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シャイとオープンの間で

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:ほのみ(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「お前ら全員、男だろ! 男気見せろよ!」
 
会議で社長が唐突に言った。私は言葉に詰まる。いい訳が出てこない……。
 
自分は男でないから、男気もないだろうし、訳さなくていいか、なんてことにはならない。
 
私はお世辞にも的確とは言えないが、全く的はずれとも言えないような英語の表現をなんとか絞り出し、イギリス人の役員に伝えた。
 
社長が発した言葉に日本人役員の間でドッと笑いが起こる中、イギリス人のトビーはかわいそうに、きょとんとした顔をこちらに向けている。
 
私は半導体のメーカーで社内通訳として働いている。通訳は会議中に話された言葉を全て訳さなければならない。どんな言葉でも、聞こえた限り。物理的に無理だろ、ということもしょっちゅうある。イギリス人の役員1人に対し日本人役員は20名ほど。続けざまに複数の日本人が話せば、通訳している間に次の言葉が聞こえてきて……、の繰り返しで、どうしても追いつけないのだ。時間が足りない。
 
もちろん、重要なポイントが上手く訳せなかった時は、会議後に要約してフォローしているが、こういう冗談というか軽口のようなものの取り扱いが、実は一番難しい。即興で上手く対応できなければ、通訳というサービスの受け手は笑いの中に一人取り残されてしまい、なんとも気の毒なことになる。
 
とは言え、社内通訳者にはスピーカーとの事前の打ち合わせなんかないし、話者が何を話すかは自由だ。それを全て予測や準備をして臨むなんてことは不可能で、通訳の授業を受けた時、「とっさに訳せないのであれば、英語で『彼は冗談を言っています』と言うしかない」と教わったことを思い出す。
 
子供の頃、私はとてもシャイだった。自分の気持ちを言葉で表現するのが苦手な子供だった。おしゃべりが嫌いなわけではなく、親しい友人との間ではそれなりに話すのを楽しんでいたが、それほど仲良くない人達や初めて会う人達とは何を話していいかわからず、会話が弾まないことがよくあった。
 
自分とのおしゃべりで相手が楽しんでいるのかがわからず、不安だったように思う。そんな自分にいつも理想と現実のギャップを感じていたし、表現したいのにできないもどかしさに、モヤモヤした思いを抱えていた。このままじゃ嫌だ。変わりたい。でもどうすればいいかわからなかった。
 
ところが、人はバランスを取るようにできているのか、そうそう極端にはなれないのか、いつからだったか、話したい欲がむくむくとわいてきたのだ。
 
子供の頃から英語が好きだったので、最初は「英語を話したい欲求」だったように思う。新しい言語と出会い、その言葉の持つ音やリズムに魅せられ、I think から始まる表現に、明確な意志の力が宿っていること、それと共に、個人の自由を尊重する響きも含まれていることが感じられ、話すのが純粋に楽しくなった。そして、人の話もたくさん聞きたくなった。英語を話すことで、これまで知らなかった世界がぐん!と広がり、吸収したいという思いが強く芽生えた。
 
自分では気づかなかったけれど、英語を学ぶことで、どこかで「変身願望のスイッチ」が自動的に発動していたのかもしれない。
 
少しずつおしゃべりする人の数も増え、あまり構えずに人と会話しようと思うようになった。話すことで人を知ることができるという醍醐味も味わい、話したい欲はどんどん膨らんだ。
 
人見知りしていた時間がなんてもったいなかったのだろう! 自分が心を閉ざしていた間に、どれだけの思いや物や情報に触れる機会を逃してきたのだろう? と思い至るようになった。
 
それまでの時間を取り返すかのごとく、私は心を常にオープンに、来る者拒まずの勢いで人と接し、初対面の人にも自分から話しかけるまでになった。
 
話すことで相手の人となりが垣間見え、自分とは違った価値観やモノの見方に触れることができる。人の話を通じて自分も温かい気持ちになったり、お腹を抱えて笑ったり、有益な情報が舞い込んできたり、その人の生活や人生のシーンに思いを巡らせたりできるようになったのは新鮮な驚きであり、私にとって大きな変化だった。
 
シャイだった頃の自分が、いかに色々なものを取りこぼしてきたかを考えると、本当に、なんてもったいないことをしていたんだろう! と感じるばかりだった。
 
今振り返って考えると、通訳という職業を選んだのは、そんな「もったいない精神」が根底にあったのかもしれない。
 
上手く自分の考えや思いを表現できなかった昔の私と、ただ話す言葉が違うだけで通じ合えない状況が重なった。もったいないお化けが出てきそうな点は、どちらも同じだった。
 
そして、常にオープンマインドの話好きになった私は、最近、あまり自分を見せることのできなかった小さな頃の自分が妙に懐かしい。すっかり人見知りではなくなった私の目に映る、周りにいる恥ずかしがり屋さん達にハッと気付かされることがある。
 
内気であるがゆえのどこかはにかんだ表情や、オープンでないがゆえの慎ましい言葉遣いが、とても素敵だと感じるのだ。気をつけて大切に扱わなければならないような気持ちにさせられて、ふと思う。まるで自信のなかった昔の自分だって、こんな風に誰かの目に魅力的に映ったことも、もしかしたらあったのかもしれないと。
 
 
 
 
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2021-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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