メディアグランプリ

自意識、それは大切でやっかいなもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:くまはら ひろみ(ライティング・ゼミ日曜コース) 

 
 
自意識を持つことは大切だ。でも、持ちすぎると毒になる。
改めて「自意識」という言葉を調べると、「自分という存在に対して持つ意識」と出てくる。
これが高すぎると「自意識過剰」と呼ばれ、自分は他の人間とは違うと過大評価したり、他人の目を異常に気にするようになったりと、生き辛い人生になるらしい。
特に、自我が芽生える思春期以降は、誰もが自意識に振り回され始める。
私は自意識がらみの恥ずかしい出来事を思い出すと、脳内でハンマーを振り下ろして潰しにかかる。
でも、あいつらはちょこちょこと顔を出し続け、まるでもぐらたたきのように終わらせてくれない。
その度に私は身悶えしてしまうのだ。
 
初めてキクチを見たのは大学の入学式だった。
黒縁メガネにすきっ歯の前歯、おまけにセカンドバックを持っていた。
もっさりとしたオーラを放ったキクチは、新入生なのにまるで保護者のようだった。
同じクラスになったキクチは、よく言えば無邪気、悪く言えば空気の読めない男だった。
概ね、女子からは表面上は普通を装いつつも敬遠されていた。
私も仲の良いクラスメイトとともに「だって、キクチだもん!」と陰でよく嘲笑っていたものだ。
 
学生生活にもすっかり慣れたある日、キクチが「彼女ほしいなぁー」と言い出した。
耳を疑った。おいおい、何という大それたことを言うのだ?
こんなダサいセカンドバックを持っているあんたに彼女なんて出来るわけないやん!
自分のことがまったく把握できていない、何という恥ずかしいやつだと思った。
 
が、それから数ヶ月後。偶然同じ電車になったキクチの傍らには女の子がいた。
ミニスカートに黒いハイソックス、童顔で可愛らしいその子はどうやら彼女のようだった。
彼女は、まるで飼い主に甘える猫のように全力でキクチにじゃれついていた。
そして、そんな彼女をキクチは余裕たっぷりに受け止めていた。
勢い余った彼女が人とぶつかりそうになった時は、さり気なく自分の側に引き寄せる。
人が乗り込んできた時には、自分の体を盾にして彼女を守る。
その姿は私の知っているキクチではなかった。確実に大人の階段を上がっていた。
何ということだ、あのキクチに彼女が出来たなんて!
 
この出来事はずっと心に残っていた。
一体どんな手を使ったのだろう? 私はキクチを分析してみた。
まず、キクチからは卑屈さが感じられなかったように思う。
もしかしたら悩んでいたのかもしれないし、単に鈍感なだけだったのかもしれない。
キクチはいつもフラットだった。だからこそ、願望を素直に口にし、行動して実現することが出来たのだろう。
 
その点、自意識とコンプレックスが異様に強かったあの頃の私。
彼氏がほしい、恋がしたいと口にすることがとても恥ずかしかった。
なぜなら、誰かに私がキクチに対して抱いたような感情を持たれるのが恐かったから。
 
その頃の私は、ガタイが良く太ましかった。
おまけに周りの友達が細かったため、とても肩身が狭かった。
無意識に友達と自分を比べては落ち込み、コンプレックスはどす黒く成長した。
私はこんなだから、せめて普通レベルになるまでは彼氏なんて贅沢品は望んではいけないと思っていた。
そのくせ、たまに好意を寄せてくれる人が現れてもなぜか上から目線になって突っぱねてしまう。
そして、私は平静を保つために「私、恋愛には興味ないの」という謎のスタンスを取り始めたのだ。
何という面倒な女だろう。自分のことながら悲しくなってきた。
あの頃の私はなぜあんなに頑なだったのだろう。
守りに入らず、努力をすれば大きく変わることが出来たかもしれないのに。
あんなにバカにしていたキクチは、頑なにくすぶっていた私よりも遥かに健やかな人間ではないか。
 
あれから数十年経ち、様々な人生経験をして自意識との付き合い方もだいぶんわかってきた。
でも、たまに頑なな自分が顔を出す時がある。そんな時はキクチのことを思い出す。
フラットな状態は素晴らしい、欲しいものを口に出し手に入れることは当たり前のことだと教えてくれたキクチを、今後も頭の隅に置いておこうと思う。

 
 
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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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