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メディアグランプリ

私の人生を彩るレシピ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内藤睦(ライティング・ゼミ書塾)
 
 
40代の私には、大切なものがある。コツコツ溜めたレシピの切り抜きだ。
大学に入った時に一人暮らしを始め、自炊に取り組んだ。その時、参考にしたレシピ本やレシピの切り抜き、雑誌のホチキス留め付録などを今も残している。
スーパーに置いてあるレシピカードや、新聞の料理欄に書かれていたものの切り抜きをノートに貼ったもの、ティーン雑誌の「パスタ特集」や「イチゴを使った手作りお菓子」なんていう料理特集を雑誌から外してホチキス留めしたもの。
 
今やササっとスマホで検索すれば、レシピはごまんと出てくるから、最近のものはほとんどない。切り抜きを見返す機会もなかなかない。
でもたまに「そう言えばあの料理作りたいな」と思うとゴソゴソと取り出して眺め出す。
そうすると、まるで私のもう一つのアルバムのように、当時のことを思い出す。
 
もう30年近く前のレシピ。チーズケーキや定番のカルボナーラなど、今でも通用するレシピなのだが、やはり完成写真が今のとは全然違う。お弁当を包んでいる布がバンダナだったり、お皿が結構な柄物だったり、お皿の周りにカトラリーやお花やらがいろいろ飾りつけられて、ごてごてしている。
お菓子作りコンテストで入賞し、レシピとともに顔写真が掲載されている読者はすだれ前髪のソバージュだし、その裏のページにはデビューしたての頃の本上まなみが出ている爽健美茶の広告があったりして、その当時を思い出させる。
 
そしてそれらのレシピを眺めて空想を膨らませていた20代のワクワクする気分が蘇る。
 
あの頃、私はワンルームマンションで電気コンロが一つと流しと小さな備え付けの冷蔵庫と炊飯器と、親にねだって買ってもらった一人暮らし用のオーブンレンジだけで料理していた。調理台は流しの上に渡したまな板だけ。
電気コンロは熱しにくく冷めにくい。汁物とメイン料理を同時に温かくいただくことが難しい。冷蔵庫は小さく、冷凍機能がない。
 
それでも、私はレシピを見ながら空想を膨らませ、数々の料理にチャレンジした。
「この料理ができる自分はオシャレな自分。今はできないけど、やってみてできる頃にはきっと今より素敵な自分になっているはず」と思えた。狭い調理台でみじん切りにした玉ねぎを全部床にこぼしても水洗いしてチャーハンを作った。
お菓子作りはもっと楽しかった。
卵白を自分の腕で泡立て、動画レシピなんぞないので「切るようにさっくり混ぜる」を感覚でやり、手をかけて作ったケーキ生地をオーブンレンジに入れ、次第に膨らんでいく様子を、オーブンレンジの窓から何度もうっとり眺めた。バターの甘いいい匂いに満ちてくる部屋の中でうっとり何度も見ていた。
「明日、友達におすそ分けしよう」といきなり思い立ち、夜に焼き菓子を何度も作った。「手作りはちょっと……」というようなケースはその頃はなかったと思う。
深夜、一人暮らしの小さな部屋に、バターの甘い匂いが満ちてくると「友達が喜んでくれるかな」と思ってワクワクした。
 
そのような数々の思い出が詰まっている私のレシピ達。見ていると、時が経つにつれて忘れてしまった感覚を思い出す。
あの頃の人生がそこにある。棺桶に入れてほしい、とさえ思う。
 
そして思う。
よいレシピとは、その料理の作り方がわかりやすく説明されているだけでなく、見る人を楽しい気分にさせてくれるものなのだ、と。
 
料理に必要な材料と手順がシンプルに書かれているだけのレシピもある。
「急いで、冷蔵庫にある豚バラとアスパラとキャベツで何か一品作りたい」というような時には、必要な情報だけで十分である。
でもよいレシピとは、必要に駆られていない時にも思わず手に取って眺め、読み手にその料理を作るとどんなよいことがあるかを想像させる力がある。
 
この料理を作って写真をSNSにアップし、食べることで得られる「きちんとした食生活を作れる自分」というイメージ。
家族の誰かが好きな具材が入った新しいメニューは、その人が喜んでモリモリ食べる様子を想像させる。
お菓子が上手く作れて家族で食べたら、楽しい団らんの時間となるだろう。
 
レシピを見ると料理の腕に自信がなくても、何とかなりそう。そして楽しくなれそう。「よし、作ってみよう」と思わせる。
よいレシピは見る人を素敵な気分にし、その人を動かす力さえある。
 
よい文章もそういうものではないだろうか。
 
何も起こらなければもうそろそろ人生折り返し、という地点にいる私の中には、書く材料がだいぶ溜まった。そしてそれらの材料を活かすオリジナルレシピも多少作っている。
しかし私のレシピはまだまだ業務用だ。
必要に迫られた人が必要な情報を得るために読めば役立つとは思うが、私が書きたいのは、時間がある時に手に取ってパラパラと眺めたくなるようなもの。
まだまだその域には達していない。
時に読み手が「読みにくいからやーめた」と途中で読むのをストップしたり、「結局作り方がよくわかんない」と思わせたりするような部分がまだまだある。自分勝手だし、表現力がまだまだだ。
 
よい文章は、きっと読み手を飽きさせず、読み手にその文章を読みながらいろんなことを考え、想像させる。
そして実際に行動してみたくなるような説得力があるので、「筆者のように考えてみようかな。行動してみようかな」と思わせるはずだ。
 
目指すレシピを書くために試行錯誤する。時に「自分の中には特段、目を引くようなものはないのではないか」「自分には書けないのではないか」と思うこともある。
 
そんな時、知っている起業家さんが言っていた言葉を思い出す。
「肉じゃがのレシピって星の数ほどいっぱいある。メニューに独自性がなくても、『その人が作ったレシピがいい』という人がいるならそれが価値になる。自分の商品も同じだ」と。
私の持つ材料は平凡かもしれない。でも、まだ工夫次第で、読み手が好きになってくれるのではないだろうか。
まだできることはあるのではないだろうか。
 
あのワンルームの小さなキッチンで何度も料理に取り組んだように、何度もオリジナルレシピ作りに取り組もう。
そうすればきっと、自分が作って食べて美味しいだけでなく、読んだ人にも楽しい空気と希望と、その人だけの思いをおすそ分けすることができるはずだから。
 
 
 
 
***

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2021-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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