メディアグランプリ

なりたいものは変形菌


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記事:藤井明子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「私は絵を描いたり、デザインを考えたりするのが好きなので、デザイナーになって私オリジナルの作品をつくりたいです」
小学校の卒業式で、娘が言った言葉だ。
コロナ流行中の小学校の卒業式は簡素化されていたが、卒業生一人一人が自分のやりたい事を皆の前で発表していた。卒業生30数名それぞれが自分の目標を言った。
生物学者になりたい、キャビンアテンダントになりたい、地質学を勉強したい、英語をきわめたい、吹奏楽部に入りたい、テニス部に入りたいなど、さまざまだった。
誰一人として同じ言葉はなかった。
 
それを聞きながら、私のこれからやりたいことは何だろうか、と考えていた。
 
幼い頃には、熱を出した母を見て医師になりたいと言ったらしいが、当の本人は忘れてしまった。のちに本当に医師になったのを喜びながら、祖母が教えてくれた話だ。小学校を卒業するころには、パソコンを使いながら仕事をするキャリアウーマンになりたいと思っていた。当時はまだ一人一台パソコンはおろか、家にもコンピューターはない時代だった。パソコンをたたく=仕事がバリバリできる、と勝手にイメージをし、あこがれを抱いていた。中学生になった時には、自宅で犬と猫を飼い始めたこともあり、動物とかかわるトリマーか獣医師になりたいと思った。獣医学を学ぶなら、漠然と医学を学びたいと思うようになった。高校生の時に読んだ本の影響を受けて、医師になりたいと思うようになった。将来を見据えた大学選びを求められる雰囲気の中、医学部なんかとうてい合格できそうにない学力しかなかった私は、自分のなりたいことを口にするのが難しかった。ころころとやりたいことが変わり、夢さえ口にできなかった私は、20数年以上の時を経て、今は小児科医師としてクリニックで働いている。また、3人の子どもの母、キリスト教会の牧師夫人となった。かつての私が想像していなかった現在の私がいる。
 
娘の卒業式の話に戻そう。卒業生のさまざまなやりたいこと、夢、目標を聞き、私も考えてみた。
 
今の私はこう答えるだろう。
「私は変形菌のように、たくましく生きたい」
 
一つの枠にはまることなく、過ごしていきたい。
そう、変形菌のように。
 
変形菌との出会いは15年くらい前のこと。たまたま行った植物園の企画展でそれと出会った。巨大な温室ドーム内にあった変形菌の展示をみたことから始まる。巨大なドームの中なのに、変形菌は四方20センチくらいの小さなガラスケースの中におさめられ、枯れ葉の裏にいた。ルーペをもって、かがんで覗かなければ見られないほどに小さかった。普段ならだれも目のとめないようなところに、とても鮮やかな色で、キノコのようなかわいいらしい形で存在している、その姿にとても魅力を感じたのだ。私の本棚には「美しい変形菌」という変形菌の写真集があり、いつでも手にとれる場所においてあり、事あるごとに眺めている。
 
変形菌はキノコでもなく、カビでもなく、変幻自在なアメーバ生物である。アメーバ生物なのに、「美しい変形菌」という写真集が出されるほどに、色とりどりな鮮やかな美しい色を呈している。キノコのような形、粒のようなもの、網目のような広がりをみせるものと、形もさまざまである。葉っぱの裏側や、枯れ木を注意深く、虫眼鏡でのぞくように見ないと見つけられないほどに小さいものである。私たちの日常生活とは直接的につながってはいないように思える。その存在価値がわかりにくいけれど、バクテリアや菌類を捕食することで、落ち葉や枯れ木の分解のスピードが加速しすぎないように、生態系のバランスを取っている。
 
変形菌自身は、生態系のバランスをとろうとは考えてもいない。彼らはただ、自分のライフサイクルで生きているだけなのです。(本「美しい変形菌」より抜粋)
 
ただ存在しているだけで、自分のライフサイクルで生きているだけで、互いに関係しあい、つながりあって、生態系のバランスを保っている。何かしようと気負うことなく、ただあるだけで、変幻自在にあるだけで、縁の下の働きをしている、そんな変形菌にとても魅力を感じる。
 
これからも、私のやりたいこと、することは、その時の環境によって変わっていくのだろう。
 
今ある仕事の一部はAIに変わられると言われている。
変形菌のように、しなやかにたくましく生きていけばよいのではないか。枠に問わられず、それぞれの色、それぞれの形、それぞれがいる場所を活かして、変幻自在にいればいいのではないか。
気負うことなく、ただいるだけで、だれかの何かの縁の下の働きをしていけたらよいのではと思う。
 
 
 
 
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2021-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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