。
だが、その痛みは単なる嫌がらせではない。他人をあてにし、他人ありきな生き方をする僕に対して「このままでいいのか?」というメッセージでもあった。僕はそのメッセージに気づき、生き方を変えた。自分らしく生きたことで、新しい景色を見ることができた。くも膜下がなければ今の自分はいなかっただろう。そう思うと、くも膜下もあながち悪くなかったし、むしろ大切なことを教えてくれたプレゼントのようにさえ思えてくる。
 
 
そんな人生を変える事故から6年以上の時が経った。出血自体は完治しているが、頭蓋骨は未だに骨折中だ。子供と比べ大人の頭蓋骨は固いらしく、一度割れると完全に修復するまで20~30年かかると言う。つまり、この傷が完治するのは40歳、50歳、はたまたそれ以上先になるかもしれないということだ。
 
 
気の遠くなるような時間だが、決して後ろは向かない。
この怪我が完治した頃には、きっともっともっと素敵な景色を眺めているだろうから。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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