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「ホタルが舞うのをみて思うこと」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:青木 文子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
週末、ホタルを見に行った。
岐阜は田舎だ。車で数分走った川べり、水辺の暗がりで佇んで待つ。ひとつ、ふたつ、ゆらゆらと小さい点滅する光があたりを舞いはじめる。周りにはホタルを見に来た親子連れがいたりして、みんなでホタルに見入っている。
 
生物季節観測というものがある。気象庁が生物や植物の季節の動きを観測して記録をとっているものだ、テレビのニュースなどで
「今日は東京でホタルがこの季節はじめて観測されました」というように、季節のたよりとして伝えられるものは、この気象庁の生物季節観測を元にしている。
 
生物季節観測は、よく伝えられる「桜の開花・満開」のほかにも、植物が34種類、動物は「ホタルの初見日」「つばめの初見日」など23種類が観測対象となっている。
 
この生物季節観測の記録が、全国統一で行われるようになったのが1953年からというから、すでに70年近い観測記録が各地で積み重ねられている。これは正直に言ってすごい。
 
ところが、先日気象庁は、2021年1月から生物季節観測を大幅に縮小することを発表した。23種類の生物季節観測が、2021年1月からは6種目9現象に大幅縮小されたらしい。
 
動物の観測はすべて廃止。植物は「うめ(開花)」「さくら(開花・満開)」「あじさい(開花)」「すすき(開花=穂が一定以上出ること)」「いちょう(黄葉・落葉)」「かえで(黄葉・落葉)」のみに限定するという。
 
生物季節観測を縮小するのは、動物は気象台の周辺では見つけるのが難しくなってきているので全部廃止するのが理由という。植物も観測環境が悪くなってきているので代表的なものだけに減らします、ということらしい。
 
今年は桜が早く咲いた。早く咲いて、早く散った。
毎年であれば、入学式には終わりかけの桜の樹の下で記念撮影をすることもできたのに、今年の桜は、4月の入学式を待たずに散っていった。
 
今年の桜はどのくらい早く咲いたのだろうか。今年は東京の桜の開花日が3月14日、満開日が3月22日である。平年で東京の桜の開花日は平均で3月26日、桜の満開日は4月3日なので、どちらも12日も早かったことがわかる。
 
桜の開花日や満開日がわかったり、その平年日がわかったりするのは、気象庁が観測を続けているからだ。
 
テレビの天気予報で「東京で桜の開花宣言が出ました。千鳥ヶ淵の桜はすでに三分咲きです」とお天気のお姉さんがはっきりと伝えられるのは、全国の気象台で桜の開花日などのデータをとっているからなのだ。
 
大学時代、私は生物同好会というサークルに入っていた。同好会の中には班が4つ。動物班、鳥班、植物班、虫班。その中で私は鳥班に所属していた。鳥班の活動の柱のひとつに、石神井公園の三宝寺池周辺の鳥の調査記録を活動があった。
 
東京三鷹石神井公園。毎月1回決められた日に石神井公園駅にサークルの鳥班の仲間があつまる。石神井公園駅から歩いていくとみえてくるのが三宝寺池。公園の入口から調査がはじまる。首から下げているのは双眼鏡。かばんの中には鳥類図鑑。
 
サークルの仲間たちと数人と入り口から歩きながら、鳥の姿を探す。もちろん鳥の姿はみえないことが多くて、鳥の声でどの種類が何羽いるか確認する。そして手元の手帳に記録していく。
 
「今年はもうつばめが来ているのだ」
「もう、オナガガモが渡ってきているね」
 
毎年、毎月同じコースを同じ時間帯に歩く。そして観た鳥や植物を記録していくと小さな変化に気づいていくようになってくる。この生物同好会の石神井公園三宝寺池の鳥類調査は1966年にはもうはじまっていたと聞くので、今も続いているならば、気象庁の生物季節観測には負けるが、じつに50年以上の記録が重ねられていることになる。
 
記録を重ねるということは変化がわかるということだ。変化がわかるということはその理由を考えたり、原因を探したりすることができるということだ。そして変化がわかるということはそこに発見があるということだ。
 
桜の開花日は生物季節観測として観察は残るけれど、これからは各地のホタルの初見日は生物季節観測としては記録されない。これを聞いて、とてもがっかりした気持ちになった。私自身が生物同好会にいたこともあるが、私にとって生物季節観測は楽しみなもののひとつだったから。季節の変化はひとつとして同じものがない。毎年なにかしらの変化があるものだから。
 
「観天望気って知っているか?」
 
昔、父から聞かれたことがある。
 
「かんてんぼうき? ってなぁに?」
 
小学校低学年の私はもちろん知らない言葉だった。観天望気=かんてんぼうき、は子供の頃に父から教えてもらった言葉のひとつだ。
 
「船に乗る人は必ず空を見る。この雲が出ていると海は荒れそうだな、とか。この風の吹き方なら今日は日和が良さそうだな、とか予想することを観天望気というのだよ」
 
観天望気とは、生物の動き方や、雲や風の自然現象を観察して天気などを予想することだ。私達は生活の中でその知恵を蓄え、そして口伝えにそれを子どもに、孫に手渡してきた。
 
これはもちろん生活の知恵だけれども、同時に生活の豊かさでもある。日本には四季の変化があって、それは毎日の生活とつながっている。ことわざや文学にも、四季折々の自然の様子が表現される。これは自然を愛でる私達日本人の持つ心の現れだ。
 
「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
 
と短歌に詠んだのは在原業平だ。
春はのどかな季節なのに、桜があるゆえに、桜がいつ咲くだろうか、いつ散ってしまうだろうかと心がさわぎたてられてしまうものよ、と桜に気持ちがうごかされる様子が歌われている。
 
そう、私達は季節に心を動かされている。自然の移ろいは私達に豊かさをくれている。
 
生物季節観測は動物の観測も植物の観測も機械ではできないものばかりだ。つまりアナログであある。気象台の人が実際に目で見て、耳で聞いて観測したものを記録にするしかない。
 
でもだからこそ、残してほしいと思う。記録はし続けていくことで変化が見えてくる。人が自然を目で見て耳で聴く記録の意味。生物季節観測の記録の重なりは私達の大事な文化であると思うのだ。
 
 
 
 
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2021-06-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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