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メディアグランプリ

スマホのない2時間


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:宮崎亜子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
83.4%。
これは総務省が発表している、2019年におけるスマホの世帯保有率だ。
今や電車に乗れば、乗客のほとんどはスマホを手にしている。最近では、スマホを見ていないと不安になるという「スマホ依存症」なんて言葉も生まれている。
 
自分はスマホ依存症だろうか?
確かに無いと困るが、それほど依存している自覚はない。そう思っていたが、実はどっぷり依存していることに気付いた出来事がある。
 
数年前のことだ。ある日突然、iPhoneのバッテリーが異常に早く減るようになった。新宿のApple Storeを訪ねたところ、バッテリーが劣化しているので交換すれば直るとのことだった。週末のApple Storeは混雑しており、スマホを預けて修理を依頼し、2時間後に受け取ることになった。
簡単に直りそうで良かったと一安心。せっかく新宿まで来たので、美味しいランチでも食べるか、と店を探そうとする。
 
しかし。
スマホがないのである。
たった今修理に預けたのだから当然だが、いきなり路頭に迷うことになる。普段なら、食べログでエリアやジャンルから良さそうなお店を調べるところだが、スマホがない今はその手段がない。
まだスマホが存在しない頃はどうやって店を探していたのだっけ……。仕方なく、周辺を見渡しながら挙動不審気味に歩き、視界に入ったカフェ風のお店に恐る恐る入る。
店内は落ち着いた雰囲気で、食事も美味しそうで安心した。席についてメニューを選び、注文する。お水を飲んでふっと一息。
 
さて。
やることがないのである。
いつもは注文を待つ間、SNSを眺めたりニュースをチェックしたりしてスマホをいじっているが、今はそのスマホがない。はっきり言って手持ち無沙汰だ。バッグの中をゴソゴソと探してみても、時間を潰せるものは何もない。たまたま化粧ポーチに入っていたハンドクリームで手のマッサージをしてみるが、ものの2分で終わってしまう。私は自分の手やコップの水滴を睨みながら、早く料理が来てくれることだけを祈っていた。
 
そしてようやく料理が来た。季節の野菜を使った、おしゃれなワンプレートランチだ。美味しそうな料理は食べる前に、当たり前のようにスマホで写真を撮りインスタにアップしていた。
だが、カメラがないのである。
せめて記憶に焼き付けようとじっくり観察する。しかし、例えば10分後にどんなランチだったか絵に描けと言われたら、恐らく何も描けないだろう。人の記憶力なんてそんなものだ。つくづく写真に残すことの意味を感じる。
 
時間をかけてゆっくりと味わい、店を出る。
まだまだ時間はあるから買い物でもしよう。そういえば、さっき使ったハンドクリームの残りが少なかったから、新しいものを買おう。
コスメショップで商品を物色しレジに向かうと、店員さんが
「LINEで当店のお友達登録をしていただくとクーポンが使えますが、いかがなさいますか?」
 
残念!
LINEが使えないのである。
スマホがないと損をする時代なのか。スマホがないと友達にもなれない時代なのか。まるで世間から隔離されたような気分になりながら、店頭価格でハンドクリームを買って店を出る。
 
まだ時間はあるが、スマホが無いという不安は、ショッピングをする気力と体力をも奪っていた。そうだ、本でも買って、スタバで読みながら時間を潰そう。
私は普段、いつか読みたいと思った本はAmazonのほしい物リストに入れておき、気が向いた時に買っている。さて、欲しいものリストに何を入れていただろうか。
 
不思議。
何も思い出せないのである。
本のタイトルも、著者すらも。
リストにぶち込んで安心していた私は、欲しい、読みたいと思った感情も記憶も、自分の頭に残すことを放棄していた。リストに入れたまま何年も放置し、「あれ、何でこれ欲しいと思ったんだっけ?」と分からなくなり、いつの日か削除することも、ままある。
とりあえず平台に積まれた話題作の中から面白そうな1冊を選び、スタバに向かった。思えば紙の文庫本を手にするのも久しぶりだ。スマホがない今、手元に何かがあるというだけで安心する。
 
何気なく選んだその本は期待以上に面白く、たまにはスマホから離れて時間を過ごすのも良いな、と感じた。
しかし、それはそれとして、やはりスマホがないのは不便で退屈だ。
「スマホがなくて困っている」というこの状況こそ、SNSで誰かに伝えたいのに、その手段がないのがもどかしい。昔だったら、次に友達に会った時に「この前こんなことがあってね……」と話していただろうが、今はスマホでリアルタイムに「今、何してる?」を発信することに意味がある時代だ。それができないストレスは想像以上だった。
 
スマホには、近くにある美味しいお店の情報も、買い物をちょっとお得にするサービスも、私の興味や関心も、そして何より大事な友達とのつながりも、全てが入っている。
私の一部、生活の一部、というよりも私が生きる世界の一部、いや大部分であった。認めよう、私はもうスマホなしでは生きられない。
これは依存ではない。共存だ。
スマホによって生活は便利に、楽しく、豊かになっている。大袈裟だが、生きる上での相棒とも言える。デジタル・デトックスなんて言葉もあるが、私は今のところ、この相棒を手放すメリットが見いだせない。だって、徹底的に活用した方が楽しいに決まっている。覚悟を決めて、スマホとは「一心同体」「一蓮托生」と行こうじゃないか。
 
長い長い2時間をやり過ごしてApple Storeに戻り、ようやく私の手元にスマホが戻ってきた。
この時の安心感たるや!
おかえり、私のiPhone。もうどこにも行かないでね。
そんな気持ちで、大切な我が子のように、スマホをギュッと握りしめた。
 
そして帰りの電車。
無意識にスマホを開いている自分がいる。
スマホのありがたみを実感した2時間だったが、すぐにスマホがあることが当たり前の日常に戻るだろう。それでいいのだ。
 
「スマホ、復活!!」
私はFacebookに、文字を打ち込んだ。
 
 
 
 
***

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2021-06-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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