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屋久島の持ち寄り会「伊勢海老を獲るか命をとられるか」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石川まみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
食べることは生きること。命をいただくこと。大切だけど忘れがちな食べ物への感謝の気持ち。そんなことを痛烈に感じた印象深い持ち寄り会が有る。
 
「どこから来たの?」定食屋で夫とランチを食べていると隣合せたご夫婦に声をかけられた。
「最近この近くに移住して来たんです。東京から来ました」
8年前、屋久島に移住したてだった私たちは、まだよそ者の雰囲気をまとっていたらしく観光客と思われたらしい。そのご夫婦は私たちより少し年上の50代後半で5年前に関西から来た移住者だった。
「突然なんだけどさ明後日、僕らの家で持ち寄り会をやるんだけど来ない?」と軽いのりで誘ってくれた。
急な話だし何を持ち寄ったらいいのかも分からないのでと少し困惑したが、持っていくのはお酒でも買った物でもいいから気軽にとのこと。私たちは色々な人と知り合いになるチャンスと思い参加することにした。
 
持ち寄り会当日。私たちは、大人数の、しかも農家、猟師、漁師など色々な立場や職業の人たちの集まりに参加したことで一度で沢山の、この島での食文化を体験することとなった。
 
移住者、地元の方が入り交じり総勢30人以上が集まり、人と料理がリビングやウッドデッキを埋め尽くしていた。焼酎の一升瓶と簡単なおつまみを持って参加した私たちは、圧倒され恐縮しながらも料理を口にすると、その美味しさ、新鮮さに驚いた。庭の裏でとれた野草の天ぷら、自家菜園の野菜、果物、自分で釣ってきた魚の刺身 、いそもん(磯でとれるトコブシなどの貝類)などなど。何しろ新鮮なので手の込んだ味付けをしなくても素材の味が活きていた。
スイーツも自宅の巣箱で採れた生はちみつや、地卵を使ったものが多かった。
お肉類の中には、自分で絞めた鶏、狩りで獲った鹿も有った。
 
しばらくして、真っ黒に日に焼けた体格の良い男性が入ってきた。伊勢海老とりの名人と呼ばれている漁師さんだ。
「遅くなりましたー」と言いながら両手に一匹ずつ持った大きな伊勢海老をかかげて見せた。すぐさまお刺身にしていただいたが、しっかりとした食感に続いて甘みとうまみが口の中に広がり思わずうなるような美味しさだった。泳ぎに多少自信の有った私は「私もエビを獲りに行きたいので今度ぜひご一緒させてください」と言うと、近くにいた方が「この人(名人)が伊勢海老が取る場所はとても流れが早くて危険だよ」と言った。
「伊勢海老とるか、命とられるかだ」と名人も言ってニヤッと笑った。
 
食卓に上がるまでの苦労やストーリー、獲った人、作った人の顔のみえる食事。
おのずと食べ物や自然への感謝の気持ちが湧いてくる。
 
移住直前に東京の我が家に親しい友人を招いて持ち寄り会をした時のことを思い出した。友人の一人と待ち合わせをしてデパ地下に食材を買いに行った。
年々品揃え豊富が豊富になっていくデパ地下や大手スーパー。お鍋の材料、サラダのお野菜、お刺身、ブランド肉、話題のスイーツなど選び放題。
「やっぱり東京はすごいよね。全国の美味しいものが集まってるものね」
「種類が豊富で選び放題で手軽に手に入るよね」
確かに商品の選択肢の多い都市。お金を出せばなんでも買える。お肉はほとんどが精肉だ。
食べ物を粗末にして生活をしているつもりは無かったが、命をいただいているという実感も無かった。
 
屋久島にはヤクシカという固有種の鹿が生息しているが、一定数は有害鳥獣として駆除が行われている。頭数が増えすぎる田畑が荒らされたり森林破壊にもつながるからだ。
獲った鹿は皆で分け合い大切にいただく。ヤクシカ肉の製造、販売を行う施設も有り、革や内臓まで無駄なく活用されている。命をいただく大切さを子供たちに伝えるために、ヤクシカをさばいて食べるイベントも行われている。
そんなヤクシカの肉を猟師さんからいただくことが有る。
魚もろくに捌いたことの無かった私は、最初の内は特に、まだ生暖かい塊の鹿肉に正直ぎょっとした。半面、大切な森の恵みを無駄には出来ないと言う思いが沸き起こる。
 
猟をするということは本当に重労働だ。険しい山道を猟犬に続いて駆け回る。小型と言われるヤクシカも大きいものは30㎏近く有る。仕留めた鹿を山から担いで降ろすのも並大抵のことでは無い。猟師さんにも感謝の気持ちが湧いてくる。
 
犬の散歩ついでに名人が伊勢海老を獲っているという磯の近くに行ってみた。なんと磯はサスペンス劇場に出てくるような険しい断崖の下に有った。階段もなくどこから降りていいかも分からない。これでは海に入る前に命をとられてしまいそうだ。名人の言った「伊勢海老とるか、命とられるかだ」と言う言葉は、あながち冗談では無かった。
 
長年、殺生を人任せにして商品になったものばかりを食べて生活してきたのでまだ自分で狩りをすることは出来そうもない。でも動物だけではなくお米や野菜、果物も全部それを作っている人のおかげで私たちは生きている、大切な命をいただいていると実感できただけでも田舎暮らしをしてみて良かったと思う。
 
 
 
 
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2021-04-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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