コロナ禍はクラスのいじめのようなもの
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記事:赤羽かなえ(ライティング・ゼミ超通信コース)
小学4年生の時にいじめにあっていた。
「○○菌」
と呼ばれ、菌として扱われ始めた。
よくありがちな話だが、よくあるから仕方ないよでは済まないくらい記憶にくっきりと傷跡が残っている。
不幸中の幸いというべきか、女子は味方で、男子だけが私を避けた。
私が触るものを彼らは、汚い、と言って逃げまわった。
といっても、いじめて来るのはごく一部の男子だけ。
それでも、その他大勢の男子もだんまりを決め込んだ。
見て見ぬふりをして、近寄らなかった。何もしてないのは善人ではない。無言の加害者だ。
私がどんなにきれいに身体を洗っても、どんなに服装に気を遣おうとも、一部の男子たちは執拗に私のことをつつきまわした。
しんどかった。
でも、それ以上に胸が痛んだことがある。
私もまた、かつて無言の加害者だった時期があったことを思い知らされたからだ。
ターゲットになっていた子を見殺しにしたしっぺ返しなのだ、とその罪の重さがのしかかった。
久保さんは小学1年生の頃にいじめられていた。私の時と違い、クラスの大半が久保さんのことを避けていた。
私は、彼女のことは好きでも嫌いでもなかった。でも、ここで彼女と仲良くしたら、私までとばっちりが来るかもしれない。
そう思ったら、久保さんをかばってあげることはできなかった。
彼女にとっては、私もまた加害者だ。
直接いじめる同級生たちとなんら変わらない。
その時には後ろめたさを感じつつ、私には何もできないとあきらめて声をあげることもしなかった。
ある時、しつこく絡まれる久保さんと目が合った。私は、そこに何もなかったかのように目線をそらした。そのあとにそっと視線を戻した時に胸にとげがささった。久保さんの上目遣いの奥に光るあきらめの視線を、私は忘れられない。
4年生で久保さんと同じ立場を体験して、他の子にそんな気の毒な思いはさせないと心に誓った。
それなのに、私は気づいてしまった……私はまた、なにもできないとあきらめて、声をあげることをやめている、ということに。
今回の新型コロナウイルスの騒ぎは、あの時の状況そのままなのだ。
最初の頃、まだウイルスの概要が見えていない時には確かに不安もあった。でも、それ以上に、この一連の騒動は私の胸をやたらとざわつかせた。
ウイルスに罹患したら社会的に死ぬ、と思った。
ウイルス以上に人の目が怖かった。
ざわざわは、ウイルスへの不安とは違うとは思っていたが、正体がわからなかった。
それが、あることをきっかけにようやくわかった。
友人が社長を務める会社でゴールデンウィーク中にPCR検査の陽性者がでたという話を聞いたのだ。その時に会社のサイトで公表しなくてはならない、ということでサイトの書き換えをしたそうだ。
「うちの社員はゴールデンウィーク中に罹患したから、会社や営業先には一切迷惑をかけていないのに、会社のサイトに『この度は大変なご迷惑をおかけし申し訳ありません』と書かれていたんよ、どう思う?」
友人の社長は怒ってその文言を消させたんだ、と言った。その社員は、ただでさえPCR検査で陽性者になってしまったことに多大な心痛を抱えているだろうに、そのサイトの文言を見たらどんな気持ちになるのか。しかも、同僚がその文言を書いているのだ。症状が収まって会社に出勤するときに周りの目が気になって、さぞかし出勤しづらいだろう。社内外の対応が厳しくなったら自分のせいだと責めるだろう。なんで、大事な仕事仲間にそんな仕打ちができるんだ。友人は語気を強めて怒りをあらわにしていた。
「ウイルスに感染するのは、本人が悪いわけじゃない。これだけ世の中が対策、対策ってやっているんだから、そんなにひどい落ち度があるわけがない。今回は大変でしたね、体調は大丈夫ですか、の気持ちが前に出ない社会ってどうかしてる」
社長という立場にあって、無言の圧力に屈せずに意見を述べられる友人を心から尊敬した。
それなのに、私はなんだ。
人と同じようにしていないと、人と同じことを言わないと、社会からつまはじきにされてしまう。おかしいことがあっても、心のブレーキがかかって自分が正しい、と思う方向にちっとも進めていないじゃないか。
子供のマスク着用だって、脳への酸素不足が懸念されているというのを心配しながらも学校に働きかけて、少し外せるような機会を作ってください、などのお願いすらできてない。
口にするマスクを、心にも目にもしているような、全てから逃げ出しているような気分になった。思ったことが言えないなんて、私は30年以上たっても、小1のあの頃のまま何も進歩していない……それが悔しくて悲しくて、うつむいた。
「去年はコロナの騒ぎが終わったら……なんてみんな簡単に口に出してたけど、誰かの噂とかテレビでこう言っていたからとかじゃなくて、人が正しい知識を勉強して自分の意見を言えるようになって、お互いがお互いの想いを尊重できなければ、一生こんな騒ぎ、おわらないよ」
友人はそう思わないか、と、まっすぐに私を見ながら問いかけた。
私は、友人を正視することができなかった。
友人の目に小1の時いじめられていた彼女と同じあきらめの目があったら怖い、そう思ったからだ。
私はなにをすればいいんだろう?
何が正しいのだろう?
加害者だらけのこの世の中で、私がまず変わるためにはどうしたらいいのだろう?
わからないことばかりだけど、一つ言えるのは、もしPCR検査で陽性になってしまった、という人に出会ったら、
「大変だったね、何かつらいことがない? 手伝えることがあったら、遠慮なく言ってね」
という相手を思いやる気持ちを忘れたくない、ということだ。
責める気持ちよりもいたわる気持ちを大切にしたい。
自分がされたいことを、することしかできないから。
***
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