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皮膚科医は名探偵


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記事:伊藤瞳子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「どうして皮膚科のお医者さんになろうと思ったの?」
 
「目でみて診断できるところが面白いからかなぁ。」
 
私は医者になって14年目、皮膚科医になって12年目になります。
 
よく、医学部に入ると、もう何科の医師になるか決めて、その科の勉強をしていると思われたりしますが、医学部では内科、外科、皮膚科、眼科、耳鼻科、産婦人科、救命救急など、すべての科の勉強をします。
医学部6年間の勉強が終わり、医師国家試験に合格すると医師免許を取ることができますが、その時点ではまだ何科の医師になるかは決まっていないのです。
 
医師免許をとったあと、2年間は研修医になります。その間に、内科、外科など、興味のある科をある程度選択して回ることになります。私は内科、消化器外科、産婦人科、皮膚科、眼科、救命救急、放射線科を選択し、研修を受けました。
2年の研修医が終わったとき、皆それぞれ専門の科を選んで進みます。
そして私は皮膚科医になることを選択しました。
 
大学の皮膚科の教授が、最初の授業で話したつかみの話がよっぽど印象的だったのでしょう。今でも思い出します。
 
「患者さんが、唇がタラコ唇みたいに腫れてきました。唇だけじゃなく、口の周りも赤く腫れていて、手も赤くなっています。皆さんなぜこうなったと思いますますか?」
教室がシーンとなりました。
「『昨日マンゴーを、こうやってかぶりついて食べたでしょう。』と聞いたのね。」と、スイカを持ってかぶりつくようなジェスチャーをしました。
「そしたら、『先生!なんでわかるんですか?そういえばマンゴー食べました!先生私のこと見てたんですか!?』ってね。」
盛ってる風にしゃべる先生に、皆笑いました。
「マンゴーはウルシ科の果物で、かぶれやすいんだよね。フォークで食べれば口の周りにつかないけれどスイカみたいにこうやってかぶりつくと、口の周りに汁がついてかぶれます。で、持っていた手もかぶれます。」と。
 
内科や外科は症状を聞いて、採血をして、レントゲンやCTをとって、内臓を調べ、結果がでて、何か異常があったときに診断がつくので、初めて診たときには診断がつきません。
しかし、皮膚は外から見える臓器なので、よく観察するだけで診断がつくこともある、特殊な科と言えます。
 
私は皮膚科医として開業して5年になりました。開業クリニックにもなると、G社の口コミなんかも書かれてしまうわけで……。
「問診票をみて、ある程度病名を予想しているのか、診察室に入るなり「~ですね」と、ちらっと見ただけで診断された。」というクレームの書き込みをされたことがあります。もっと詳しく採血などしてほしかったのかな、と思いますが、皮膚科が目でみて診断する科なのだということが、あまり理解されていないのだ、と実感しています。
 
診察する時には、どこに、どんな形の皮疹がでているかをよーく観察し、過去に患者さんが、何を触ったのか、何をしていたのかを思い描きます。
そう、皮膚科医は、ある時には探偵なのです。
 
例えば、「手首が腫れた」という患者さんが来たとします。
確かに手首が赤くなっていますが、形が長方形をしています。
何かにかぶれたにしても、こんなにきれいな長方形になるのはこれしかありません。
患者さんに問いかけます。
「湿布をしませんでしたか?」
「あ、手首が痛くて湿布を貼りました。でも今まで何度か貼っていたときは赤くならなかったんですよ。」
「今回は湿布をはがしたあとで、半袖で日にあたりませんでしたか?」
「あ、今日外でテニスをしました!」
 
謎はすべて解けた。
 
これは「光接触皮膚炎」というタイプの湿布かぶれなのです。
湿布薬の中には、湿布をはがしたところに紫外線をあてると赤く腫れてしまうタイプの湿布があります。光接触皮膚炎をおこす湿布は必ず注意書きのところに、『はがしたあと紫外線にあたらないように』と書いてあるので、良く確認してみてください。紫外線さえ当たらなければ大丈夫なので、腰など洋服でかくれるところなら大丈夫ですが、手首や首など日光にあたるところに貼るには適していません。
 
こんな風に、原因がわかると患者さんも私もお互いすっきりします。
 
しかし、これまでに一番頭を悩ませたのはこれです。
おじいさんの右腕の外側に1辺が2㎝四方の赤い網目模様がついていました。
こんなにはっきりとした網目模様の皮疹はみたことがありません。
自然にこんな形になるはずがありません。明らかに人工的な形です。
一体なんの網目だ!?
シャーロックホームズになった気持ちで網目のものを探します。
「例えば、魚焼き器の網とか、窓の網戸とか……あ、バーベキューの網はとか!そういうものが腕の下にあたっていたまま、ごろっと横になって昼寝したりとか、そういうことはありませんでしたか?」
「たまに昼寝はしますが、そういうものはありません。」
そりゃそうだ。どんな状況なんだ……。
想像して自分でも可笑しくなりました。
「畳の模様がこんな形しているとかはないですか?」
「いえ、普通の畳です。」
「ですよね……。」
患者さんと一緒にしばらく考えましたが、その日はわかりませんでした。
それから先輩の皮膚科の先生に聞いたりしましたが、結局わからず、もやもやして過ごしました。
 
1週間後、再診の時に患者さんが「先生!わかりましたよ!」と教えてくれました。
「囲碁盤でした!」
「あ~なるほどぉ!!!」
「ひとりで囲碁をやっているときに、囲碁盤に腕を置いて、囲碁の本を読んだりしていました。囲碁盤の網目とおんなじ形でした。」
囲碁盤の網目のところがウルシで塗られていたのでしょう。
囲碁盤のウルシかぶれでした。
 
謎が解け、患者さんと大笑いしました。
 
今日も私は患者さんの皮膚を観察し、名探偵のようにこう聞きます。
「昨日、マンゴーをこうやってかぶりついて食べませんでしたか?」
 
 
 
 
***
 
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2021-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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