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メディアグランプリ

親の写真を撮るということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:まちだ ねこいち(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
数年前、私は一眼レフのカメラを買った。嬉しくてあちこちへ持っていっては面白いと思うものをバシバシと撮った。実家へ帰省するときにも、実家の近所の風景を撮ろうと思いそのカメラを持っていくことにした。
 
私は20年前に就職をきっかけに24歳で実家を出て、44歳の今は実家とは飛行機が必要な距離のところに住んでいる。両親は60代半ばで、父親は10年ほど前から在宅で仕事をしている。母親はパートの仕事をしながら、家では父親の仕事も手伝っている。帰省するのは1年に1回か2回くらいだ。
実家に帰ると、次の食事まで暇な時間があった。もはや実家を離れて長いので、私のものは大半が処分されており、特にやることもない。その時ふと、家で仕事をしていた父親の写真を撮ってみたくなった。
父の仕事部屋に入って「写真撮っていい?」と声をかけると、父は不思議そうな顔をしたが、いちおう黙って撮られてくれた。急に家の中で写真を撮り始めた娘に怪訝さを抱いていたかもしれないし、もしかしたら遺影になる写真を撮ろうとしていると思われたかもしれない。だがとにかく、パソコンに向かって作業をする父親の写真を撮った。それまでは父が仕事をしている姿をあまり見たことがなかったし、ましてや仕事中の写真など撮ったことがなかった。
続いて、家事をしている母親の写真も撮ってみた。いつもの普段着のままでいろいろと手を動かしている、実家にいたときも見ていた姿のままを撮った。
考えてみれば、自分が大人になってから親を写した写真はほとんど手元になかった。あっても、たいていは結婚式などのイベントや旅行先で撮った記念写真がほとんどで、普段の生活や仕事をしている姿の写真はなかった。
 
親の写真を撮りながら、私の心の中にはうっすらと不思議な感覚が湧いていた。
同じ家族を撮るのでも、小さい子供の写真を撮るのと、親の写真を撮るのとでは、撮る側の心に異なる感覚があるように思った。小さい子供を撮るときは、ただそのありのままの可愛い姿を留めたく、まだ見ぬ将来、真っ白な未来のイメージを撮っている気持ちだ。一方で、親の写真を撮るときはどうだろうか。
自分はいま44歳、親は65歳。当たり前だが、私は約20年後には今の親の歳になっている。20年というと長いように思えるが、自分が40代になってからは、それがそれほど遠くないことと思えるようになってきた。歳を重ねるにつれて、親との年齢差が縮まってきた感じとも言える。
最近、自分の手を見てびっくりすることがあった。指のシワの感じや皮膚のよれた感じが、自分が20代の時に見ていた、40代のときの母親の手にそっくりだったからだ。そのことに気づいたとき私は、私と親との間にある動かしようがない「つながり」をこれまでになく意識した。
自分がこれからの人生でたどる道は、今現在の親の姿につながっているのだ。もちろん全く同じではないが、私が親の写真を撮るとき、私は自分自身がこれからたどる道の1つの可能性を今の親の姿に見ているのではないか。親の写真を撮っているときに感じた不思議な感覚は、そうしたことを無意識に考えて、本当はまだ見えないはずの自分の未来を見ているという感覚だったのではないだろうか。
 
そう考えると、カメラのファインダーから親の姿を覗くことは、占い師が持っている水晶玉を覗くようなものだ。私は20年後、こんなふうに家で過ごしていて、こんなふうに仕事をしているのかもしれない。「かもしれない」程度の精度だが、私と親との間の「つながり」を意識した今、それはある程度の説得力をもって私の心に映し出される。水晶玉に映るのは、インターネットで検索できるような、誰にでも通用する汎用的な過去の情報ではない。私という個人に特化した、今はまだ存在しない20年後の未来の姿という特別な情報だ。
写真を撮るという行為には、単に肉眼で見るのとは違って「この時、この姿を写し取りたい」という撮影者の意図が働く。私が親の写真を撮る時には、親自身の今の姿を残しておきたい気持ちももちろんあるが、他方では自分の将来の姿を見てみたいと思う場面を、無意識のうちに選んで撮っているのかもしれない。つまりは水晶玉に向かって「私は20年後、どんな姿で、どんな風に生活している?どんな風に仕事している?」と問いかけながら、その姿を写し取るというのが、私の「親の写真を撮る」という行為の一つの側面なのだ。
 
その水晶玉も、いつかは映らなくなるときがやってくる。気がつけば両親はもう年金をもらえる歳になっている。新型コロナウイルスの影響もあって、ここ2年ほどは帰省できていないし、これからいつ帰省できるようになるかもまだわからない。ネット通話で親の顔は見られるが、普段の生活の様子を写真に撮ることはできない。
これからあと何回、実家に帰ることができるだろうか。あと何回、水晶玉を覗くことができるだろうか。帰省できるようになったら、また親の写真をたくさん撮っておきたい。いつもどおりの家での様子を。仕事をしている様子を。たくさん、たくさん撮っておきたい。
 
 
 
 
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2021-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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