メディアグランプリ

ポケモン少年と釣りおじさん

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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岩崎拓弥 (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ピカチュウ、君に決めた!」
息子がテレビ主人公のマネをしてポケモンカードで遊んでいるとき、湘南の砂浜で釣りをしている私は心の中でこう叫んだ。
「飛びすぎダニエル、おまえに決めた!」
 
約1年前から始めたルアーフィッシングという釣りにはまっている。ルアーフィッシングは、生きエサを使う従来の釣りとは違い、ルアーという疑似餌を使って行う釣りである。ゲーム性・スポーツ性が高く、比較的「大人な遊び」の要素が入った釣りなのだが、実は息子のようなポケモン好きの「少年の遊び」と大して変わらないことに気づいてしまった。
 
ルアーには大きく分けて、柔らかいプラスチック素材でできているソフトルアーと、プラスチックや金属等の硬い素材でできているハードルアーがある。ルアーフィッシングの経験がない方にも、比較的イメージを持ってもらえるであろう、ソフトルアーを例えるとならば、グミキャンディーのような質感で、ミミズや小魚、またザリガニなどの形をしているものと想像してみてほしい。ルアーの詳細な種類・分類については正直私も全然わからないし、おそらく誰もが語り切れないだろう。なぜならこのルアーというものは、全898種類のポケモンをはるかに凌駕する、とにかくものすごい種類があるからである。
 
ポケモン少年がゲーム(バトル)で強くなるためには、玩具屋やコンビニに行き、ポケモンカードを買って手持ちのキャラクターを増やしていく。同じくして釣りおじさんも、魚とのバトルのため、足しげく釣具店に通い、手持ちのルアーを増やしていく。
 
「最近茅ヶ崎から辻堂辺りのサーフからヒラメを狙っているのですが、おすすめのルアーってありますかね」
「この時期の茅ヶ崎周辺だったらこのシャッド(魚)系のソフトルアーいいですね。朝まずめであればオレンジゴールド系で、あとラメ入りもおすすめです。日中はピンク系もいい感じです」
 
ルアーフィッシングを始めて約1年、やっとこの店員とのマニアックな会話についていけるようになった。ルアーの種類の多さゆえ、釣具屋の店員は我々にとってのポケモンマスターみたいなものであり、彼らにアドバイスを聞くのが一番手っ取り早い。加えて、実はルアーは結構お高い。特にハードルアーとなると1本1000円以上する。ポケモン少年よりも財力が増したとはいえ、釣りおじさんとしても、なかなかの高価なおもちゃであるとの自覚はある。そんな数あるルアーの中から厳選した相棒をタックルボックスに忍ばせて、バトルへと向かうのである。
 
日の出10分前。少しずつ江の島側の空が明るくなってきた。
今日は大潮。ちょうど上げ潮で満潮まで2時間。
微弱の北風、波もなく美しい朝凪。
コンディションは最高だ。
さまざまなルアーが入ったタックルボックスを開いて眺める。
「よし、オレンジゴールド、おまえの出番だ!」とはさすがに声には出せないので、心の声を発し、昨日仕込んだソフトルアーを海に投げ込んだ。
 
 
1時間経過。全く反応がない。
 
 
日が昇り想定外の南風が吹いてきた。この辺りでは、南風は沖から岸へと吹く風のため、強くなると釣りにならなくなる。
「まずい、時間がない。今日も釣れないのか?」と思ったその時、60メートル先の海面の一部がざわつき始めた。「なぶら」という小魚の群れが現れたのである。
オレンジゴールドのソフトワームを急いで回収し、再びタックルボックスを眺める。
ポケモンバトル同様、釣りもその状況における最適な手札を出し続ける必要がある。
 
あの距離に投げ込むには、ハードルアーしかない。
ただ、この向かい風のなか飛距離が若干殺される。
距離といえば?そうあいつだ。
「飛びすぎダニエル、おまえに決めた!」
 
「飛びすぎダニエル」とはハードルアーの商品名である。鉛製のため重さがあり、且つ、飛距離にこだわった形状をしているため、なぜ「ダニエル」なのかは謎であるが、その飛行機能をアピールした名が付されている。
 
ダニエルを糸先に結び、沖のなぶらに狙いを定めて竿を振りかぶる。
さっきのソフトルアーとは違い、しっかりとした重みが竿に伝わる。
重みでしなった竿のテンションが一気に開放されると「ピシッ」と竿が空を切り、ダニエルが沖のなぶらめがけて飛んで行った。
 
「ガツ!」
ダニエルがなぶらの輪に命中し、糸ふけをとるためリールを巻いた瞬間に手元に大きな衝撃が伝わった。その瞬間、竿を立てて魚の口に針が深く刺さるように「合わせ」を入れる。
「かかった!」
それも結構な大物である。魚をばらさないよう慎重に竿を立てながら糸を巻き、時に緩め、魚と駆け引きをする。この時間が釣り師の至福の瞬間なのである。
 
そして、釣りおじさんはバトルに勝利した。2カ月ぶりの勝利である。
狙っていたヒラメではなく、釣り師には愛称「シーバス」と呼ばれるスズキが釣れた。
 
興奮冷めやまぬまま、浜にあがったシーバスの大きさを測っていると、周りで釣っていた釣りおじさん達がぞくぞくと集まってきた。そして皆、こう聞くのである。
「どのルアーで釣れたの?」
「色は?」
きっとこの後、この釣りおじさん達も、また新たな相棒を求めて釣具屋に向かったのであろう。
 
ポケモンが成長して強いキャラクターになることを「進化」と言うらしい。私は思う、釣りおじさんはきっとポケモン少年の進化系なのだ。
 
 
 
 
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2021-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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