メディアグランプリ

ジャイアンリサイタルという老害から学ぶ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山田 真知子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
あたりは爺さんのニオイでいっぱいになった。
おじさんではない,、爺さんである。
「いずれは自分も歳をとり、自分の子どもやら孫たちにクサイと言われる日がくるだろう」
そう思いながらバスに揺られていた。
 
競輪帰りの爺さんたちが、20人ほど乗り込んできた。
運転手の後ろあたりに立っていた私もリュックが邪魔にならないように前に背負う。
 
出口付近に立つ、一風変わった白のスウェット上下の爺さんが私の前にいる小柄な爺さんに話かけた。
「おい、爺さん。あんたも競輪かい?」
「ああ」
ここからスウェットの爺さんによるジャイアンリサイタルが始まった。ドラえもんとのび太が恐れる、ジャイアンリサイタル……ジャイアンの歌(不協和音)を聞く不快な場であるが、今回の主人公はスウェットの爺さんだ。
「どこまでいくんだ?」
「XXX駅だよ」
「今日は勝ったかい?」
「まあまあかな」
「(競輪で)何買ったんだい?」
「XXXとXXX」
大声で小柄な爺さんを質問攻めするスウェットの爺さん。
バスという密室空間で大声の爺さんの話は決して心地いいものではない。
 
しばらくすると出口のすぐ脇にあるシートの乗客が降車しそこにスウェットの爺さんが座った。
「(小柄の)じいさんごめんな。本当は譲ってあげたいんだけどよ。俺も腰が痛くってよ。俺も今年75だからよ」
「いいや、俺は大丈夫だよ」
「そこにいるガキどかして座れよ」
運転手の後ろの位置に座る部活帰りの中学生の男の子を指さした
「いや、俺はいいんだ」
遠慮する小柄な爺さん。
「最近のガキは本当にダメだよな~」
無反応で座る中学生の男の子。イラっとする私。
高齢者に席を譲るのはその人の善意であるし、高齢者が席を譲れと「命令」 するのは違うと私は考えている。
もしかしたら、中学生の男の子は部活を頑張りすぎたせいで、めちゃくちゃ具合が悪いかもしれない。
意地悪な大人の……いや、爺さんの一言で未来の担い手を傷つけないで欲しいと思った。
よく見るとイヤホンで耳は塞がれていて、ホッと胸をなでおろした。
 
ホッとしたのもつかの間、再び事件が起こる。
停車した時、降車する人がいないなと思い後ろを振り向くと、一番後ろの席に座っていた20歳くらいの女性が、爺さんジャングルをかき分けて降車口に向かってきた。
「1000円チャージお願いします」
するとスウェットの爺さんが声をあげた
「おいおい、チャージしとけよなー。こういうガキがいるからバスが遅れるんだよ。バス乗る前に金入れとけつーんだよ!」
女性とスウェットの爺さんの距離1メートル弱。至近距離での暴言。
見ていて非常に不愉快だ。周りにいた人たちも同じ気持ちだったに違いない。
幸い、女性もイヤホンをしていたので、爆音で音楽を聴いていることを心から願った。
 
バスが走り始めると、スウェットの爺さんが再び中学生の男の子を指さし大声をあげた
「しっかし、あのガキも大成しねぇよなぁ」
席を譲らない事を根に持っているようだ。ネチネチ大声で文句を言っている。
もう聞いていられない。周りの人をどれだけ不快にしたら気が済むんだろうか。
私の心の拳は振り上げられた。
もし、スウェットの爺さんが中学生の男の子に「席譲れ」と命令しようものなら、全力で守ってあげようと思った。
 
ほどなくして、私の降りるバス停に到着しバスを降り、実家に帰ったのだが、モヤモヤが晴れないので、このジャイアンリサイタルのような出来事を母に伝えた。
「いやーそれはひどいね。ほんとにひどい。でもおおごとにしなくて本当によかったわよ。あんたは正論を真正面からぶつけて周りとトラブル起こすタイプだから……中学生の男の子や若い女性の方がよっぽど大人よ」
30年以上私の母親でいる人のお言葉は非常に重みがある。
 
母の言う通りだ、ジャイアンリサイタル事件で一番大人だったのは、相手にしなかった若者二人なのかもしれない。爺さんを論破できる大人な言葉が見つからず、心の拳を振り上げた私は一番幼稚な方法だ。
イヤミを大声で言い続ける爺さんと同レベルのような気がしてきた。
もしかしたら、私みたいな大人が歳をとるとスウェットの爺さんのように、トラブルを引き起こしそうな老人になるのではないかと、急に焦りだした。
もしあの場で私が、爺さんに物申して文句をいっていたら、あのバスはとんでもなく悪い空気になっていただろう。そして、正論をぶつける私は間違いなくスウェットの爺さんのような婆さんになるだろう。
「怖いこのままじゃいけない」
上手く説明できないが、急に自分の言動を考え始めるようになった。
少子高齢化時代に突入している今、どのように歳を取るかを考えさせてくれたこの出来事は、今後の私の考え方を大きく変えてくれるだろう。

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2018-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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