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不安しかなかった子育てから学んだこと


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記事:武田依子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
近所のショッピングモールでエスカレーターに乗った時のことだ。同じ下りのエスカレーターで私のすぐ目の前に立っている人が、知っている人であることに気づいた。
息子が小学生の頃に仲良くしていたYくんのママである。彼女は子供ともども仲良くしていた数少ない貴重なママ友であった。何よりすぐ目の前に立っているという偶然に、思わず声をかけてしまった。
声をかけた時にはビックリしていたけれど、彼女はすぐに私を思い出してくれた。
「わあー! 久しぶりー元気だった?」「どうしてたー?」
10年近いブランクは一気に吹き飛ぶ。とても久しぶりなのに始まった話はいつまで経っても尽きない。
Yくんとは同じ小学校で6年間を共にし子供たちはよく遊んでいた。そんな風に同じ時間を過ごした人とはどれだけ時間が過ぎても、会えば話が尽きなくなるくらい分かち合えるものがあるんだなぁ、と感じた。
話が尽きなかったがお互いその後の用事があるということで、後日会う約束をしてその日は別れた。
 
彼女と会ったことがきっかけで、忘れていた事を色々と思い出し自分の子育てを振り返った。
私の子育ては不安しかなかった。手探りで必死でしかも大変だった。
息子はとてもカンの強い赤ちゃんだった。とにかく寝ない。そしてずっと泣いている。
乳児の時は夜中も数時間ごとに起きては授乳していたのもあって、私はこの時期フラフラだった。
その時近所に住んでいて仲良くしていた、同じくらいの年齢の赤ちゃんが一日14時間寝ると聞いて気が遠くなったのを覚えている。
ある日の午後に、昼食を作ろうと思って鍋を持った途端に倒れ動けなくなってしまった。夫に連絡して帰ってきてもらい、病院に行くと「過労」と診断された。その後どうしたか、何故か覚えていない。
 
この頃、自分も含めて母親というものは、子供の成長発達を他の子供と比べて一喜一憂してしまうものだと知った。
そして息子が、成長発達のゆっくりしている子供である事にも気がついた、
周りの他の子供たちがつかまり立ちを始めてそのうちに歩き始めても息子はずっとハイハイをしていた。言葉を発したのはなんと三歳を過ぎてからである。早い子供では一歳になる前から喋り始めるし、殆どの子供は一歳半くらいには意味のある単語を喋るようになると言われているから、これは相当遅い。
私立の幼稚園の入園面接を受けた時には、続々と親から離された子供たちが別室に連れて行かれる中、息子だけが泣き喚いた。園長先生に「外部と交流しない密室育児をしているんだろう」と断じられ入園は断られた。
 
幼稚園や小学校に行くようになるといじめられがちになった。
友達と遊ぶ約束をして放課後に約束の場所に行くと、そこには誰もいない。
1時間くらい待っていると、約束したはずの友達が他の友達と大勢で自転車でやってきて息子の姿を見て笑いながら去っていく。
そんなことはしょっちゅうだった。
「お子さんへのいじめが酷くて見ていられないから学級会の議題にしていいか」と他の保護者から電話がかかってきた事もあった。
 
担任の先生から「お子さんは発達が遅いですね。同じ学年の子供たちよりも3〜4歳は遅れていると思います」と言われた。この頃の成長の遅れというのは、子供にとってとても大きい。ゆっくりでも成長を待てばいいと思うかもしれないが、周りの子供たちは配慮してくれない。その間に起こる出来事で後に影響するような経験をすることもありうる。現に、もういじめられがちだ。私はとても心配し、どうしたらいいかわからなかった。
こうして子供のことに関しては、ずっと劣等感みたいなものを持ち続けていた。発達の遅れは自分の下手くそな子育てのせいのようにも思えたし、いつも不安がつきまとった。
 
そんな中Yくんは息子とよく遊んでくれた。当時の私はとても嬉しく感じ、ママとも自然と仲良くなった。
ママによると、Yくんは周囲をよく見ることができ危ない事には近寄らず上手にスルリとかわすことができるので、全く心配を感じない子供だということだった。それを聞いて私はどんなに羨ましく思ったことだろう。友達の多いYくんになんだか憧れに近い気持ちを抱いた。どうして息子と仲よくしてくれるんだろうと思いながら、ありがたく付き合っていた。
そんなYくんとも残念ながら中学進学で別れた。そしてその後もさまざまなことが起こり、不安に気持ちが苦しく揺れる日々を過ごした。
 
しかしそれから数年経ち、状況は変わった。
「大学受験をする!」という息子の模試の国語の偏差値が30だった時には、果たして入れてくれる大学はあるのかと思ったが、なんとか大学に入ることができた。そして大学入学後に、状況の変化がハッキリ分かったのだ。
友人がたくさんでき、あちこちからの誘いで予定が重なることもしょっちゅうだ。
大学の勉強を楽しんでいて、やりたいことが多すぎて専攻を絞れないのが悩みなのだそうだ。塾や予備校と違って大学はいくら履修しても授業料は同じなので取らないと損なのだと言う。三歳まで喋らなくて心配したのが嘘のようにおしゃべりだし、応用化学専攻の彼は、まるで実験? のように楽しそうに化粧品を作ってくれたり、時折お菓子を作ったりもする。
息子の様子を見ていると、あの日々が嘘のようだ。パラレルワールドにでも来たみたいだと思う。
 
今振り返って思うのは、短いスパンだけを切り取って物事を判断すべきではないんだなということだ。目の前の現実が良くないものだと、どうしても未来の良い想像ができなくて不安になりがちだけど、不安の通りにならないことの方が多いのではないか。息子がこんなに友達をたくさん持つようになるとは昔は想像できなかった。
 
それと、なんとか乗り切れたのはこれが出来ていたからではないか、と思うことがある。
それは子育てでよく言われることだが「他の子供と比べない」ことだ。
息子の場合、あまりにも周囲との差が歴然だったから比べようがなかったのもあるが、成長発達が遅い事に気付き、担任の先生からもそれを指摘された時点で「この子に合ったものさえ見つけられたらそれでいい」と考えを切り替えた。そして息子の様子を観察して、合うかなと思うものや環境を出来る範囲で与えるようにしていた。時にはうまくいかないこともあり試行錯誤ではあったが、でも後日Yくんママに「自分の子供も他の子供を見るのと同じ距離感で冷静に見ていたのをすごいなあと思っていた」と言ってもらってとても驚いた。見てくれていたんだなあ、と嬉しくなった。
 
今、子育てに不安な気持ちを抱えている人がこれを読んでくれて少しでも楽になってくれるととても嬉しい。
不安な気持ちは痛いほどわかる。でも、きっと不安な日にも終わりがくる。
そして「比較せず、その子供に合うものを見つけること」
これは息子のように発達がゆっくりな子供に対してだけではなく、どんな子供を育てる時にも大切だと思う。個性の豊かな子供の場合は尚更だ。おそらくこれだけを心がけていれば、きっとなんとかなっていく。これが不安しかなかった子育てから私が学んだ事であり、今の実感である。
 
 
 
 
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2021-04-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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