メディアグランプリ

私の宝物、ヘレケの絨毯


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:津田智子(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
絨毯を買うためにトルコに来たわけではない!
 
私が夏の旅行先にトルコを選んだのは、東西文明の十字路と言われる国に惹かれたからだ。世界三大料理の1つと言われるトルコ料理を味わってみたかったからだ。本物のトルコ風呂に入ってみたかったからだ。古代ローマ遺跡やさまざまな奇岩が林立するカッパドキア、白い石灰岩からなる棚田のような温泉地パムッカレを自分の目で見たかったからだ。
 
トルコの絨毯なんてまるっきり興味がなかった。
 
だから、トルコ西部10日間パッケージツアーの中盤で郊外の絨毯屋さんに連れていかれたときにはがっかりした。「こんなところで貴重な時間を使いたくない。買い物に時間使うくらいなら、一人で別行動して町中をぶらぶら歩こうか……」と思ったが、この絨毯屋さんは小さな村の林の中にある。残念ながら一人で抜け出しても何も見るものはなさそうだ。
 
我々ツアー客20名ほどはまず博物館に通された。織機や精巧に織られた絨毯を見終え、そのままぞろぞろと廊下を進んでいくと、絨毯を敷き詰めたホールに到着した。
 
「ここで執拗な押し売りが始まるのか」と思うと、思わずため息が出た。私は絨毯を買うつもりは毛頭ないし、そもそも絨毯自体に全然興味がないのだ。仕方ないのでボケーっと突っ立っていると、20~30代の威勢のいい若者5~6人がニコニコしながら紅茶を運んできた。
 
「皆さま、さぞかしお疲れでしょう。お茶でも飲んでゆっくり休んでください。どうぞどうぞ、絨毯の上にお座りください」こんな田舎町にも、こんなに流ちょうな日本語を話す若者がいるのか……。正直驚いた。
 
若者たちは空のお盆を持っていったん下がると、次は各々絨毯を2~3枚抱えてホールに戻ってきた。と同時に、それまで開いていたホールの出入り口6か所がすべて閉じられた。つまり、私たちはホールに完全に閉じ込められたわけだ。もう逃げも隠れもできない……。
 
目の前には絨毯が並べられている。どこに目を移そうが、見えるものは絨毯のみ。ホールを見回すと、いつの間にか絨毯商人1人につき日本人4人のグループができていた。「ほかの皆は絨毯買うつもりなのかしら?」
 
こうなったら、興味はないけど話を聞くしかない。絨毯の勉強のつもりでしばらく付き合うか、と観念した。
 
目の前では目鼻立ちがくっきりしたイケメン男性が絨毯の説明をしている。横3メートル縦2メートルもある大きな絨毯だ。「これはウールの絨毯。とってもあったかいです」いやー、いくら温かくても、私の家にはこんな大きな絨毯を置くスペースはないし……。すると、私の心の声が聞こえたのか、「もっと小さいのもあります」と言って、奥に引き下がった。いやー、どんなにたくさん持ってきてくれても、買うつもりないから……。
 
数分もたたぬうちに、イケメン君は倉庫から1メートル弱の小さな絨毯を数枚持ってきた。「トルコの絨毯にはウール以外にコットンのものもあるし、シルク製もあります。これは縦糸がシルクで、横糸はコットン。これは縦糸も横糸もシルクです。この文様、見て下さい。きれいでしょう?」
 
どれどれ……。ふむふむ、確かに美しい。シルク製はウールやコットン製とは全然違って光沢がある。実用品というよりは工芸品だ。美しすぎてとても床には敷けない。足で踏んだら罰が当たりそうだ。
 
私はついさっきまで仕方なく見ていたのに、いつの間にか身を乗り出し、織り込まれているカラフルな花々に見入っていた。そこには、ピンク色の花もあれば、紺色やエンジ色の糸で縁取りされた薄オレンジ色やベージュ色の花もあった。
 
「お姉さんが見ているのはヘレケ絨毯。ヘレケはオスマン帝国の皇室ブランドです。これらのきれいな花のデザインはヘレケの特徴です。ヘレケ絨毯は宮殿のために織られたもので、とっても芸術的なのです」
 
へえー。皇室ブランドかあ。絨毯にもセレブブランドがあることを知り、急に興味が出てきた。
 
「シルクは糸が細いから織るのがとても大変です。シルク絨毯は1センチ織るのにも数時間かかります。毎日コツコツと織り続けても、この70センチ×50センチの絨毯を完成させるには、数か月かかるのです」
 
1センチに数時間、1枚には数か月もかかる……。ということは、この絨毯には、気の遠くなるような時間も織り込まれているのだ。
 
「トルコでは、女性は絨毯をきれいに織れないとお嫁に行けません。女の子は10代から絨毯を織り始めます。この小さな村には、他に仕事もありません。若い女の子たちは一生懸命、心を込めて、毎日絨毯を織っています」
 
ということは、これは10代から絨毯を織り続けた女性たちの汗と涙の結晶ではないか。この話を聞いた時点で、この1枚は私にとってただの絨毯ではなくなってしまった。これを見ているだけで、彼女たちの暮らしぶりが映像として立ち上がってくる。彼女たちはとてつもない時間をかけてこんなにも美しいものを作り上げてくれたのだ……。そのことに素直に感謝の気持ち伝えたくなる。そして、彼女たちの肩をもみ、手をさすってあげたくなってくる。
 
私は俄然、「このヘレケ絨毯を買う」と決めた。最初に惹かれたきっかけはその美しさだったが、購入を決めた一番の理由は、日本に帰っても、この小さな村でコツコツと伝統工芸に向き合う女性たちを思い出し、共に生活したいと思ったからだ。
 
イケメン君の提示価格は30万円だったが、20万円まで値切った。それでもこのときのツアー代金13万円を大幅に上回る価格だったし、私にとっては大きな買い物だった。
 
それから15年近くたったが、今でもたまにその絨毯を広げ、美しい文様に見とれて幸せな気持ちに浸ったり、遠く離れた村で今日も絨毯を織り続ける女性たちに思いを馳せたりしている。
 
全く買うつもりがなかった絨毯が、今や私の一番の宝物となっている。

 
 
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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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