わたしたちは、神である。 ~少し幸せになるおまじない~
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:中村瑠奈(ライティング・ゼミ 日曜コース)
こんなタイトルでは、筆者がある特定の、というよりはおそろしい宗教の信者に見えているかもしれない。
先に断っておくと、私は「無宗教」である。ただし、日本人がよく言う「無宗教」とは少し勝手が異なるかもしれないので、「積極的な無宗教」とでも言っておこう。私はどの宗教も特別扱いしない。宗教の知識を得ていくなかで、素敵だなと思うことは取り入れるし、自分とは合わなければ、そんな解釈もあるんだなあ、と流す。
私は高校で社会科を教えている。社会科といえば、歴史や地理、政治経済のイメージが強いかもしれないが、宗教・思想・哲学に特化した「倫理」という科目があることをご存じだろうか。私は新卒で倫理を担当することになった。今まで全く勉強したことのなかった分野を、急に高校3年生(高3といえばほぼ大人である)に教えることになったのである。はじめはかなり苦労したが、教員2年目になるころには、すっかり宗教のもつ魅力に引き込まれていた。
「消極的な無宗教」、つまり宗教に対してネガティブなイメージを持っている、あるいは無関心な日本人は多い。おおむねその原因は無知であり、だとしたら非常に勿体ないことだ。「積極的な無宗教」、つまり様々な宗教の考えを知ったうえで、何も信じないということを選択するのとは、「無宗教」という結果は同じでも、幸せになるきっかけを掴むか捨てるかほど異なる、と言っていい。とはいえ、私も宗教のことを仕事で知ることになった分際なのだから、人のことは言えない。だからこそ、これを読んでくださっているあなたには、社会科教員が伝えたい「宗教っぽい考え方のすすめ」を書き始めた次第である。(何かの宗教に入ることを勧めるものではないので、安心して読み進めてほしい。)
タイトルの説明に戻ろう。「わたしたちは、神である」、自分が神と同じだと言われても、よく分からないという人が大半であろう。私は次のように解釈する。神とは、「圧倒的なパワー」のことである。
わたしたちは日常で神というワードを使っている。いくつかの野球やサッカーのチームにはそれぞれ守護神がいるし、現在のパナソニックを立ち上げた松下幸之助は経営の神様と呼ばれている。メディアでは神回や神技、神対応など(私は中学生に制汗剤を貸しただけで神と呼ばれた)、「神」は意外にも、わたしたちが日常的に見聞きしているワードなのだ。これほど神という言葉が使われると、そのありがたみが薄れるような気もする。しかし、実際のところ日本の最古の歴史書『古事記』では、八百万(やおよろず)の神と呼ばれるほど、たくさんの神様が登場する。しかも、神々は意外にも、キレるし、不倫するし、死ぬこともある。神は、あなたが想像しているほどありがたい存在でないかもしれない。
昔の人びとの神の捉え方も紹介しよう。晴れているときは太陽の神様の機嫌がいい証拠であったし、(筆者は子どもの時にいたずらをすると「お天道様が見ていますよ」と祖母に言われた。太陽を神様に見立て、私を戒めようとしているのだ。)しばらく雨が降らなければ、雨乞いをして恵みの雨を待った。雷の語源だって「神鳴り」である。鎌倉時代の日本をモンゴル軍が襲った時(一般的に言う元寇のことである)には「神風」が吹き、日本に勝利をもたらしたという通説もある(諸説あり)。天候だけで絞っても、たくさんの神を見出すことができるのだ。
つまるところ、人は抗うことのできない「圧倒的なパワー」を持った自然に対して「神」と名付けていたのだ。そして自然に畏敬の念を表し、大切にしてきた。今では科学が発展し、昔より自然を軽視する傾向にあるが、神の持つ意味は変わらないだろう。
わたしたちが神と呼ぶのは、今も昔も変わらず「圧倒的なパワー」のことであると述べた。では、どうしてわたしたちもそのような存在であると言えるのだろうか。それは、今自分がこうして生きている(生かされている)ことが、圧倒的なパワーによって以外、説明の余地がないということだ。あなたがここに存在するためには、どれほどの奇跡が必要であろうか。地球が存在し、海から生命が誕生し、それらは長い年月をかけ進化をくり返し、生き残った人類は数え切れないほどのトラブルを生み出した。それでもあなたの父と母が出会って、そして今もあなたは生きている。あなたが生まれたことも、あなたの心臓が動いていることも、あなたが何かを見聞きしたり、考察したりすることも、ましてやこの記事にアクセスしていることも。あなたが今ここに存在するためには、わたしたちには説明できないような、いくつもの奇跡の積み重ねが必要なのである。つまり、あなたという存在自体が、既に尊いのだ。
私が思うに、宗教の存在意義は「信じることでハッピーになれる」ことにある。実際、宗教を持っている人はそうでない人に比べて自己肯定感が高いというデータがある。だからといって、わたしたちはある宗教の厳しい掟を守らなくともいい。信じる対象があればよいのだ。
人は苦しいとき、何かを信じたくなる。巷にあふれるアニメやドラマがそれを証明しているではないか。物語の主人公は苦難を乗り越えるとき、仲間そのものや、尊敬する者の言葉、自分自身など、何かしら信じる対象を持っている。私は子どもの頃、最終的にハッピーエンドになるこの類のものが嫌いだった。「信じたい仲間なんかいるもんか」「何かを信じるより期待しない方がラクだ」「こんなものは綺麗ごとにしか見えない」と(我ながら子どもにしてかなりのひねくれ具合である)。しかし、今ならわかる、信じるという行為がいかに強いパワーを持っているかを。
私は全人類におすすめしたい、「信じる対象をもつ」ということを。私のように信じたい対象がないなら、自分自身を信じることだ。「わたしは奇跡のたまもので、その存在は神に匹敵する。わたしが今何を思っていても、それ自体が尊いのだ。わたしは神である!」はじめは胡散臭いだろうが、このことを何度も頭で繰り返したら、そう信じられるようにヒトの頭はできている。決して、「私は神なんだ!」といって傲慢になることを勧めたいのではない。あなたが神なら、あなたが今目にしている世界も同様に、すべて神なのだ。そう思えたら、自分にも、他人にも、身の回りのモノにも、そして社会にも優しくなれないだろうか。
私が憧れる人は皆、心に余裕がある人だった。不安に煽られていては、余裕など持てない。不安や日々の疲れから気をそらすために、まずは本気で自分を「神」とか「尊い」のだと信じてみよう。わたしは「神」で「尊い」ならば、わたしは大切にされるべきだ。そして、わたしを一番大切にできるのは、わたし自身である。わたしを大切にするアクションをどんどん起こしていけば、わたしにゆとりが生まれ、自分以外のものも大切にできるはずだ。……ここまで出来たらあなたはきっと、「少し幸せになるおまじない」にかかっているであろう。
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